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君の思い出 ~ Memories Of You 

#4

「あの子、変じゃないか。さっきからあのボックスの前にずっと立ってる」

 フロア長の長谷部が篠原にそっと目配せをした。視線の先には小柄であどけない顔の少年。詰め襟で変わりボタンのその制服は、この近くでは見かけないものだった。

 新宿の中心にある山場楽器店は、各フロアごとに楽器や楽譜売り場、そして音楽CD売り場と分かれていた。もっとも、CDはさらにジャンルごとに階が違い、四階のクラシック、ジャズコーナーには、他の階よりは人もまばらで、余計その少年の姿が目立っていた。水曜日の昼下がり、まだ学校もあるだろうに。おそらく中学生ではないか。

 篠原が大学に入ってから始めた山場でのバイトも、もう一年になる。仕事にも慣れ、だいぶいろいろ任されるようになってきていた。ジャズ研ではビッグバンドでトランペットを吹き、講義のない日は目一杯バイトを入れる。今しかない人生の猶予期間を思い切り楽しもう、そう決めて篠原は毎日を忙しく過ごしていた。

 長谷部からそう言われ、篠原も注意して少年の姿を追った。クラシックの一区画の前から動こうともせず、手だけをせわしなく動かす。何度もCDを出したりしまったり、順序を入れ替えたり。買う気はサラサラないようだが、時折ジャケットをじっと見つめ、酷く苦しげにため息をつく。何をしているんだろう、篠原が思いきって声をかけようと一歩踏み出した時、少年の手が一枚のCDをつかみ、それをさっとカバンの中に落とし込んだ。

「あっ!?」

 思わず篠原は長谷部と顔を見合わせた。

 やっぱり。

 フロアを出ていこうとする少年の肩を、篠原は周りに気づかれないようにそっと叩いた。彼がびくっと体を震わせる。怯えたような顔で篠原を見上げた。


 裏の事務室で、少年と篠原、そして長谷部が向かい合う。篠原が機械的に用紙に何か書き込んでいく。売り場の仕事をしていれば万引きなんて日常茶飯事だ。いつものように少年に名前と学校名を訊くが、少年は何も答えなかった。

「調べればすぐわかることなんだよ。自分から言ってくれないか」

「お願い、学校には知らせないで!」

 ようやく少年が口を開く。

「家と学校に連絡するのが決まりなんだよ」

「家には誰もいない」

「じゃあ夜まで待つよ」

「親なんていない」

「すぐばれる嘘をついたってダメだよ」

「本当だよ!…日本にはいない。お願い、もうしないから。お金ならちゃんと払うから、だから」

 ため息をついて篠原は長谷部と顔を見合わせた。実害があったわけじゃない。どうやら初犯らしいし、ここは説教一つで帰すとするか。長谷部が少年に聞こえないようにささやく。

「じゃあ学校にも家にも連絡しないから、正直に答えてくれないか?ここに自分の名前と住所と電話番号と、学校の名前を書いてよ。嘘はダメだよ。きみを信じるからね」

 少年は硬い表情でボールペンを持つと、思いのほか素直に書き始めた。

 高橋一樹。横浜市中区山手町。横浜桐村学園中等部。その文字を見た篠原が思わず大きな声を出す。

「きみ、横浜に住んでて横浜の学校に行ってるの?何でこんな時間に東京なんかにいるんだ?」

「レッスンがあったから」

 ぼそっと少年がつぶやく。言われてみれば焦げ茶色の楽器ケースを足元に置いていた。この形は、トランペットか。

「かずきくん、でいいんだよね。トランペットの個人レッスンを受けてるの?すごいなあ。俺も趣味でラッパ吹いてるんだ」

 気さくに話しかける篠原にも、一樹は何も答えなかった。篠原はもう一度ため息をつき、気を取り直して一樹に向かった。

「じゃあ、教えてよ。どうしてこのCDを盗ろうとしたの?」

「……」

「そんなに好きなの?」

「好きなわけない!」

 一樹が吐き捨てるように言う。篠原も長谷部も驚いて彼を見つめる。

「嫌いだ、こんなヤツ。大嫌いなんだよ」

 改めて篠原が手にしたCDのジャケットを見た。ロンドン交響楽団のブラームス。ジャケット写真には、指揮者一人がラフな衣装でにこやかに微笑んでいる。穏やかそうな優しそうな瞳。

「嫌いって、この人高橋孝一郎だよね。日本で一番有名な指揮者じゃないか。世界的に評価の高い現代作曲家でもあるよな。どうして嫌いなんだい?」

 長谷部はさすがにクラシックにも明るい。正直に話す約束だよね、そう一樹に促す。

 口をつぐんでこわばっていた一樹は、下を向くとぽつりとつぶやいた。

「こいつ、ぼくのお父さんなんだ」

「えっ!?きみ、高橋孝一郎の息子なの?」

 長谷部が思わず絶句する。

「嫌いなはずのお父さんのCD、どうするつもりだったの?」

「こんな写真、嘘ばっかだ。お父さんは笑ったりしない。ぼくの前で笑ったりしない。踏んづけて粉々に砕いて、捨ててやろうと思ったんだ」

 涙をこらえるように一樹が唇を噛む。二人は何も言えなくなってしまった。

「お父さん、今はパリ・ニューフィルハーモニーの常任をされているんだったっけ。日本にいないって言ったのは、仕事で長く家を空けているから?」

 長谷部が優しく一樹に問う。一樹はかぶりを振った。

「ううん、向こうに住んでる。お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、ずっとパリに行ったきりで帰ってこない。ぼくだけ、置いてかれたんだ」

「どうして…」

「ぼくが、へただから」

 とうとうこらえきれずに、一樹は涙をこぼした。

 そう言えばたしか高橋孝一郎の娘って、バイオリンの天才少女って有名なんだよ、長谷部が篠原にそっと教える。篠原は辛そうな表情で一樹を見た。

「クラシックなんか大嫌いだ。お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、大嫌いだ。違う、嫌われてるのはぼくだ。ぼくはいらないんだ」

「一樹くん」

 一樹の頬に涙が幾筋かの跡をつける。しばらくそうしていた後、小さな声で「ごめんなさい」とつぶやいた。

「もうしないよな」

「うん」

「じゃあちょっと、俺に付き合ってくれないか」

 努めて明るい声で、篠原が一樹に誘いかけた。一樹は驚いて顔を上げた。まかしたぞ、長谷部が篠原の背中を叩く。店のエプロンを取り、荷物をひっつかむと篠原は、とまどい顔の一樹を外へと連れ出した。


「ジャズのライブハウスなんて、見たこともないだろ」

 不審そうな目で見上げる一樹にはお構いなしに、篠原は腕を取ってどんどん歩き出した。どこに連れて行く気だよ、弱々しくつぶやく一樹の声は届いていないようだった。

 新宿駅から小田急線で下北沢へ。駅を降りると篠原は、一樹を引きずったまま南口の方面に進んでいく。店や小劇場が建ち並び、狭苦しい道路には看板があちこちにはみ出している。一樹は目だけをきょろきょろさせながら、迷子になるまいと不安げに、篠原の腕をしっかりとつかんでいた。

「ライブハウスって、何?」

「今から行く店は『ジャムズ』って言うんだけどさ。そこのステージに毎晩生バンドが入って、演奏を聴かせるんだ。飲んだり食ったりもできるけど、ジャムズに来る客はみんな、本当にジャズが好きな連中ばっかだから」

「ジャズって何だよ。ぼく知らないよ」

「だから聴かせてやるってば。いいからついてこいよ。世の中にはクラシック以外の音楽だってたくさんあるんだ。君もラッパ吹きならさ、いろんなジャンルの曲も聴きなよ。高橋孝一郎は確かに日本を代表する立派な音楽家かもしれないけど、それがすべてなんじゃない。君は君だし、そんなものにとらわれる必要もない。そうだろ?」

 明るく篠原が大声を出す。友達の中でも面倒見がよいと言われる、悪く言えばお節介な性格が、篠原をそうさせていた。

 不意に彼が足を止める。

 通りの端に、その店はあった。

 三階建ての雑居ビルの一階がライブハウスになっていて、その上はどうやら居住スペースになっているらしかった。

 道路に面した側に大きなガラス窓があり、そこから中がうかがえた。鈍く光るのはドラムセットのシンバルか。

「普通さ、ライブハウスなんて地下にあったり全面防音壁で圧迫感あったりするんだけど、ここ変わってるだろ。この窓からちょっぴり音が道路にまでもれて聞こえて、なかなかいい雰囲気なんだぜ」

「変わってるも何も、ぼくわかんないよ」

 一樹が口をとがらせた。全く意に介さない風で篠原が分厚い木製のドアを開ける。

 後ずさりする一樹の背中を、その大きな手のひらで押す。中にいたバンドの連中が、一斉に彼を見た。

「おせーよ、篠原。遅刻だぞ」

「わりい、わりい。友達連れてきた」

 友達じゃないよ、一樹が小声で抗議するのにも平気な顔で、篠原は他のメンバー四人のいるステージの方に向かっていった。

「マイルスやガレスピーの名盤もいいけどさ、ジャズはやっぱり生を聴かなきゃな。これはおれのバンド。下北沢ハイソサイアティ、通称下北ハイソって言うんだけどさ」

 男ばかり、全員大学生だというそのメンバーたちは、小柄な一樹をほほえましいといったまなざしで迎えた。それに生意気な視線でぐっとにらみ返す。

「しょぼい名前」

 減らず口をたたく。大学生たちの顔が引きつったのと同時に、一樹の頭の上を誰かがグーでこづいた。

「いってえ!何するんだよ!?」

「この桃子とうこさんが、目上の人に対する口の利き方を教えてあげるわよ。あんた中学生?」

「とうこ、さん?」

 一樹が思わず振り向くと、そこには美しい女性がいた。

 透き通るような肌、細面に切れ長の目。薄く形のよい唇が片方だけきゅっと持ち上がって、微笑みを形作っていた。金髪に近いほどカラーリングした髪はショートにして、少しだけ横に流している。細身の身体をぴったりとしたサマーニットで包み、タイトなロングスカートからは引き締まった足首を少しのぞかせている。そこにやや彼女に不似合いなロゴ入りのエプロン。Jam’sと書かれていた。この店のスタッフなのだろう。彼らと変わらない歳のようだが、とても落ち着いて見えた。

 女性にしては低く、ささやくような声で彼女は一樹に向き合った。

「そう、とうこ。桃子って書いて『とうこ』って読ませるの。父は桃源郷から付けたって自慢するけど、普通読めやしないわよね。あんたは?」

 大きく、濡れるように光る漆黒の瞳に見つめられて、一樹はどぎまぎした。

「あ、あの…高橋一樹」

「この子ね、すごいんだよ。あの高橋孝一郎の息子なんだって」

 なぜか自慢げにそう言う篠原に、桃子はげげんそうな顔をした。

知らないの?あんなに有名なのに、と力説する篠原に、バンドの連中は「誰だよそいつ、知らねえよ」と口々に言葉を返した。

 一樹の顔が曇った。悔しそうに唇を噛み、下を向く。

 ばつが悪そうにメンバーと一樹の顔を見比べていた篠原は、一樹に小声でささやいた。

「よかったじゃん。きみお父さん嫌いなんだろ。広い世の中にはさ、けっこう知らない人もいるんだよなって」

 ますます一樹の表情がこわばる。篠原はあわてて、もう一度桃子に話しかける。

「桃子さんは知ってるよね、高橋孝一郎って」

「ごめんなさい、あたし最近テレビ見ないから。ミュージシャン?俳優?政治家とか」

「もういいよ!」

 すっかり拗ねてしまった一樹に、桃子は柔らかい視線を投げた。

「いいじゃない、誰が父親だろうと。あんたはあんたでしょ。何か飲む?」

 無言の一樹の前に、クラッシュアイスの入ったコーラを置く。

 篠原は自分の楽器ケースからトランペットを取り出し、一段高くなっているステージの方へ上がっていった。マイクの向きをセットし直す。譜面台に幾枚かの五線譜を並べた。

「とにかく聴いてよ、一樹くん。まあしょせん学生の素人バンドだからさ、大したことはないけど。でもジャズのニュアンスだけは伝わると思うよ」

 徹夜で音を取って譜面を起こしたんだ、と篠原は得意げに一樹に向かって言った。

 他のメンバーたちはそれぞれの楽器を手に、演奏開始の合図を待っていた。

 ドラムスがカウントを取る。いきなり変則的なリズムで曲が始まる。

 チックコリアのスペインだ。

 それを原曲よりもさらに速いテンポで、トランペットとリズム隊のためにアレンジされたバージョンでやっている。

 下北ハイソの演奏はお世辞にもかみ合っているとは言えなかったが、若者の持つスピード感はよく伝わってきた。桃子は、「中学生に聴かせるなら、もうちょっとスタンダードな曲がいくらでもあるでしょうに」と苦笑いしている。

 一樹は、篠原のトランペットを食い入るように見つめていた。

 楽しげに目配せしながら、リズム隊がリフを合わせている。それになぜかワンテンポ遅れて、篠原がメロディーをかぶせる。ドラムがずれていく篠原にわかりやすいようにと、大げさにバスドラで刻みを入れる。あわてて篠原もそれに合わせる。

 ようやく五人がそろって、最初の主旋律に戻ってきた。そのままエンディングに入る。

にこにこしながらステージを降りると、篠原は「どうだった?」と一樹に問いかけた。

それまで息を詰めるように彼を見つめていた一樹は、口をとがらせるとぼそっとつぶやいた。

「へったくそ」

「何?」

 篠原の顔が引きつる。バンドの連中も表情を険しくさせて一樹の方に視線を送る。

 誰かが何かを言う前に、しかし桃子が一樹の頭を今度は力を込めてグーでこづいた。

「痛いなあ、やめろよこの暴力女!」

「生意気言うんじゃないわよ。礼儀ってもん知らないの?」

「下手にへたくそって言って、何が悪いんだよ。ハイAの音も外すヤツがよく人前で吹けるよな。信じらんない」

「あの、そりゃ俺はへただけどさ、曲はいい曲だろ。ジャズっておもしろいって思ってもらえれば」

 動揺を隠せない篠原は、それでも一樹にそう笑って言った。けれど一樹はさっきよりも大きな声で毒づいた。

「何がジャズだよ、ロドリーゴのアランフェス協奏曲じゃないか。使ってる音だってつまんないし大したことない。ジャズなんてどうってことない」

「そんなに言うなら、きみも吹いてみろよ。個人レッスン受けてるんだろ。このくらいの初見、朝飯前なんじゃないのか」

 さすがの温厚な篠原も、やや切れ気味にそう言い返す。一樹は力を込めて彼をにらむと、 自分のケースからバックのトランペットを取り出した。

 ステージの真ん中に姿勢良く立つ。メンバーたちがため息をついてまたセッティングを始める。ホントにやるの?ピアノの小島がつぶやく。ドラムスの亀山は、幾分優しげに「ゆっくりでいいからね」と一樹に話しかけた。

「さっきのテンポでいい。もっと速くったっていい」

手書きで細かく、アドリブまでコピーされた楽譜をにらみながら、一樹はそう返した。むっとして亀山が、やれるもんならやってみろ、とつぶやいた。

 曲が始まる。

 テンポはさっきより速いかもしれない。しかし一樹のトランペットは、全く初めての曲を合わせているとは感じさせないほど、安定していた。

 十六分音符ばかりのトリッキーなキメも、一度目からぴったりと合っていた。

 そしてそのままトランペットのアドリブに入る。一樹の右手がまるで鍵盤上を走り回るピアニストの指のように、軽やかに動く。ところどころに出てくる高い音も難なく響かせ、一樹は六十四小節のアドリブパートを吹き切った。

 バンドのメンバーたちが目を見合わせる。篠原は自分がひどく言われたこともすっかり忘れて、目を輝かせて彼を見つめている。桃子一人は、さっきと表情を変えない。

曲が終わって降りてきた一樹に、篠原は「きみ上手だねえ。」と笑いかけた。小島も亀山もすっかり感心して一樹に声をかけている。

 一樹は得意げに、桃子の前に立った。

「ジャズなんて簡単だ。どうってことない」

 だが桃子は、片方の口元をわずかにゆがめ、何も言わなかった。

「なんか言えよ暴力女。何で黙ってるんだよ」

「へたくそ」

「なっ!?」

 思わず一樹はかっとなった。顔がほてって赤くなる。しかし桃子は顔色一つ変えない。

「何でだよ桃子さん、一樹くんこんなに上手じゃないか。まだ小さいのに、俺なんかよりよっぽど音は出るし指は回るし、すげえよこいつ」

「篠原くん、人が良すぎるにもほどがあるわよ。下手に下手って言って何が悪いの、そうでしょう」

 桃子はそう言って微笑んだ。クールビューティ。桃子の美しさは引き立ったが、目は笑っていなかった。

「どこが下手なんだよ!ちゃんと吹いただろ。間違ってなかっただろ?」

 一樹が食ってかかる。それにあくまでも冷静に桃子は答えた。

「だから、何?今までジャズを聴いたこともないんだからしょうがないけど、あんたのはジャズじゃない。指が回ることが自慢なら、中国雑伎団にでも入れば?」

 一樹は押し黙った。無言のまま乱暴にケースに楽器をしまうと、入り口に向かって歩き出す。その背中に篠原が声をかけるが、返事をしない。

 木製の大きなドアに手をかけると、一樹は振り向いた。悔しげに唇を噛み、桃子をきっとにらむ。

「来週も、バンドの練習してるの?」

 毎週この時間はここでやってるよ、とあわてて篠原が返事をする。だったら、と一樹は言葉をつないだ。

「来週また来る、絶対来る。今度はそんなこと言わせない。覚えてろよ暴力女」

「暴力女じゃないわよ、神原桃子。桃子でいいわ」

 そんな一樹に、桃子は微笑みを返した。今度は瞳が柔らかい。一樹が扉の向こうに消えてから、桃子は篠原の方に視線を向けてふっと笑顔を見せた。


「それから毎週、律儀に通ってきたわよね」

 すっかり背の高くなった二十歳の一樹を目で追いながら、桃子が篠原に語りかける。

「そうだったね。俺にもバンドの連中にも、桃子さんにも憎まれ口ばっか叩きながら、けっこう真面目にジャズを勉強していたよね。どんどんうまくなって、何でも吸収して。本当に彼は、ウイントン・マーサリスみたいになるのかと思ってた」

 篠原もその頃を懐かしむように目を細めた。

 白い洋館にお手伝いさんと二人で住み、週に一度東京へ出てくる。横浜から下北沢へ、それは一年以上続いた。一樹が病気で倒れるまで。彼の指が動かなくなったあの日までは。



(つづく)

北川圭 Copyright© 2009-2010  keikitagawa All Rights Reserved

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