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DoUbT  作者: AkIrA
23/26

CASE23.真相

「少々ヒントが多かったか…」



出て来た火野が、気怠そうに前髪を掻き上げた。

火野を犯人だと言い当てたところで何一つ解決はしていない。

勿論、まだ全てに納得がいった訳では無いのだ。

紫月が火野の前に進み出る。



「廉二…」

「良いのか?その呼び方…」

「今更よ…もう隠す意味も無い。」



未だに事情が飲み込めきれていない四郎を、火野がちらりと一瞥する。

四郎はその粘着質な冷たい視線を感じ、眉間に皺を寄せた。

そんな四郎を宥めるように紫月が二人の絡み合う視線を体で遮った。



「ちゃんと説明する…」

「紫月…」

「私と廉二は同じ中学校に通ってたの‥」



其処までならさして驚くような内容では無い。

紫月の目が伏せられた。




「付き合ってた…」

「中3の1年間だけな。」



四郎は頭を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けた。

彼女が火野を『廉二』と呼んだ時点でどことなく想像はついていたが、実際に本人の口から聞くのとでは衝撃が違う。

そんな四郎を尻目に、火野が更に言葉を重ねた。



「俺が一方的に別れを告げた。」

「…」

「紫月は理由すら解らないままだろうな。…まだ、俺の事好きみたいで嬉しいよ。」



鉄の処女の前で泣き崩れていた紫月を思い出す。

あながち火野の言うことも間違いではないのだろう。

しかし、紫月を好きな四郎にしてみれば腹立たしい事この上ない。



「利用したのか…?彼女の気持ちを…」

「人聞きが悪い。俺が紫月を利用する…?」



火野が口元を笑みの形に歪めた。

歪な笑みに、四郎の背筋が冷たくなる。



「俺が利用したのは、お前だよ。木ヶ山四郎…」

「…俺?」

「そもそも俺は、紫月の心を知るためにこの実験に協力したに過ぎない。」



火野が口にした台詞。

それは火野以外に主犯格の人間がいることを示している。

確かに、いくら頭が良いとはいえ一学生が此処までの大掛かりな事は出来ない。

ならば、それは道理のように思えた。




「実験、ってどういうことだ…?」

「究極の心理実験…簡単に言えば心に難の有る奴を集めて、極限状態に追い込む『実験』だ。」

「心、に…?」

「あぁ…『ダウト』に使用した問題は、全て被験者の触れられたくない『過去』や『コンプレックス』を使用している。」




第一問:仲間外れは誰?

第二問:臆病者は誰?

第三問:正直者は誰?

第四問:賢いのは誰?

第五問:目立たないのは誰?

第六問:弱いのは誰?

第七問:犯人は誰?




「五木は容姿の事で常に周りから疎外されていた。

 土橋は厳格な父に付き従う事しか出来なかった。

 七瀬は派手な化粧で自分を誤魔化して居るが、実は地味な事がコンプレックスになっている。

 三井は、男のなのに顔立ちや体格の所為で同性から慰み者にされていた…」



常に疎外されて生きてきた金弥は『仲間外れ』。

強そうに見えるが、本質は父に反抗する事が出来ず生きてきた六美は『臆病者』。

派手なメイクで誤魔化しているが本当は『目立たない』日向。

男なのに体格や顔立ちに恵まれず、ずっと『弱い』立場にいた秀水。



「並べてみれば、分かりやすいだろ?」

「『正直者』ってのは何なんだよ…?俺は別にそれをコンプレックスには…」

「お前がそう思っていなくても、周りにとってはそうじゃない。現にお前は馬鹿『正直』に生きてきた所為で三井に恨まれただろう?」

「…」



二の句を告げる事が出来なかった。

確かに、四郎は秀水に『ダウト』されたのだから。

秀水の心中を吐露されて、ショックを受けたのも事実だ。




「そのスタンスを貫き通した事で結果的には三井の心を動かせたんだ。『不確定要素』としては充分な働きだったよ。」

「不確定、要素…?」

「元々この実験はお前以外の六人を対象にしていた。お前だけは『名前』で選出されたんだ。」

「…私は…?」

「最初から説明してやるから、まぁ聞けよ…」




火野が取り出したのは『文化祭のお知らせ』という紙だ。

二人が気を失う前に教室で手渡されたものだ。



『そろそろ文化祭の季節です。

 うららかな陽気に恵まれる事、生徒会一同願ってます。

 この一大イベントを成功させる為に、学年の

 へだてなく皆で協力して

 いきましょう。

 けっかがどうであれベストをつくしましょう!』





「これは偽物だ。お前のクラスと七瀬たちのクラスの担任を抱き込んで、お前らだけにこの用紙が手渡されるように仕込んだんだ。」

「これ、は…」

「一種のサブリミナルだ。この文章自体に意味はない。重要なのは一文字目だ。」

「そ、う、こ、へ、い、け…倉庫へ、行け…?」

「そう。平仮名で書くことによって無意識に文字を目で追ってしまう。この瞬間から、お前らは洗脳されていたんだ…まぁ引っかからなければ、強制的に拉致する予定になっていたが…」



今となればこの文体は不自然な事この上ない。

しかし、何とはなしにこの文章を目にしたとき無意識に術中に嵌っていたのだ。



「倉庫へお前らを閉じ込めた所で、催眠ガスで眠らせ此処に連行した。」

「此処は一体何なの…?」

「学園の裏金と、理事長である俺の父の投資で作られた施設…場所は明かせないが、まぁ県外の山奥だ。この『実験』は何度となく繰り返されている。毎年何人か退学者が出るだろう…?」



火野が理事長の息子だという事も驚いたが、このような事が何度も行われていた事の方が衝撃的だった。

何の為にこんな事が繰り返されているのか。

火野の言葉を聞けばそれが解けるのだろうか…?




「俺がお前らの中に入り込んでいたのは、自然に事が進むように誘導するためだ。何度も想定外の事が起こって焦ったがな。」

「想定外の事…?」

「五木と土橋が自殺した事…後はお前が紫月に与える影響が大きすぎた事だ。それによって歪が生じたんだ」



追い込まれた状況下で、徐々に精神が崩壊しお互いを貶めていく。

精神が崩壊していく過程を記録し、分析するのが目的の筈だった。

しかし今回は思うようにいかなかった。




「五木と土橋に関しては、お互いを思う余り『美しい死』を選んだ。折角俺が土橋の『核』をついたのに…」

「人として堕ちるな…?」

「そう。アイツが子供の頃から父親に言われ続けている言葉だ。アイツを壊す起爆剤だったのに、五木が引き戻した…」



忌々しげに火野が吊るされている金弥を見上げた。

その眼は常軌を逸している。

狂った人間の目だ。



「『不確定要素』であるお前の存在もそうだ。ただ、紫月に惚れている派手な奴だった筈なのに…」

「四郎が居たから、私は壊れずに済んだ…」

「そう…本当なら、俺が死んだ時に壊れる筈だった…七瀬の言葉で大分と心を揺さぶられていたからな、」



日向と言い争った時。

紫月は押し込めていた自分の裏の部分が浮き上がって来るのを、確かに感じていた。

しかし、それは四郎の血塗れになった腕に抱かれた瞬間消え失せた。

四郎が居なかったら、そう思うだけでぞっとする。



「…廉二は何で、私たちを壊したいの…?」

「俺は、お前の本質に近付きたかっただけだ。全てを曝け出して狂ったお前なら、愛せると思った…」



異常なまでの愛情。

火野の手が伸ばされ、紫月の腕を掴んだ。

痛いほどに掴まれたそこから、火野の熱が伝わってくる。

愛されているのか、貶められているのか。

色のない瞳からは何も読み取れなかった。



「校長や、親父の目的は…より良い学園の設立。だから、これは心に『難』がある生徒を『処分』するゲームでもある。」

「処分…?」

「見た目は『矯正』出来るが、心は『矯正』出来ないだろう?」



形の良い唇から吐き出されていく言葉に眩暈すら覚える。

学園全てがグルで、自分たちを消そうとしている事実。

足元から崩れていくような感覚だ。

火野に腕を掴まれていなければ、そのまま崩れ落ちていたかもしれない。



「お父さんと、お母さんは…?」

「お前らの両親には、莫大な金を支払っている。とはいっても、殆どお前らの生命保険だけどな‥」

「俺たちは、金で売られたのか…?」

「一番喜んで受け取ったのは、七瀬の親だ。良い『厄介払い』が出来たって面白いほどに感謝してたな。」

「な…ッ、」



四郎の声が震える。

火野がそれを見て、楽しげに笑った。



「…あぁ、安心しろ。お前らの親は受け取らなかった。」



紫月と四郎の表情が緩む。

親に売られた訳では無かったのだ。

しかし、次に続く火野の言葉を聞いた瞬間それは絶望に変わる。



「必死に追い縋って、子供を返せって学校にまで乗り込んできた。だから…お引き取り願った。この世からも…な。」

「…!!!」



怒りなのか悲しみなのかは分からない。

ただ無意識に紫月の頬を涙が伝う。



「だから、さっさと狂ってしまった方が楽だったのに…」



憐れみを込めた目で火野に見詰められる。

堕ちれば楽になれるのだろうか。

そんな想いが脳裏を過る。



「紫月…」



その囁きすら甘いものへ変わる。

引き寄せられるまま、紫月は火野の腕に抱かれた。



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