CASE20.Q6弱者ハ誰?
『ダウト、『七瀬日向』。受理シマシタ!審議シ…』
「待てよ!!」
『声』を遮ったのは秀水だった。
日向が驚きに目を見開く。
『何カナ?三井秀水クン…?』
「次の問題の答えを俺にしてくれ!望み通り死んでやる…その代わり…罰ゲームは今、日向と一緒に受けたい…!!」
意外な秀水の一言に皆が動けずいる。
秀水は床に手を付き、深く頭を下げた。
額を床に押し付け、姿すら見えない相手に懇願する。
「頼む…最期くらいは、日向を独りにしたくないんだ…!」
『助カルカモシレナイノニ、君ハソノ可能性ヲ捨テルノ?』
「そんなの、もう…どうでも良い…」
秀水は顔を上げ、日向を見詰めた。
「折角、両想いになれたのに…離れたくないよ。」
「し、ゅぅ…す、い…!」
日向が涙でぐちゃぐちゃになった顔で秀水に抱き着いた。
『分カッタヨ…問題ヲ渡スカラ、『ダウト』シナヨ』
「…ありがとう、」
現れた黒子から投げ付けられた箱を拾い上げ、秀水は中を取り出す。
そして其処に書かれた内容に、苦笑を浮かべた。
「『この中で一番、弱いのは誰?』…」
『…ジャア、『ダウト』シテネ?』
「待って…!!秀水君!」
紫月が止めに入るが、秀水の目は一向に揺るがない。
あの時屋上で泣いていた彼とはまるで別人だ。
「一緒に帰ろうって言ったじゃない!!何で…皆諦めるの…!!」
ピクリ、と秀水の手が動く。
日向も僅かに戸惑いを目に浮かべた。
「違うんだよ…紫月。」
「何が…ッ!」
「お前と俺は違うんだ…!!」
秀水は苦し気に表情を歪め、言葉を吐き出した。
そして日向の手を取り…
「…『ダウト』、三井秀水だ。」
吐き出した解答は当然のように受理される。
淡々と進んでいく話には口を挟む事すら許されない。
秀水も日向も覚悟を決めてしまったようだ。
『ジャア移動シヨウカ。ソノ鍵デ『プール』マデキテネ…』
箱に入っていた鍵を手に秀水達は歩き出す。
錆び付いた引戸を開けると、血生臭い空気がやや薄れた。
「来なくて…良いから、お前らは…」
「ふざけんなよ…秀水…!!」
「うるさい!!お前は…紫月と生きる事だけを…考えろよ…ッ」
そうでないと救われない。
秀水は日向の手を引いて走り出した。
どんどん小さくなる背中。
四郎は痛みに痺れる手を床に付いて何とか身を起こした。
しかし、まともに歩く事は出来ない。
ふらつく身体を紫月が駆け寄って支える。
「四郎…!」
「行くぞ…何とか止めるんだ…!」
「うん!!」
四郎の腕を取り、紫月達は二人の後を追った。
見下ろすのは、緑色に濁った水。
その中には無数の黒い影が蠢いていた。
時折見える背鰭が不規則な動きを見せる。
「これは…」
『オ腹ヲ空カセタ鮫ダヨ。罰ゲームハ、コノプールニ5分浸カルダケ!』
簡単に言って除けるが、この中に飛び込んだ瞬間に喰い千切られて死ぬだろう。
カタカタと、日向の身体が震え出す。
「日向…」
「…痛い…かな…?急に怖く…なってきた…」
「独りじゃないよ…何があっても。日向をもう独りになんかしないから…」
日向を正面から抱き締める。
今なら、あの時死を選んだ金弥達の気持ちが分かるような気がした。
「一緒に、いこう…」
「…ん。」
日向の手が秀水の背中に回される。
追いついてきた紫月達が視界の端に見えたが、日向も秀水もそれに気付かないふりをした。
「秀水…」
「ん?」
「大好き…!」
「俺も…愛してるよ、日向」
そして二人は迷う事なく、澱んだ水に身を投げた。