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DoUbT  作者: AkIrA
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CASE14.永久ノ愛

点々と目印の様に散っている赤い染みは、真っ直ぐ屋上へと続く階段へと向かっていた。

体制を崩したのか、時折左側の壁にも赤い手形が残っていた。




「屋上って…」

「早く行かなきゃ…!」




秀水の言葉を遮り、紫月は駆け出す。


屋上で二人がどうするか、なんて火を見るより明らかだ。


一段一段が酷くもどかしい。

息を切らせながらも、紫月達は屋上へと辿り着いた。

錆び付いたドアを勢い良く開くと、探していた人物達が其処にいた。




「五木!土橋さん!」




二人は既に、フェンスの外側に座っていた。

体を少し倒せば、簡単に落下するだろう位置だ。

距離を保ちつつ、紫月は声を張り上げた。




「どうして…!死んだら、何もかも無くなるんだよ!?」

「『死ぬ』つもりは無いわ…」




六美の髪が風に靡く。

爛れた頬を伝うのは涙だろうか。




「『自由』にして貰うの…金弥にね…」

「戯言よ…そんなの!!」

「アナタにとってはそうかもしれない。」




六美は振り返らない。

その目に映すのは、五木金弥ただ一人。




「でも、私にとっては…これが最大級の『救い』なの。」




その時、金弥の血塗れになった手が、六美の背中を優しく抱き寄せた。

満足気に、六美が微笑む。





「六美…そろそろ行くか?」

「ええ…」

「じゃあな…一宮、三井。」

「待って!!考え直して!!」




紫月の制止は最早何の意味も持たない。

金弥はやはり紫月達に視線も向けず、六美だけを見詰めている。

まるで自分達だけが其処に存在しているかのように。




「お前が、好きだ…」

「私もよ…」

「ずっと一緒に居よう…」




言葉だけを拾えば、プロポーズのそれだ。

しかし、二人が今からしようとしている事を考えれば『呪い』めいた言葉にも聞こえる。

『死』を以てしても、離れないという『呪縛』。



一度だけ、二人は視線を合わせ微笑み合った。

そして何の躊躇いもなく、体を左側へ倒していった。


それは一瞬の出来事。

紫月の視界から二人の姿が消えた。

直後に、ドサッ、という重いモノが地面に叩き付けられかのような音が響く。

其処から下を覗き込む勇気が、紫月には無かった。

ふらりと、その場に倒れそうになる紫月の肩に秀水が手を掛け支える。



「確認…してくる…」



紫月の横を秀水が通り抜け、フェンスから身を乗り出す。


その惨状に思わず口元を押さえた。



二つの人らしきモノが地面に転がっていて。

それを中心にして、放射状に赤い血が撒き散らされている。

関節は在らぬ方向へ曲がり、(ハラワタ)が衝撃に負けて飛び出していた。



言うまでもなく『死体』だ。




「秀水…君…?」




秀水が首を横に振る。

その動作だけで、全てを表すには充分だった。




「戻る…か、」

「ん…」



フェンスから身を離し紫月の元へ戻ろうとした秀水は、違和感を覚えその動きを止めた。


慌てて、先程の様にフェンスから身を乗り出す。




「外、見てみろよ…」

「え…」

「あんまり下は…見るなよ?」

「う…ん」




言われるがままに、紫月はフェンスに手を掛けた。

その瞳に映り込んだのは…




「これ…って、」




校舎だと思っていた建物は、校舎では無かった。

見下ろした壁は何の色もないただのコンクリート。

校庭の向こうには10メートルはあろうかという鉄扉。

其処から円形に繋がる壁は、まるで監獄のように建物を囲っていた。




「私、ずっと学校にいると思ってた…」

「俺だってそうだよ…こんなの、どう足掻いたって逃げられないじゃん…」




逃げる気力は、そもそも端から挫かれていたが。

僅かにあった希望を今全て壊された気分だった。




「やっぱり…この『ゲーム』を『クリア』しないと…駄目なんだね…」




紫月がぽつり、と呟く。

分かりきっていた事だが、希望を打ち砕かれた今は余計にその言葉は胸に響く。

秀水は折れそうになる気持ちを抑えて、紫月を振り返った。




「なら、『ゲーム』を続けても…皆で生き残れる道を探そう…」

「秀水君…」

「馬鹿だよな…本当。…後悔するくらいなら…始めからしなければ良かった…お前の言う通りだ…」




それはきっと、四郎を『ダウト』した事だろう。

間接的ながらも、想像も付かない程の痛みを与えてしまったのだ。




「ああすれば…俺の逆恨みの気持ちも晴れて…四郎も俺を恨み返してくれたら、罪悪感も感じなくなると思った…」




しかし、四郎は秀水を許した。

自分の『非』を馬鹿正直に認めてまで。

恨んでくれた方がどれだけ気が楽だったか。


秀水に残ったのは『後悔』と『自責』だけ。




「アイツは本当に…大馬鹿だ…」

「それが…四郎の、良いとこだよ…」

「ああ…本当ッ…嫌に、なる…やっぱり、嫌いだ…あんな奴…!!」




吐き出した全ての想い。

あどけなさの残る顔を歪めて、隠すこともせず秀水は涙を流した。




「…馬鹿だから…助けて、やりたい…俺も…ッ、馬鹿だから…」

「秀水…君、」




紫月の声にふと、秀水は我に返る。

制服の袖で頬を濡らす涙を乱暴に拭った。




「悪かったな…情けないとこ…見せた…」

「私も…だよ、此処に閉じ込めてから…見たくない自分ばっかり…」




紫月がスカートからハンカチを取り出し、秀水の頬にそっと宛がった。

その暖かさにまた秀水の大きな瞳に涙が滲む。




「一緒に皆で、帰ろう…」

「…ッ…あぁ…!」




再び零れた雫をハンカチで押さえて、秀水は頷いた。



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