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DoUbT  作者: AkIrA
19/26

CASE19.聞コエル声

母は海外でも活躍するモデル。

父は有名な俳優。

さぞかし美しい子が生まれてくるだろうと、周囲は期待した。



なのに生まれてきた子は、とても普通の顔立ち。

口には出さないが、周りの人間は皆一様に落胆した。



そして最も落胆したのは、一番我が子を愛する筈の母だった。










『この中で一番地味なのは誰?』




その文字を見た瞬間、ぞわぞわとしたものが身体中を這い回るかのような不快感。

日向は込み上げる吐き気を抑え込むかのように口元を手で覆った。




――…何で…私とあの人の子なのに、貴方は普通の子なの…?




「嫌あぁっ!!」

「日向!!」




日向を追い込んだ『声』の持ち主。

それは紛れもなく、日向の『母』だった。




その悲鳴には、流石に紫月も意識を取り戻す。

顔を上げれば頭を抱えて踞る日向と、その背中を擦って必死に落ち着かせようとしている秀水。

そして足元に落ちている『問題』。

火野の血に汚れたそれを、紫月はゆっくり拾い上げた。





「この中で一番『地味』なのは誰?…」

「何だよ…その問題…」





紫月が感情なく読み上げた文章に、四郎が顔をしかめる。


先程の問題の様に、『誰か』をピンポイントで狙っているのだろう。

そして、その『誰か』は恐らく日向だ。

見た目には『地味』とは言い難い彼女が異様なまでに取り乱しているのだから。



そして紫月はふと思い出した。

数時間程前、自分が日向に投げつけた言葉を。






――地味な顔が嫌いで、派手な化粧して…



――ねぇ、七瀬さんは何を隠そうとしてるの?





その時も、日向の様子はおかしかった。

恐らく『地味』という言葉自体が彼女にとって鬼門なのだろう。

しかしそうは理解したものの、理由は解らない。

訊くべきか紫月が躊躇っていると、今まさに彼女が思っていた疑問を四郎が日向に投げ掛けた。






「お前、別に『地味』じゃねぇだろ…?何でそんなに…」

「違、うのよ…、私は…『地味』だから…ッ」


――ドウシテ…?





「『失敗作』なのよ…!!」









美しい父と母。

それは日向にとって、最大のコンプレックスだった。

会う人全てに、言われる『言葉』。




――本当ニ…、アノ二人ノ子供ナノ?




『言葉』は徐々に日向を蝕む。

何時しか仮面を被る様に、自らを彩る術を覚えた。


母の様な長い睫毛に憧れ、付け睫を重ねる。

父の様な大きな目に憧れ、漆黒のラインで目を縁取る。



しかし、どれだけ派手な化粧をしても何も変わらない。

ますます冷めた目で見られ、日向の心は行き場を無くした。

それでも着飾り続ける事で、日向は必死に我を保とうとした。



そこまで努力しても。

母が日向に吐いた言葉は酷く残酷なものだった。






『貴方は失敗作なのよ…顔も見たくないわ!』






追い討ちをかけるように、日向が小学六年生になった時、妹が出来た。

人形の様に愛らしい顔に、両親の愛情は全て妹へと注がれた。


家庭内で無視される事が増えたが日向は気にしないように努め、更に自らを着飾った。

暴力を奮われないだけ幾分マシだ、と自分に言い聞かせ日向は今まで生きてきた。





「母が私にそう言った…確かに私は『失敗作』よ…」

「そんな…」

「アンタ達が羨ましい…私がアンタみたいに可愛いかったら…土橋みたいに綺麗だったら…世界は変わってたかもしれないでしょ?」




逆に、美しい両親を持たなければ普通に生きていけたかもしれない。

そう思えば、運命は残酷だ。





「そんな事…無い!!」

「秀、水…」

「日向は化粧してなくても可愛いよ…」

「いーよ、お世辞は…」

「違う!!」





思えば秀水だけだった。

『素顔』の自分を『良い』と言ってくれたのは。

必死なその表情に、日向の心は少し救われた。






「俺は…そのままの日向が好きだ!!」

「秀…水…」

「日向は…俺の言葉、信じて無かったかも…ッしれないけど!!俺は…何時だって本気だった!!」





女々しく泣きべそをかいている彼は、誰より男らしく想いを告げた。

真っ直ぐ胸を射ぬく言葉に日向の目にも涙が溢れる。






「秀…水…アタシ…」

「俺は…解ってるから…日向の苦しみも、辛さも…だから失敗作なんて言うな!!」

「しゅ…ッう、あ、ぁっ…!」




秀水が崩折れる日向を抱き止めた。

その腕の中で箍が外れたかのように日向は泣き叫び続ける。

秀水は日向を抱き締め、あやすように背中を優しく撫でた。

どれくらいそうしていたのか解らない。

日向達の意識を引き戻したのは例の『放送』だった。






『時間ダヨ!!『ダウト』シテネ!』





「日向…」

「ありがとうね…秀水…」




日向がゆっくり体を離す。

泣き腫らした目をハンカチで拭うと、付け睫もアイラインも剥がれ落ちた。

携帯のミラーにその顔を映し、日向は苦笑する。





「ぶっさいく…」

「日向…」

「でも、秀水はこの顔が良いって言ってくれんだよね…?」

「ッ、当たり前だ!!」





ふわり、と日向が笑う。

何時ものきつそうな印象を受ける表情ではなく、幼い少女のような笑み。




「最期に秀水がそう言ってくれただけで充分…」

「日向!!まさか…」

「私も秀水の事、好きだったみたい…だから…」

「止めろ!!」







「『ダウト』、七瀬日向よ…」





日向は自分の胸に手を当てて、はっきり言い切る。

もう母の『声』は聞こえなかった。



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