CASE3.開始
黒子達が出ていった教室。
紫月の後ろに座っていた六美が口を開いた。
「どう、思う…?」
「どうもこうも…やるしか無いんじゃない…?」
「だが、この状況は何にせよ不味いな。」
紫月の返答に、火野がちらりと視線を動かした。
視線の先には…
「何よコレ!ふざけてるわ!」
「日向ッ、落ち着けよ!」
「落ち着けるわけ無いでしょ!?」
ヒステリックに叫ぶ日向。
それを必死に宥めようとしている秀水。
「冷静さを欠くのは良くない。判断力が鈍る。」
「この状況で冷静とか…無理だろ?」
火野の言葉に金弥が反論した。
出される問題がどんなものかは解らない。
しかし、こんな悪趣味な事をする人間が何事も無く此処から出してくれるとは到底思えない。
だからこそ恐怖が生まれる。
「相当イカれてるのは確かだ…土橋が助けなければお前に風穴が開いていたかもな」
「ちっ…」
金弥が苦虫を噛み潰したような表情で、ポケットに手を突っ込む。
それを満足げに見遣ってから、火野が少し声を張って呼び掛けた。
「取り敢えず、バラバラに行動するのは良くない。纏まって動こう」
「そうだね、」
「…でも、手掛かりが無いわね…」
紫月、六美がそう返答を返した姿を日向が信じられないモノを見るかのような目で見ている。
「アンタ達…信じらんない!!何で普通にしてられんの!?」
日向は今にも泣き出しそうだ。
秀水がそんな日向の肩を抱く。
「日向の言う通りだ…お前ら普通じゃねーよ…こんな状況、納得しろって方が無理だ…!」
「ごちゃごちゃごちゃごちゃ、うるせーな!!チワワの癖によ!」
秀水の言葉を切るように声をあげたのは四郎だった。
チワワというのは、四郎が秀水に付けたあだ名だ。
四郎と秀水は共にバスケットボール部に所属していた。
四郎は背が高く、顔も整っている。
赤く染められた髪に、右耳に開いたピアスが彼の特徴だ。
それに対して秀水は男子にしては低めの身長と、女の子のような大きな目。
その外見から、四郎は何時しか秀水の事を『チワワ』と呼び始めた。
四郎自身全く悪気は無かったのだが、自分のコンプレックスをあだ名にされた事で秀水は四郎に対してあまり良い印象は抱いてなかった。
紫月を庇うように立った四郎を、秀水は睨み付ける。
「何とも無いわけねぇだろ!納得なんて誰がしてんだよ…コイツらだって怖いに決まってんだろ!?」
「四郎…」
「それでも冷静にならねぇといけない事をコイツらは知ってんだよ…そんぐらい分かれ!!」
「四郎!もう…良いから…」
四郎の手を紫月が握った。
その手はじっとりと汗が滲み、驚く程冷たい。
見上げてくる紫月に四郎は苦笑って見せた。
「格好悪いよな…俺だって、びびってる…」
紫月が首を横に振る。
怖くない訳は無いのだ。
日向の様に叫ばないだけで。
心の奥には途方もない恐怖を感じている。
だから、四郎の言葉は紫月の心を少し軽くした。
「本当は怖い…逃げれるものなら逃げたいよ…でも、それは無理だと思うの、」
紫月が真っ直ぐ、日向と秀水を見詰める。
その瞳は潤んでいて、紫月の言葉が嘘ではない事を表していた。
流石にこれには、秀水達もそれ以上言いつのる事は出来なくなった。
「私はこうやって7人選ばれた事にも何か意味があると思う…だから…」
「あーもう!わかったわよ!協力すれば良いんでしょ!?」
「ありがとう…!…」
紫月が日向に頭を下げる。
秀水もバツが悪そうな表情をしながらも頷いた。
「じゃあ、取り敢えずこの教室をくまなく探そう。」
「なんで火野が仕切るんだよ…」
「金弥!そう文句ばっか言わない。火野だって何の根拠もなく言ってる訳じゃないわ。」
六美に一喝されれば金弥も黙るしかない。
渋々ながら金弥は引き下がった。
それを確認して火野が言葉を続ける。
「このゲームは、『この部屋』から始まった。しかも『犯人』は俺達にこのゲームをさせたい。ならば高い確率で此処に何らかのヒントがある筈だ。」
火野の言葉には説得力があった。
他の6人は反論せず、火野の言う通り教室の中を探すことになった。