CASE17.Q4賢者ハ誰?
『ヤァ、楽シンデクレテイルカナ?』
楽しめる訳なんか無い。
にも拘らずそんな事を聞いてくる『声』。
紫月は憎々しげに、スピーカーを睨み付けた。
『ソレニシテモ、凄イネ。モウ全部ノ問題見ツケタンダ?』
「…何が言いたい?」
『初メカラ場所ガ分カッテ無イト、コンナニ早ク見ツケラレナイト思ウンダケドナァ?』
信じられない事を『声』は言って除けた。
反射的に、5人は顔を見合わせる。
『アァ、今ノハ聞カナカッタ事ニシテネ?』
「どういう…事よ…この中に居るの?『犯人』が…!」
『サァネェ…』
声を荒げた日向の質問に答えないまま、『声』は言葉を続けた。
『ソレヨリ、コノママダト『ゲーム』ガ進マナイ恐レガ生ジルンダヨネ。』
互いに牽制し合うこの状況の事を示しているのだろう。
確かにこのまま誰も『ダウト』をコールしなければ、『ゲーム』は進まないし『犠牲者』も出ない。
しかしそれは『犯人』にとって本意ではないだろう。
全員が固唾を飲んでその言葉を待つ。
『ダカラ、此処デ新シク『ルール』ヲ追加スルヨ?』
「新しいルール…?」
『コレカラ1時間毎ニ、1ツ箱ヲ開ケテ『ダウト』シテモラウ。『ダウト』ヲ行ウ人ハ此方デ決定スルカラネ』
「!!」
『4時間後、生キ残ッタ人ヲ出シテアゲルヨ!!』
案の定、碌な提案では無かった。
しかしそれをやらなければ、待つのは完全な『死』のみだ。
反発する者は一人としていなかった。
『ジャア、今カラ1時間後ノ『ダウト』ヲ…火野君。『音楽室』ノ箱デ行ッテネ?』
『『箱』も指定されるのか…』
『マァ、色々此方ニモ都合ガアルカラネェ…』
歯切れの悪い言葉だけを残し、放送は途切れた。
秀水が悪化した状況に苛立ちを隠せず、近くにあった壁を蹴りつけた。
「…クソッ、ふざけやがって…」
「しかし…やるしかない状況になってしまったのは確かだ…」
火野が『音楽室』の箱を開けた。
どう足掻こうが開けなければならないものだとはいえ、何の躊躇もなくそれをやってのける火野を何処か不気味に思ってしまう。
「お前は『ダウト』される心配ねぇもんな…気楽なモンだぜ…」
若干の嫌味を含ませた言葉を秀水が吐く。
しかし火野は顔色1つ変えず、中に入っていた紙を開いた。
「必ずしも俺が『正解』出来るとは限らんだろう…?」
火野が開いた紙を秀水へと突き付ける。
そこに書かれていたのは…
「『この中で最も賢いのは誰?』…」
「嫌味も皮肉も無しで考えても、答えは『俺』だろうな…」
「そんなの…正解でも不正解でも火野が『ダウト』されるじゃない!」
最初から『火野』を狙ったかのようにしか見えない不条理な問題。
残された『希望』は、『罰ゲーム』で生き延びる事が出来るか否かだ。
一縷の望みを其処に賭ける。
「ねぇ、火野…中には何が入ってた…?」
「…地図と鍵だ。立ち止まってても仕方が無いし…行ってみるか…?」
「うん…」
頷いてはみたものの、紫月は心に浮かんだ不安を拭えなかった。
明らかに今までと『罰ゲーム』の趣きが違うのだ。
鍵のみが手元にあると言う事も引っかかる。
しかし躊躇った所で、やらなければ殺されるのだ。
嫌な考えを頭の中から追い出し、紫月は火野を追った。
地図が示していたのは、グラウンドにある体育倉庫。
錆び付いたドアを開け、埃っぽい室内を覗き込む。
其れは体育用具が並ぶ室内で異様な存在感を放っていた。
隣に居た火野の喉が小さく鳴る。
「鉄の処女…」
有名過ぎるほどの拷問具。
2メートルはあろうかという、鉄製の扉には聖女が描かれている。
箱に入っていた鍵でそれは開き、内側には赤黒く錆びた棘が無数にあった。
棘は完全には突き出ておらず、中に閉じ込めた後隣にあるレバーを引く仕組みの様だ。
ゾッとする光景に、知らずと紫月の体は震え出す。
「…今までの『罰ゲーム』と比べモンにならねーぞ…?」
「確実に、俺を『殺し』にきてるみたいだな…」
火野が眼鏡を押し上げる。
普段と変わらぬ仕草だが、その横顔は心なしか青ざめていた。
それも無理は無いだろう。
何を選んでも『殺』されるという結果には変わりは無いのだから。
「覚悟を決める必要があるな…」
「まだ時間はあるだろうが!諦めんな!!」
四郎が声を荒げる。
しかし、どう考えても良い案なんて無い。
刻々と時間だけが過ぎていき、やがて残された時間は5分程になってしまった。
「もう、無理…だな…」
「火野…」
「俺は、自分を…『ダウト』する。後の事は…一宮、お前に託す。」
火野が眼鏡を外した。
深呼吸を繰り返し高鳴る鼓動を落ち着かせようとしているようだ。
その時、無情にもチャイムが鳴り響いた。
『時間ダヨ!!『ダウト』ヲコールシテネ!』
「火野ッ…!!」
紫月がその手を縋るように掴む。
しかし火野は紫月を振り返る事無く、真っ直ぐ自分を殺すための処刑道具だけを見詰めていた。
全ての覚悟を決めたその姿は潔く、見惚れる程美しい。
全校生徒のトップに立ち続けた彼だからこそ成せる技だろうか。
その時掴んでいた紫月の手を火野がやんわりと外した。
「ありがとう…」
「嫌だ…こんなの…」
「火野!!」
何に対しての言葉かは解らない。
ただ1つ確実なのは、火野はこのまま死のうとしているという事だけ。
紫月や四郎の制止を振り切り、火野が声を張り上げた。
「『ダウト』!!『火野廉二』だ。」
自らを指差し、火野がはっきりと言い放つ。
残された4人はただその動向を見守る事しか出来なかった。