CASE18.Q5目立タナイノハ誰?
『ダウト、『火野蓮二』…受理シマシタ!審議シマス!!』
あぁ、また嫌な時間がやってくる…
四郎は動かない自分の体を呪った。
状況は好転などせず、逆にどんどん悪い方向へと転がっていく。
『正ー解デス!!ナンテ美シイ潔サ!!見事デシタ!!』
現れた黒子達に両脇を抱えられ、火野があの『処刑道具』へと押し込まれていく。
何の抵抗も無く、それこそ死のうとしている人間では無いかのように。
あっさりと彼は『鉄の処女』の中へ抱かれていく。
姿が消える直前、火野がうっすら苦笑いのような表情を浮かべた。
「諦め…良すぎだろ…」
呻くように四郎が呟く。
その呟きに紫月が小さく首を横に振った。
「昔から…そうなの…火野は何でも独りで決めちゃうから…」
「…紫月…?」
まるで昔からの知り合いだと言っているかのような紫月の台詞。
今までそんな接点が二人にあるなんて四郎は知らない。
学校でもそんな素振りは無かった。
じゃあ何だと言うのだ。
疑問を視線に変えて、隣に立つ紫月を四郎は見上げた。
しかし、紫月は四郎の方を見ようともしない。
「火、野…ッ!!」
「!!」
その名を叫んだ瞬間、ぼろり、と紫月の目から涙が零れる。
次の瞬間、黒子がレバーを大袈裟な動きで下に倒した。
ガタッ、と箱が大きく揺れる。
「…!…!!」
ガタガタと揺れる箱。
小さく声が響いているが、鉄の壁に阻まれていて叫び声か呻き声かすらの判別が付かない。
暫くすると、その揺れも止まり『それ』の下から真っ赤な液体が流れ始めた。
徐々に拡がっていく赤が、火野の命が尽きていく事を示していた。
「嘘…よ…こんなの…ッ」
「紫月…!」
紫月が下がりっぱなしになっていたレバーを上げ、掛かった鍵を外そうと扉を揺する。
しかし、当然ながら鍵はびくともしない。
手の平から血を流しながらも、その動作を紫月は繰り返す。
見兼ねたかのように、彼女の手を掴んだのは意外にも日向だった。
「いい加減にしなよ…」
「火野を…助けなきゃ…」
「もう無理だよ!!死んでんの!!こんな…ッ、生きてる訳無いじゃん!!」
日向の手は震えていた。
血の池が足元に拡がっているのだから。
日向の言葉に、漸く紫月は手の動きを止めた。
そして力が抜けたのかその場にしゃがみこむ。
そんな紫月から手を離すと、日向がスピーカーを見上げた。
「もう無理…!!やるなら早くやってよ…!」
「日向ッ!?」
「耐えられ無いのよ…ッ…こんな空間!!」
人が死ぬゲーム。
最早ゲームと呼んで良いのかすら解らないが。
火野や金弥、六美の様にあっさり『死』という運命を受け入れられる程大人ではない。
かといって、これ以上『生殺し』ともいえるこの状況に耐えられる程精神が強い訳でもない。
日向に出来る事と言えば、叫んで気持ちを紛らすぐらいだ。
現実に嫌気がさす。
――貴方ハ、普通ノ子ナンダカラ…
「!?」
「日向…?」
不意に脳裏に浮かんだ言葉。
頭を振ってそれを掻き消そうとするが、耳に付いて離れない。
心配そうに見詰めてくる秀水に助けを求める視線を送る。
「秀水…」
「だい…」
大丈夫、そう秀水が言おうとしたその時…
『次ノ問題ノ時間ダヨ!!』
「!!」
容赦なく始まるゲーム。
『次ハ…『七瀬日向』君、君ノ『番』ダヨ…?』
「ひッ…」
一人の黒子が日向の足元へ箱を投げつけた。
衝撃で箱が開き『白い紙』と『鍵』が床へ落ちる。
事実上の『死刑宣告』だ。
『ジャア、解答時間ハ50分後ダカラネ!!』
「何で…さっきより短いんだよ!?」
『『罰ゲーム』デ少シ予定時間ヨリ、オシテルカラネ…仕方ナイ事ダヨ?』
秀水は押し黙る。
これ以上食い下がれば、金弥の二の舞だ。
六美と心中した金弥の様に、日向を道連れに自分が死ぬ勇気が秀水には無かった。
この期に及んで情けない自分に歯噛みする。
『モウ質問ハ無イヨネ?ジャア第5問開始~!!』
逃げる事は叶わない。
ただ絶望へと進むしか無いのだ、と実感した瞬間。
酷い脱力感に秀水は襲われ、その場に膝を付いた。
紫月は先程の状態から動かず、拡がる血溜まりをじっと眺めている。
四郎に至っては既に自ら動く事すら出来ない。
ただ悔しげに顔を歪めていた。
横目でそんな彼等を見ながら、日向は緩慢な動作で足元に落ちた紙を拾い上げた。
心の何処かではまだ自分が『死ぬ』等とは考えられなかった。
もしかしたら、そんな淡い期待を抱きながら紙を開く。
其処に書かれていた文字に、日向は黒く縁取られた目を見開いた。
「この中で…最も…『地味』なのは誰…?」
――貴方ハ、普通ノ子…ダカラ…イラナイノ…
また頭の中に『声』が反響した。