表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DoUbT  作者: AkIrA
13/26

CASE13.後悔ト懺悔

廊下の隅に隠していた筈の『箱』。

それは例の如く、『黒子』達の手にあった。

くり貫かれた2つの穴から覗く『目』が、無表情に四郎を見下ろしていた。





『デハ『罰ゲーム』ノ時間ダヨ!!今回ハ、4本ノ釘ヲ、手足ニ打チ込マセテモラウヨ?』





不気味に光る長い釘。

それが四郎の視界に入った。

固定された腕にそれが宛がわれる。

金槌を持った黒子が大きく振りかぶると、勢い良くそれを打ち下ろす。




「…っあ!!」




四郎の背が跳ねる。

細いながらもその釘は四郎の筋肉を裂き、腱を傷付け床へ突き刺さった。

突き抜ける痛みと、遅れてやってくる脱力感。


もう今までのようには、バスケをすることは出来ないかもしれない。

四郎は何処か他人事のように、そう考えた。



「…し、ろう…」



消え入りそうな声が耳に届く。

自分を取り囲んでいる黒子たちの間から見えた紫月の表情は今にも泣きだしそうだ。

伸ばそうとした手は抑え込まれ、再び釘を宛がわれた。



「見、んな…紫月!」



痛みに情けなく悶える自分の姿を紫月には見られたくなかった。

こんな時でも、好きな相手には格好付けたい。

そう思ってしまう自分に余計情けなさを覚えたが、それ以外の言葉は思いつかなかった。



「四郎!」

「一宮!!」



駆け寄ろうとした紫月を火野が止めた。

尚も暴れようとする紫月を羽交い絞めにして、その動きを止める。

自分のために必死になってくれている彼女を見て、少し嬉しいと感じてしまった。

しかしそれで全てが終わるわけではない。



「っ!!!」



再び打ち下ろされた金槌。

今度は一度で貫通せず、骨の処で釘が止まった。

其処で許されるわけもなく、また黒子が振りかぶる。

完全に床へ釘が減り込むまで、何度も何度も金槌は振り下ろされた。


一度に釘に当たれば良い。

目測を誤るのか、それとも態となのか。

釘を捕らえられなかった金槌は、四郎の肘関節や尺骨へ直接打撃を与える。

全ての釘の打ち込みが終わる頃には、手足は赤黒く変色し大きく腫れ上がっていた。




「四郎…」

「…ってぇ…シャレ、なんね…」



動かない手足を投げ出し、四郎が苦笑った。

その横に秀水が膝をつく。

相変わらずその体は震えている。



「四郎…俺…」

「何で、お前が…んな顔すんだよ…泣きたい、のは…俺の方だっつの…」



見上げた秀水の顔は今にも泣きだしそうで。

自分のした事を明らかに後悔しているだろう表情だ。



「後悔するなら…何でこんな事したの…?」



びくり、と秀水の肩が震えた。

か細いながらも、その声は大きく響く。

それは先程、日向を追い詰めた声。

色の無くなった瞳が、無感情に今度は秀水を追い詰めて行く。


「ずるいよ、秀水君…今更そんな顔して、四郎に許してもらおうとしてる…」

「紫月…良いから…」

「秀水君が、四郎をこんな風にしたのに…」

「紫月!!!」



さっきは止められなかった。

今度は止めないといけない。

ただ、漠然とした確信。


四郎は打ち付けられた手足を無理矢理引き抜いた。

刺さった方向とは逆に抜けていった釘は、結果的に四郎の四肢を完全に通り抜ける。

肉か、筋か分からないモノが床に残った釘に纏わりついていた。




「紫月、やめろ…!」

「四、郎…」




不自由になった足を引き摺り、感覚の無い腕で紫月を抱き締める。




「良いから…」

「何、で…?」

「お前が本当にその言葉を望んでないから…」




紫月の視界が大きく歪んだ。

濃い鉄の匂いに、徐々に沈んだ意識が戻ってくる。




「し、ろ…私…ッ、」

「大丈夫…大丈夫だから…」




大粒の雫が、紫月の目から溢れ落ちた。


痛みで飛びそうになる意識。

それを必死で繋ぎ止め、四郎は紫月からゆっくり体を離した。




「四郎…ごめ…、俺…」

「良い…元は俺の、所為…だしよ…」




立っている事が出来ず、ふらつく体を壁で支える。

そのまま、ずるずると体を壁に預けたまま四郎は床に座り込んだ。



「まだ…3問かよ…割に合わねぇなぁ…」

「取り敢えず、手当てするか…」

「悪いな、」




救急箱を持った火野が四郎の前に座り込む。

そして素人とは思えない手際で、四郎の傷を手当てしていった。

それが粗方終わったその時…




「ねぇ…火野!」

「どうした?」

「居ないの…!!」




俄には紫月の言葉を理解する事が出来なかった。

しかし保健室を見回し、違和感と共に紫月の言葉を火野は理解した。




「アイツら…あんな体で…」

「見て!!」




紫月が指差す先には、点々と散る赤い染み。

恐らくは金弥の腹から出たものだろう。


何時、彼らが出ていったのかは分からない。

しかし、手遅れになる前に追わなければならない。




「私、追いかけてくる!」

「待て!一人は危険だ…!」



出ていこうとする紫月を火野が止める。

その時、四郎に謝ったきり黙り込んでいた秀水が顔を上げた。



「俺が付いていくよ…単独行動しなけりゃ、安心だろ?」

「それなら良いが…」

「…ありがとう、秀水君…!」



火野の了承を得た所で、紫月が廊下に飛び出していく。

それを追おうとした秀水を四郎が呼び止めた。




「秀水…!頼…むな」




四郎の言葉に頷くと、秀水は紫月を追って廊下に出た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ