紫陽花
ヒマワリ畑を抜けると、開けた場所に点在する村々が見える。
車窓から見える景色は今まで都市ガスに揉みに揉まれた私にとってどれもこれも新鮮で、私は畑で精を出しているおぢさんやおばさんを見やっていた。……ふぅん、一次産業ってこんな感じなのね。イメージ的には実際とドンピシャなのだけど、自分の目で眺めるのとテレビで見るのとでは新鮮味が一味も二味も違うことが実感できた。
「ははっ、向日葵。そんなに気になるのならその辺のおぢさん達に向かって手を振ってみたらどうだ?」
ハンドルを握る父は陽気に笑いながら、そう言う。
しまった……父には悟られないように平静を装っていたのに。何故そんなことをするの、って?だって……そんなのばれたら引っ越しで舞い上がっている子供みたいに思われたら恥ずかしいじゃない。……ふん、それにそんな純情少女みたいなことできるわけないじゃない。自分で言うのもなんだが、私は人に向かって笑顔という表情を作れない。無理して、笑顔を作っても何だかぎこちなく……そして微妙な間の後、気まずい空気を醸し出すのが私の大の得意だ。……何の自慢にもならないのだけど。
と、思ったもののこのままやらないのも何だか父に負けたような気がして、そしてフロントミラーに映った父の微かなほくそ笑みが私の中のムカつき度合を助長していて、何だか乗せられているような気がしないでもないけれど、私は父の挑発に乗ることにした。
車窓へ顔を出すと、麦わら帽を被ったピンクのタンクトップのおぢさんが畑仕事の小休止なのか、ちょうどタオルで汗を拭い軽トラの方に向かって立っているのが確認できた。よし、ターゲットはあのタンクトップおぢさんがいいわね。えーっと……笑顔って、とりあえず口元を歪ませて……目つきもこう細目で……私はサイドミラーで自分の表情を確認し……よし、おけっ!私は自信を持って再びタンクトップおぢさんの方に視線を向けた。
目が合った。
タンクトップおぢさんは何ともいえない苦笑い。
言われなくても分かる。
その苦笑いの中には『無理すんなべ嬢ちゃん』の台詞が込められていた。
そして私は私で、おぢさんの反応を見た後、何だか分からないが自然と顔に熱を感じた。
「ぷっ……ぷくくっ……ふぶっ、大変不自然ですね向日葵さん」
父は抑えきれないのか、左手で口を押えて必死に堪えている。
……何が可笑しい、馬鹿おやぢ。不自然ですねってそれはどういう意味だ馬鹿野郎。
私は言葉に出せないイラつきを表情に込めて、父を横目で睨んだ。
私の視線もとい死線に気付いた父は一息、ごほんと咳をして口を開いた。
「……いやぁ、すまんすまん。いや、何……向日葵って何にでも一生懸命だな、って思ってな」
……ふん。
一生懸命で何が悪いの?私が誰かに迷惑かけた?何時、何処で、地球が何回まわった時?
何だか一連の父の態度に無性に気分が悪くなった私は車窓に顔を出して、父の顔を見ないようにした。つーん、別に拗ねているわけじゃないのよ。
「……はは、そんな風船みたいに頬を膨らまして……本当に向日葵はまだまだ子供だなぁ。本当に……本当にお前は誰に似たんだろうなぁ……」
…………。
父の軽トラ内での最後の小さな寂しげな呟きは軽トラのエンジン音に掻き消されて、私の耳には届かなかった。それ以降は目的地に着くまで父は言葉を発さなかった。私は私で、軽トラの揺れに何だか揺り籠の中にいるような心地よさを感じてそのまま瞼を閉じ、しばしの眠りについた。
私の中の日本の家屋のイメージは赤色ないしは青色の瓦が屋根に敷き詰められていて、ついでにしょんぼり寂しげな佇まいをしているいわゆる一戸建てであった。ふぅん、で……田舎と言えばその真逆の恐ろしく廃れていて、えっ、何、本当にここに人が住んでいるの??落ち武者の幽霊とか飼っているんじゃないの??とかそんな連想を勝手にしていた時期があったの……ていうか、目的地に着く直前まではそう思ってた。
でも、ごめんなさい。田舎のおぢさんおばさん皆々様。
私の勝手な妄想で田舎を汚してしまって、本当にごめんなさい。
私と父が今日から暮らす父方の祖母の家は恐ろしく普通で、恐ろしく周辺の山々とミスマッチなごく普通の一戸建てであった。
「……ムッ? どうした向日葵? そんな微妙な顔して……ほら、今日からここでお世話になるばぁちゃんに挨拶……あぁ、会釈でもしとけよ?」
……げふんげふん。
別に漫画の中で見るようなレトロでボロボロな家を期待していたわけじゃあないのよ。ただ、その……ギャップが恐ろしく、そのイメージと違ってて……あ~、この話はここでおしまい。
軽トラを降りると、家の前には人当たりの良さそうな柔らかな笑みを浮かべて白い頭巾を被った一人の老人がいた。……この人が私の祖母なのね。……ふぅん、私の父を女装させて、ちょっと老け顔にしたらこんな感じのおばさんになるわけね。つまりは、蛙の子は蛙ってやつね。ちょっと意味は違うかもしれないけれど。そして実のところ、私は親戚に会うのは今日が生まれて初めてのことだった。驚きでしょ?十八にして初めての体験。何か誤解されそうな言い回しになったような気がしないでもないけれど。
「やぁやぁ、お袋、しばらくぶりだね。身体の方は元気かい?」
「おやまぁ、この子はおおきなってぇ……こんな暑い中、よくそんなボロボロの車でよさきたねぇ……ほら、早く上がりんしゃい。あんたの好きな西瓜用意しとるねぇ……おや、そこん、後ろにいる別嬪さんは……?」
軽トラから降りた父が祖母に挨拶すると、祖母は一言二言返した。
そして、祖母は父の後ろにいた私の存在に気が付いたのか、私の顔を不思議そうな顔で見る。
私は私で、祖母に向かって軽く会釈した。自慢ではないが、私は結構人見知りするタイプだが、ソレを表に出さないようにするように努力することができる。つまりは内心、ドキドキひやひや。
「あぁ、この子はねお袋。俺の」
「"えんこー"かいのぅ……」
……ぶふっ。
え、えん……?えっ、今、この人何て言ったの?
私の聞き間違いでなければ、大変よからぬワードが飛び出したような気が……。そして、父を見ると何故か少し頬を染め、タジタジしていた。
「あんたさぁ、こないな小さい娘にまで手ぇ出して、いつかバチが当たるよ、本当に」
「……いや、ちょっと待ってお袋。それ、すんごい誤解」
「誤魔化さんでえぇ武ぃ……そらぁ、そないな綺麗な長い黒髪と透き通るような白い肌、それでぇ……華奢な体躯に控えめな乳と尻……あとはぁ……この娘多分体毛薄いけぇ、多分パイパンだなぁ……うんうん、さすが俺の息子だぁ」
「ちょっ……親父っ!? バカッ!! 親父のバカバカバカん!!」
そして、新たにお爺さんが登場。
この人は私の祖父に当たる人なのかな。……まぁそれはいいとして。
えっ、何、いきなり初っ端からセクハラ全開なのこのおやぢ?
……むかむか。
ひ、人の身体的特徴を随分と平気でずばずばずばずばと……うふ、うふふふ……。
「ひ、向日葵……? お、怒るなよ……? この人達はどちらかというと馬鹿正直なだけなんだ……」
父は冷や汗たらたらで、どこか怯えた表情で私に向かって言う。
……ふふっ、全員まとめて肥溜めに放り込みたい気分だわ。しかしここで感情を露わにしたら、只の子供だ。こういう時こそ、大人の私は冷静にならないと……。私は失礼な態度を取る目の前の彼奴らへの感情をグッと抑え、平静を装い、それどころか父に満開の笑みを向けた。
「ははは……ははっ」
ふふっ、分かっているじゃない。
そう、これは警告よ。私が笑い出したら、爆発寸前であることを覚えおきなさい。
ふんっ、馬鹿おやぢめ。
「……で、武ぃ。冗談は置いといてぇ、その娘は誰けぇ?」
そして、気を取り直して祖父が父に私の紹介を求めた。
ふぅん、冗談。あのセクハラ発言も冗談だったんだ……ふぅ~ん。
「……あぁ、この子の名前は向日葵……俺と百合子の間で生まれた正真正銘の俺の娘だよ、お袋親父」
"百合子"
十八年前。
都内の某産婦人科で私を産み落とした諸悪の根源。
交わる血、交わらない血、彼女は普遍的に、何ら一般的な家庭と変わらない形で確かに私を産み落とした私の母に当たる人物。
「「…………」」
父が祖母と祖父に向かってそう言うと、その場は一時の静寂に包まれた。
……あぁ、そして私の父はあの女をまだ名前で呼んでいたんだ。
それは未練がある……そういうこと。
まぁ、別に良いけれど私には関係の無いことだし。私が口を挟むのも可笑しいことだし。
……ただ単に、私はその名前を忘れていた、忘れようとしていた。
なのに……ふふ、まだ呼んでいたんだ……名前で。それも、苗字じゃなくて名前で。
「……あぁ、あの"悪女の娘"かい」
「お、お袋っ!!」
一時の静寂の後、最初に口を開いた人物は祖母。
その表情からは先程の気のよさそうなおばさんとは正反対の、相当の不快感と、憎悪と、色々な感情が込められたモノが私に向けられていた。それは言わば、業とでも呼べば良いのか。業という縛りで私を殺しかかってくるのだろうか。
"悪女の娘"
この言葉も今まで第三者から幾度となく聞いてきたことだしね。
ふふ、悪女の娘……かぁ。何だか響きからして、危険な香りを醸し出しているでしょう?
けれど、実際はそんなドラマに出てくるような素敵で危なげでドラマティックなお姉様ではない。……ふふっ、先刻まで思い出さいないように、キーワードがふと脳内によぎっても気にも留めないようにするつもりだったのに。やっぱり、私はあの女と何処かで繋がっているのかしらね……血という忌々しい鎖で。
「武が久々に女子を連れてきたと思うたらそないなけったいな娘かい」
祖父も祖母同様、心底嫌悪感を露わにした。まるでそれはこの世の生を受けた者を見る眼ではない。さっさと、死んでこの世から塵屑残さず消えてしまえ。そんな見えない言葉が私の胸に突き刺さる。そう、やっぱり私は……。
「や、やめろよ親父まで!! 確かにこの子はあいつの娘だ……けどな、この子は何にも関係ないだろ!?」
祖父母の態度が気に入らなかったのか、珍しく父が感情的になって祖父母に喰いかかっている。
いつもの父なら笑って、その場を和ませるくらいの能天気なのに……。まぁ、私を気遣って感情を露わにしているのだろうけれど……でも、その反応は正直クルものがある。いつものように、何事もなかったように軽く鼻で笑って流してもらえれば傷口は塞がるのに。
……分かっている。
父が"そういうこと"を見過ごせる人ではないってことは。
でもそれがかえって重荷になって、私だけではない。自分にも降りかかって、沈んでいくってことを……私の父は理解できているのだろうか。
いや、理解しながら分かって、そういう態度を取っているんだ。
だからこそ……私にとって、父は出来過ぎた父なのよ。それが、それが一番……痛い。
「向日葵……。父さん、ちょっとばぁちゃんとじぃちゃんに話があるからこの辺で遊んでいてくれないか? お前ここいらのことまだ何にもわかんないだろ? 散歩してこいよ、けど夕方までには帰ってこいよ? この辺、沢とか川とかあるから、じゃ、気を付けてな」
父は私をさっさとこの場から離したいのか、そう言って私の両肩を掴んで、微かな笑みを見せる。……あぁ、この無理やり作ったような笑み……父は私のために相当無理をしている。
私は内心気に入らなかったが、父の負担を考えて、こくりと軽く首を縦に振り、元来たヒマワリ畑に向かって歩を進めた。
業は業。
区別は誰にもできないのにね、馬鹿なおやぢ。
でも、それが私には自然と心地よくて、何ともいえない気分になるのだ。
…………。
あぁ、つまり私はファザコンなんだ、ってこと。
ミーンミーンミーンミーン
ミーンミーンミーンミーン
ミーンミーンミーンミーン
ミーンミーンミーンミーン
……うっとおしいわね。
何でこんなクソ暑い時期にそんな煩く鳴けるのよ。短命のくせにいい気になるな蝉の馬鹿野郎。
夏になるとアスファルトで舗装された道路はお天道様にさらされてとんでもなくうっとおしいほど熱気を放つ。私は胸元にキュートなヒマワリのアップリケが刺繍されている白のノースリーブのワンピースを身に纏っているけれど、それでも歩いているとだらだらと滝のように汗が流れる。汗を流すこと自体は良いのだけれど、汗疹が気になる……うぅ、帰って早くお風呂に入りたい。これもそれもあのうちの余計なこと言った馬鹿おやぢのせいだ、くそぅ。
少しの眩暈と疲れを覚えた私は道路の段差になった脇によっこらせっとバーコードおやぢのように腰をかけて小休止タイムに入った。それから私は手持ちのクマさんハンドタオルで汗をぬぐい、水筒を取り出して冷たいお茶を身体に流し込んだ。ふふ、夏のお天道様を馬鹿にしちゃあいけないのよ。備えあれば憂えなし、私を極寒の山を全裸で登る馬鹿な女だと思ったら大間違いなのよ。えっ、それは只の自殺志願者なんじゃあないかって?いいじゃない、別にそんなこと。
しかし、本当にこの田舎は何処も彼処もヒマワリだらけなのね……。
もしかして、主食がヒマワリの種だったりして。ディッシュのほとんどがヒマワリ的な食べ物だったとしたら……ヒマワリと白ご飯が九対一のとてつもなくアンバランスなヒマワリ飯、ヒマワリの出汁で作ったヒマワリ味噌汁、ヒマワリの花びらが入ったヒマワリ茶、ヒマワリの花びらが練りこまれたヒマワリお豆腐……うっ、気持ち悪くなってきた……。大体、目の前でヒマワリの種を貪られると何だか自分が食べられているような気がしてあまり気分が良くない。くそぅ、あのハゲおやぢめ(別に禿げていないけれど、気分的に)、いつかしばいてやる。
「んっしょ……んっしょ……」
と、下らないことを考えていると私の目の前で可愛らしい小動物みたいな少女がせっせせっせとヒマワリを摘んでいた。いつの間に……私はジッとその不思議少女を見つめた。うーん……何でそんな親の仇のようにヒマワリを摘んで……って、悪さはしちゃだめなのよ。私は少女に近づき、軽く頭を小突いた。自慢じゃあないけれど、私は見ず知らずでも悪いことをしているガキには注意できる大らかな心を持つ少女なのだ。
「あたっ……い、痛い。だ、誰……な、何をする」
少女はヒマワリを摘み取る手を止め、頭を上げた。
短髪の肩口で切り揃えられたショートカット、円らな瞳に幼さが残る顔、病的なほど白い肌……一つ一つのパーツが人形のように綺麗に整列している。そんな容姿をした少女が涙目で私を睨んでいるのだ。……ゾク、別に私は変態じゃないのよ。私も負けじと睨み返す。自慢じゃあないけれど、私は人一倍負けず嫌いなのだ。ふぅん、この子セーラー服を着ているから、この村のどこかの学校に通っている子かしら。
「なっ……そんな怖い顔で睨んでも、な、何も出ないぞ……」
……怯えている、何この娘キャワイイ。
と、こんな不毛なことをしていても一向に話が進まない。私は手持ちの小さな手帳を取り出し、さらさらっと筆で書いて、一ページを千切り取り、目の前の少女に見せた。……えっ、喋れないなら手話ですればいいじゃない、って?通じると思うこの娘に?それに私はこうやって自分で手を動かして、字を書くのが好きなのよ。ふふん、私は別にものぐさ太郎じゃないのよ。
『あんた、こんなところで何やってるの?』
「……?」
少女は私が千切り取ったノートを見せると不思議そうな表情で私とノートを交互に見やった。
あっ……そうか。いきなり見せても不審がるわよね。私はもう一度、筆を取り、ノートを千切り取って、少女に見せる。
『私、喋れないのよ。ふふん、さぁお姉ちゃんにどんな悪さをしていたのか教えなさい』
「……お前は喋れないのか」
『……年上に向かってお前はないでしょ。私はお前っていう名前じゃなくてちゃんと"向日葵"っていう名前があるのよ』
「……お前はお前」
私に向かって人差し指をさすガキ。
ギュッ
私は失礼な態度を取る馬鹿ガキの頬を抓った。
ふふん、年上を敬わない子供にはこうやって適度に躾をしないと、大きくなったら生意気な大人になるのよ。ふふっ、何だか母親になったような気分だわ。……うううるさいっ、私はまだ十八の少女なのよ!!
「いたっ、ひたいっ! やめろ!! ひんぬー!! パイパン!! お前のかぁちゃんでべそ!!」
パイッ……!?
くっ、げふんげふん……落ち着け私。こんな所で切れたら大人じゃないのよ……それは大人の振りした只の子供なのよ。私は口惜しくも少女の頬から手を離した。柔らかかった……感触がまだ掌に残っているわ。
「はぁはぁ……痛い。お、お前……歳、いくつだ?」
『ふふん、ちょっとエッチなゲームができる可憐な十八歳よ。向日葵お姉さまって呼べ』
「ふふっ……ふふっ! 私はお前のいっこ上、十九だっっ!! お前こそ私を姉貴って呼べ馬鹿野郎!!」
少女はナイ胸を張り、腰に手をやって私に向かって自慢げな表情でそう言った。
なっ、何だと……!?こやつがじゅ、十九だとぅ……そんな、世界が真っ逆さまにひっくり返ってもあり得ない現象なのよ!く、くぅ……敗北を悟った私は(何が敗北なのか自分でもさっぱり分からないけれど)四つん這いで地面に手をついた。
「はぁはぁ……分かれば良いのだ。私は……私はお前よりずっと偉い。敬え、パイパン」
『って、調子に乗るな』
ビシッ
「あいたっ、人の頭をちょっぷするなぁ!! うぅ……」
『で? 話を戻すけれど、あんたはこんなところで何をしているの?』
「……見て分からないのか。ヒマワリを摘み取ってる、以上」
『以上じゃないわよ。ヒマワリが可哀想だからやめなさい、めっ』
「ふん、お前は自分大好き人間なるしぃちゃんか。この変態め」
ビシッビシッ
「いたいっ、だ、だからちょっぷするなぁ……」
『ふん、誰がなるしぃちゃんよ。私のことじゃないわよ、花のことよ』
「花って……いいじゃないか。ここいらはこんなに狂ったようにヒマワリが咲いているじゃないか。一株や二株や三株や……百株やそこらでごちゃごちゃ文句言うなバカ」
……おい、今物凄い勢いで数が飛んだわよ。
このガキ、そんなに今まで摘み取っていたのか。
「ふん、気分悪い。お家に帰る」
私の言葉で機嫌を悪くした少女は村の方へ歩いていく。
何よ、ていうかこの摘み取ったヒマワリを片付けていきなさいよ。私は、仕方なく散らかったヒマワリを自分で片付けていく。
「あっ、お前にまだ名前を言ってなかった」
少女は何か思い出したかのようにくるっと私の方に向き、続けて口を開いた。
「私の名前は紫陽花。よく覚えとけバカ」
少女はそう言い残し、駆け足で村の方へ消えて行った。
…………。
友達がいないのかしらあの子。