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カーニバル

白い霧を連想させる湯気が辺り一面の視界を妨げる。

私は白いバスタオルを身体に巻きつけただけの姿で呆然とその場に立っていた。

……こら、エロい想像してんじゃないのよ。

ここは別にらぶほじゃないし、ましてや私の傍にはぁはぁ言ってる禿げ茶瓶のいやらしいおやぢもいないのよ(えんこーとかいうお下劣な妄想した奴はとっとこ帰るのよハ●太郎)。

極めて健全な大浴場なのよ。……あれ?健全じゃない大浴場って何よ。


「……? 向日葵、どうした? ぼーっと突っ立って……早くお風呂に入るの」


後ろからの可愛らしい声が私の耳に入ってくる。

振り向くと、そこには肩口で切り揃えられたショートカットのお人形さんのような愛らしい顔とペガサスのような白き肌……というダブルパンチなインパクトを持つ男の娘がいた。

そうよ、目の前にいる奴は女の私から見てもムカつくくらい綺麗で、そして可愛らしい女……じゃなくて、男の娘、そうよ、彼奴はオ・ト・コ・ノ・コ、なのよ。オニャノコなのよ。


奴の名前は秋桜。

随分回りくどくなったけれど、とにかくその男の娘も私と同様、バスタオル一枚を裸体に巻いただけの格好で私に続いて大浴場に入場してきた。……色々と突っ込みたいことは山々なのだが、とりあえず、その雌を連想させる内股で歩くのはやめるのよ。


「わっ、うわっ、温泉だっ! 温泉だっー!! にぃに、温泉だよ!! わーいっ!!!」


そして、三番目に気でも狂ったかのように全裸で乱舞しながら入場してきたのは秋桜と同じ容姿の双子の妹、紫陽花なのよ。コイツは秋桜と違って正真正銘の雌なのよ。……おい、お前はそこにいる男の娘を見習うのよ。色んなところが現在進行形で痴部のバーゲンセール状態なのよ。同じ女としてとっても恥ずかしいのよ。あと、温泉じゃなくて大浴場なのよ。


「紫陽花はとっても元気に育ったの、にぃにとして私はとっても嬉しい」


秋桜は湯船でじゃぶじゃぶ泳ぎだすおバカ妹を眺めながら、そんなことを言う。……あれは、果たして元気という一言で片づけても良いのかしら。一度、頭を切開して医者に診せた方が良いのよ。


ピローン、ピローン、ピロピローン♪


……音?何の音かしら?

突然、私の背後から何やらけったいな怪奇音が耳に入ってきたので、私は気になって恐る恐る後ろを振り向いた。


「ぬふっ、ぬふふふ……しめしめ、しめしめ、しめしめ。やはり若き白き女子の肉体はいいモンですなぁ~……。ぬふっ、おっぱいげっちゅ、尻肉げっちゅ、すまいるげっちゅ、ぬふっ、ぬふふふふ……」


旅館の仲居さんみたいな格好をした黒髪のツインテールの女が気味の悪い笑顔で携帯の写メを湯船ではしゃいでいる紫陽花に向けて連写していた。


………へっ、変態がいるのよ。


「……瑠羽るう、そこで何をしているの?」

「……ぬふっ、ぬふふ……って、へ? お、お嬢様? じゃなくて、おぼちゃま!? こ、これはどうも、エへッ、エへへへ……」


秋桜もシャッター音に気付いたのか、後ろを振り向いて目の前の変質者をジッと見つめている。

瑠羽……?名前を知っているということは、知り合い?瑠羽と呼ばれた変態女は秋桜にいきなり声を掛けられてビビったのか、ワンテンポ遅れて、後ろ手に携帯を隠した。……もうとっても遅いのよ変態さん。


「……瑠羽?」

「……うぅ、ごめんなさいですぅお嬢さ、お坊ちゃま。私、あまりに元気にお育ちになられた久しぶりのお坊ちゃまやお嬢様に感激して……つい、ピロピローンっと……うぅ、こんなお馬鹿な瑠羽を許してくださいましお坊ちゃま……」


秋桜にジッと見られて観念したのか、瑠羽はその場で土下座プレイをして許しを請う。

……何がついピロピローン、よ。明らかな確信犯じゃないのよこの変態。……まさか、私の、私の…………いや考えたくない、のよ。お、おぞましいのよ……考えるのは止めるのよ。


「……そう、綺麗にとってあげてね瑠羽」

「……っ、は、はいです! お嬢、もといお坊ちゃま!!」


……あれ?うまいこと話が纏まったのよ。

…………こら、その会話の流れは明らかにおかしいだろ。


「お、およよ? お坊ちゃま? ところでそちらの方は……?」


そして、私に気付いた瑠羽は私の方に向き、秋桜に尋ねる。

……こら、その写メを私に向けるのはやめなさい。


「あ、この子は私の従妹の向日葵。私と紫陽花の大切な友達だからこれから仲良くしてあげてね瑠羽」

「あぁ、いわゆる流行の『セク友』ってやつですねぇ。なるなるー」


こ、こ、こ、この女……。


「初めましてぇー向日葵様ぁ。私、この古臭い家屋でお仕えしている和風メイドの瑠羽と申しますぅ~。で、で、で、で? さっそくで大変失礼なのですが、瑠羽は向日葵様にすりーさいずを教えて頂きたいのです~」


本当に失礼な女なのよ。

くぅ……こんな時に、こんな時に言葉が紡げないのは苦痛なのよ……。

思いっきり、心の底から火山のマグマのように私の胸中は煮えくり返っているわ。

今の私は余裕で放送コードの禁句をバンバン吐けるのよビッチビッチィ。


「あ、あとあと~向日葵お姉様の初潮の時期は? オナヌーの経験値は? セックル未体験ゾーン? 肉棒経験値は? オナヌー使用器具は? あ、最後にぃ、おっぱい診せて下さい! ナニをナニさせてくださいぃ~」


そして私の返事を待たずに怒涛のように目をキラキラさせて次々にエロスな質問をしてくる瑠羽。

お、お姉様……?ちょっ、ちょっと……ち、近い!迫ってくるんじゃあないのよっ!!!


「んぅう~、初登場記念にポロリサービスくらいしてくださいぃ~」


は、初登場記念って何よ!ぽ、ポロリサービスって何よぅ!!

ひゃっ……た、タオルを掴むのはよしなさい!!

ひ、ひぃ!た、タオルがはだけるのよ!やめ、ちょっ、いやっ……こんな所で!!


「……コラ、瑠羽。やり過ぎなの」


ペコン


「ぎゃふん!」


瑠羽の私への凶行に見るに見かねたのか、秋桜は瑠羽の脳天に空手チョップを入れて、そこで瑠羽の暴走は収まった。

は、はぁ、はぁ……こ、怖かったのよ。

も、もう少しで胸がはだけ……えっ、はだけるほどの胸は無いよって?

う、う、う、うるしゃい!!ひ、ひんぬーで悪かったわねぇ!!!ぐすんっ。


「ほら、瑠羽。向日葵を泣かせた罰として今日は瑠羽もお風呂に入るの」

「え~……瑠羽、トルコ風呂には興味ありますけれど、普通のお風呂には興味ないのですぅ」


瑠羽は頬を膨らませ、そう言う。

この女は次から次へとよくもまぁそんな下ネタを吐けるものね……。

まさに、この女は下ネタが服を着て歩いているようなものなのよ……。


「ダメ、絶対。瑠羽もお風呂に入るの」

「あぁ、お坊ちゃま! そんなっ、激しいぃにゃぁあああ!? いたっ、あいたたた!!! おぼちゃまぁああ、擦れてる! 床のタイルに瑠羽が擦れてますぅうう、あっでもおっぱいぎもちぃいい……!!」ずるずるずるずる


そして、瑠羽は秋桜の手によって強制的に更衣室に連れて行かれるのであった。

…………。

どうでもいいけれど、あの瑠羽とかいう女はキャラが安定していないような気がするのよ。


「…………」

「…………あ」ビュッビュッ


そして、二人のいなくなった浴場で私がふと湯船の方に振り向くと、ちょうど紫陽花が両手でぼっち水鉄砲をしていた。


「み、みるなばかぁ!!!」ピュー


…………。

見られて恥ずかしいだなんてちょっと可愛らしいのよ。






『湯船に浸かる前に身体を清潔にするのがお風呂のマナーなの』


そんな秋桜の当たり前のような提案により、とりあえずは四人の女子(一人は男の娘も混じっているが)でツーペアを組んでそれぞれが洗いっこするということになった。いや、何がとりあえずなのかよく分からないけれども……別に個人で洗ったら、と私は思ったけれども紫陽花と瑠羽の強烈なオーラによって私は口を出すことはできなかったのよ。というより、喋れないのでどのみち意味がない……。


「な、何故……どうして、こんな、こんなはずじゃあ……に、にぃにぃ……」

「…………」


私の目の前で涙ぐむ紫陽花。


ペアは公平を期すために、グッパー(じゃんけんのグーとパーを四人で出して、グー同士とパー同士をペアにする方法)で洗いっこペアを決めた結果、秋桜と瑠羽、私と紫陽花という組み合わせとなった。……泣きたくなるのは私の方よ。


「ぬふっ、にゅほほほほほ、おぼっちゃまのお肌はすべすべですねぇ~~すりすり」

「……瑠羽、さっきから同じところばかり擦ってる。それに、くすぐったい」


そして、私と紫陽花から少し離れたところで、秋桜と瑠羽は洗いっこをしていた。

瑠羽は秋桜の背後から必要以上に、お腹周りをボディソープで優しくゴシゴシ擦っていた。

……おい、これはもしかしてもしかしなくても何かのプレイですか教えてエロい人。


「く、くぅぅ……あ、あのびっち……私のにぃにの身体をべたべたべたべたと……きぃいい……! にぃにの、にぃにの肉棒を擦すったら承知しない……! 擦るのは私の役目だからっ!!」


紫陽花は秋桜と瑠羽のやり取りを殺意のこもった眼で見守っていた。

こら、若い女子が擦る擦る言わない。姉妹丼ですか、いやこの場合、兄妹丼……私は一体何を考えているのかしら。


「くぅう……何で、こんなビッチと……」


紫陽花は私を睨みながら、言う。

……おい、誰がビッチよ、誰が。


「……不毛だ。とりあえず、洗う……」


そして、紫陽花はボディソープを自らの手に付ける。

……手?手にボディーソープを付けて……何する気よこの子。


ピタッ


はうっ!?

私の首筋にヒンヤリとしたぬめぬめの触感が走る。

ビックリした私は思わず、目の前の少女から距離を取った。

は、は、はぁ!?な、何この娘!?い、今私のく、首に……触れた!?


「こ、こらぁ! 逃げるなぁ!! 逃げたら、洗えないだろこのビッチ!!」


紫陽花は距離を取った私に対して、何やらすごい剣幕で怒鳴った。

な、何……何なのよ、何で……私の、首……ま、まさか……こいつ、こいつそ、そういうケが……ちょっちょっと待ちなさい!!私にそんな気は……!!そ、それにさっきのぬめぬめした触感は……ま、まさかローション!?(←数十秒前のことも忘れる向日葵さん、さすがです)


「(に、にぃには約束を破るととってもこわい……)に、逃がさないぞ向日葵ぃ!! この手で、お前の全身を隅々までゴシゴシ擦ってやるぅ!!!」


紫陽花はローションでぬめぬめとなった両手をワキワキさせながら、私に一歩、一歩と近付いてくる……。ちょっ、あ、あれは獲物を狩るもとい喰う眼だわ……!わ、私は喰われる兎……!?い、いやっいやいやいや!わ、私は至ってノーマルなのよ……!そ、そんな……ひぃい!やっ、やだっ!わ、私のはじめては年収いちおくえんでお金持ちの笑顔で優しい王子様みたいな人に捧げるって誓ったのよ!!こ、こんな……!こんなのいやっ!!


「こら、待てっ!! 私から逃げるなぁ!!」


じょ、じょ、じょ、じょ、冗談じゃないのよ!!

こ、こんな所で貞操を失ってたまるか!私は後ろを振り向かず、そのまま走った。

……が。


「ふっふっふ、お嬢様ぁ。どうやらお困りのようですねぇ」

「あ、びっち……じゃなくて瑠羽!」


ひっ。

わ、私が逃げる方向に秋桜と洗いっこしていたはずの和風メイドの瑠羽がいた!

は、挟まれ……た!?


「お嬢様、向日葵お姉様の身体を擦るのが手だけでは穴という穴は洗いにくいでしょう……? なら、そんな時はぱっぱかぱ~ぱ~ぱ~ん♪ 大人の玩具のバ●ブレ~タ~♪」


瑠羽はどこから取り出したのか、いきなりキノコみたいなイヤラシイ形をしたオブジェを見せつけた。な、何よ……!そ、その危険なブツは……!!何をするつもりよ!!


「な、何だそれは……? ど、どうやって使うんだ瑠羽……?」

「はいぃ、これはですねぇ、こーやってローション(もといボディソープ)をこのキノコににょろにょろとたぁ~っぷりつけてデスネぇ……はいっ、ポチっとな」


ヴィイイイ、ヴィイイン


ローションにまみれたキノコは大きくうねりを上げて振動し始め、それに伴って振動により、ローションが跳ね落ちていく。

こ、こらぁ!そんなものはモザイクをかけなさい!!モザイクを!!


「ふっふっふ、これで向日葵お姉様の穴という穴を犯、げふんげふん、綺麗に洗えるというわけですハァハァ」ヴィイイ、ヴィイイイ

「こ、これを向日葵の穴に挿入すればいいのか瑠羽? というか、穴ってなんだ?」


あ、穴……ご、ごくり。

って、こ、興奮何てしてないのよ!!あ、あによ!!

……やっ、やだっ、み、見るなっ!!私をそんな変態な目で見るなぁ!!私は決してそんなことを望んでいないのよ!!


「さぁ、さっそくお嬢様、向日葵お姉様を押し倒し……あ、あるぇー? お、お坊ちゃま?」

「あ…………に、にぃに?」






「…………二人とも、やり、すぎ、なの…………」ずももももももももも……






「お風呂上りにヘアーを整えるのは欠かせないの」


お風呂から上がると、秋桜は湿った髪をドライヤーで乾かし始める。

……お風呂上がりのヘアーを気にするなんて男の娘はなんてマメなのよ。


「「…………」」ガタガタガタガタ…………


そして、隅っこで紫陽花と瑠羽は身を寄せ合って震えていた。

……男の娘最強伝説の始まりなのよ。

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