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何故か長くなったので、連載にしました
名前を借りました
ありがとうございます
気付いたら森にいた。
私は百竜 星。20才。カフェでバイトをしている。
バイト終わりにコンビニで買い物して、家に帰ろうとしていたのに。
ここはどこだろう、と辺りを見回す。無闇に動いて、迷子になって遭難するのも困るから、ウッカリ動けない。
その時、ガサガサと、茂みの向こうから、音が近付いて来た。
ビクビクしながら、音のする方を見ていると…
人がヨロヨロと歩いてきて…倒れた。
「う…」
倒れたのは男だった。
「大丈夫ですか?」
その場から、恐る恐る声を掛ける。
男は驚いて、こちらを見た。
こちらを見ながら、右手を、左腰に伸ばした。
「……???……」
男は、私を見て…しばらく考えていたが
「み…水…水をくれ…」
と、言った。
水?喉乾いてるの?
丁度、コンビニで水を買っていた。
「お水どうぞ」
そっと近付いて、ペットボトルのフタを開け、男に差し出す。
男は、私とペットボトルを見比べ…
「ありがとう…これは…水?なのか?」
と聞いた。
このメーカーの水を見たことないのかな?
「あ、起きれます?」
「…いや…すまない、身体を起こすのを、手伝ってくれないか?」
私が肩を貸して、どうにか身体を起こせた男は、ハァハァと荒い呼吸をしていた。
近くの木に寄りかかる。
私は急いでペットボトルのフタを開け、男に差し出した。
「ありがとう…」
男はペットボトルを受け取り、ゆっくりと水を一口飲んだ。
しばらく止まっていたが、また水を飲んだ。
半分ほど飲んだ所で
「すまない…全部飲んでしまうところだった」
「大丈夫ですよ〜喉乾いてたんでしょう?全部飲んでください」
「ありがとう」
男は、ゆっくりと、全部飲んだ。
そこで、やっと落ち着いたのか、私を見た。
「…変わった格好をしているな」
「そうですか?」
「見たことない格好だ」
「え?」
私は首を傾げる。
そして、男の服を見る。
…普通のワイシャツとズボン…に見えるけど。でも、ネクタイじゃない。ヒラヒラした布がある。
この、ヒラヒラした布って…異世界物のコミックで見たことある。貴族のやつ?
「あの、ここ、どこですか?」
「ここは、メインクーンの森だ」
「メインクーンの森…?」
聞いたことない。え、まさか、私、異世界転移した系?
「あの…この国の名前は?」
「変なこと聞くな?デプース国だ」
異世界転移した系だ。
「…あの…変なこと言いますけど」
「何だ?」
「私…この国じゃないところから、飛ばされて来たみたいで」
「ん?」
「この国のこと知らなくて」
「え?」
「住む所もなくて」
「ちょっと待て、…お前…異界から来たのか?」
「異界?」
私は首を傾げた。
「こことは違う、異界から来た者が、たまにいるんだ」
たまにいるんだ。
「そうなんですか?」
「うん」
「う〜ん…帰れます?」
「帰った話は聞かないな…仕方ないな、うちに来い」
「え?良いんですか?」
「良いけど……良いけど、少しは警戒しろよ」
「え?…だって…知らないところだし…知り合いも頼れる人もいないし…」
「まぁ、そうだな。俺は、ラグドール。お前は?」
ラグドール、は名前だろうか?
それなら、苗字は言わなくて良いか。
「私は星です」
「星か…よろしく」
「よろしくお願いします…年上?ですか?」
「俺は25才だ」
「ほ〜」
「老けて見えるか?子どもにはオッサンに見えるよな?」
「私20才です」
「は?嘘だろ!?」
「…もっと下に見えたんですか?」
「15くらいかと」
「さすがにそれはない」
「そう見えるけどな…そろそろ…行くか」
「え?…はい。もう大丈夫ですか?」
「まぁな…」
ラグドールさんはゆっくり立ち上がり、歩きだした。
しばらく歩くと、人の気配がした。
ラグドールさんの動きが止まったので、じっとしておく。
「若〜!」
声が聞こえた。
ホッとした様子で歩きだす。
「若〜!」
「こっちだ!」
返事をした。
やがて、男が近寄ってきた。
「若!ご無事で…」
途中で、私に視線が移る。
「こちらは?」
「拾った…いや、拾われたのか?」
「?」
「倒れた時に、水をくれた」
「なんと…ありがとうございます」
男は、私に向かって頭を下げた。
「いえいえ…そんな…」
「話は後だ。帰ろう」
「はい」
またしばらく歩くと、荷馬車があった。
荷馬車にラグドールさんと並んで座り、男が御者席に座り、馬車を動かす。
荷馬車の前と後ろで、改めて名乗りあう。
男は、バーマンという、執事さん。さすが異世界。執事がいる。
ってことは、ラグドールさんは貴族?
ラグドールさんが、バーマンさんに私が異界から来た事と、しばらく家に泊める事を話す。
しばらくって事は、出ていかないといけないのかな…
仕方ないか…
お金稼いで、自立しなくちゃ。
着いた所は、一軒の家だった。
かなり大きい。
中に案内される。
あ、靴は脱がないんだ。
土足だ〜慣れなくちゃ。
ソファのある部屋に入り、座って待つように言われる。
ラグドールさんと、ソファの対面の席に座って、部屋を見回す。
バーマンさんが、お茶とお菓子を持ってきた。
お菓子を食べ、お茶を飲んでいる間に、部屋の用意をしてくれたみたいだ。
部屋に入ると、広さに驚いた。
応接セットと、本棚と机があり、クローゼットとバストイレ付き、奥にあるもう一つの部屋が寝室だった。
私が借りてたアパートより広いよ?
やっぱり貴族なのかな?
「良いんですか?こんな広い部屋?」
「広い?狭いだろ?悪いな、狭い部屋で」
「私が借りてたアパートより広いです」
「…そうなんだ…」
「ありがとうございます」
お風呂の使い方を教えてもらい、…よく考えたら着替えがなかった…
ラグドールさんが、自分のシャツとズボンを持ってきてくれた。
「困った事があったら、いつでも声掛けろよ」
「ありがとうございます」
私は早速風呂に入り、下着はそのまま自分のだけど、シャツとズボンを着て、疲れたのでさっさと寝る事にした。
翌日、目が覚めた私は、顔を洗い、一階に降りた。
昨日のソファの部屋に入ると、ラグドールさんがいた。
「おはようございます」
「お〜おはよう。よく眠れたか?」
「はい。ありがとうございます」
「飯あるぞ」
「ありがとうございます……どうしたんですか?」
目の前の席を指差され、そこに座る。
ラグドールさんは、紅茶を飲みながら、書類を見ていた。
「店をやろうと思ってるんだけど、何にするか悩んでて」
「店?」
「そう」
話してるうちに、バーマンさんが朝食のパンとスクランブルエッグとサラダが乗った皿を持ってきた。
食べながら続ける。
「何でも良いんですか?」
「何でもいい」
「じゃあ、カフェにしましょう」
「カフェ?」
ラグドールさんが、首を傾げる。
「コーヒーって飲み物あります?」
「コーヒー?聞いたこと無いな」
無いのか。なら紅茶か。
紅茶ならカフェじゃおかしいな。
「じゃあ…ティーサロン?紅茶と軽食を出すお店はどうですか?」
「う〜ん…いいかもなぁ…軽食って…何があるんだ?」
「お菓子とか?パンケーキ?サンドイッチ」
「サンドイッチ?」
「パンにハムとかチーズとか挟むやつ」
「ふぅん…それは…いいかもなぁ…」
「挟むだけなら簡単だし」
「紅茶なら、バーマンが上手く淹れられる」
ラグドールさんの言葉に、バーマンさんが礼をする。
「お店はもうあるんですか?」
「物件は、何件かあるけど、まだ決めてない」
「じゃあ、どんなティーサロンにするか考えてから、物件を見てみましょう」
「どんなティーサロン?」
「私がよく行くのは、本が読める店です」
「本が読める…?」
「猫ちゃんと戯れる店とか」
「猫と戯れる!?」
「温泉がある店とか」
「温泉って何だ?」
「地面からお湯が湧き出るところがあって、そのお湯でお風呂に入るんです」
「へ〜」
「お昼寝できる店とか」
「お昼寝?店で寝るのか?」
「そうですよ…30分くらい寝ると、スッキリするとか」
「へ〜。でも、昼寝するならベッドがいるだろ?」
「椅子に座って、机に頭を乗せて寝るんです」
実際にやってみる。
「へ〜仕事中にウッカリ寝ちゃったみたいだな」
「それを、わざとするんですよ」
「ふぅん…?それなら、あんまり場所は取らないな…?」
「個室は無理なので、テーブルとテーブルの間に衝立を立てて、人の目が気にならないようにすれば良いと思います」
「うんうん…」
ラグドールさんは、腕を組んで考えている。
「最初は、昼寝なんて…と思うでしょうから、読書とか書類仕事とか、机でできる趣味とかするティーサロンにして、やってみたいという人に、お昼寝してもらうのはどうですか?」
「うん…それなら良いかもしれない…話を聞いてくれてありがとう!よし、今から物件見に行くぞ!」
朝食を食べ終わり、身だしなみを整えて、何故かラグドールさんの上着を着せられ、荷馬車に乗り、物件を見に行く。
連れて行かれた物件の場所は
メイン通り
メイン通りから一本横に入る通り
メイン通りからかなり離れた通り
以前店をやっていた、色々な物件であった。
「どんな客層を想定してますか?」
「客層?そうだなぁ…俺と同じか上くらいの年齢?若い子はちょっと…」
いや、ラグドールさん、若いよね?
「どんな雰囲気の店にしたいですか?」
「読書するなら、落ち着いた店だな」
「それなら、メイン通りは避けましょう」
「そうだな」
「売り上げ悪くてもしばらく耐えられるなら、隠れ家みたいな、裏通りが良いんじゃないですか?」
「…お前…店持ってたのか?」
「いいえ」
「やけに詳しいじゃないか」
「まぁ…いつかカフェ…ティーサロンを経営したいと思っていたので」
「そっか…じゃあ、お前、やってみろ」
「え?」
「いつかやってみたかったなら、今やればいい。金は俺が出すから」
「でも…」
突然何を言い出すんだ。殿がご乱心じゃ〜!
「ティーサロンにするのも、お前が言った事だろ」
「…経営はまだ分からなくて…」
「それは、俺が教える。あとは?何を悩む?」
「この世界のこと知らないし…」
「これから覚えればいいだろ?給料も出すから」
「え?」
「この国で暮らすなら、仕事が必要だろ?うちに住んで、俺の店で仕事すればいい。…嫌なら無理にとは言わないが」
「嫌ではないです。ありがとうございます」
決まってしまった。ラグドールさんが良いなら…
裏通りの店舗を何件か見て回る。
以前は飲食店だった店に決め、改装してもらう事になった。
もう帰るのかと思ったら、店に連れて行かれた。
「お前の服を買う」
「え?」
「遠慮するな。部下にプレゼントするのも上司の仕事だ」
「えぇ~」
戸惑っている間に、店員さんに採寸され、ワンピースやら下着やら、靴やら夜着やら、何セットか買ってもらった。
これは、しっかり仕事して、お返しをしなければ。
見ず知らずの私に親切にしてくれて…
知らない所に放り出されて、心細かったから、本当にありがたい。
それに…ラグドールさんは言葉は強いけど、優しくて、ちょっと…けっこう…好きかもしれない…
いやいやいや待て…拾ってくれた人にそんなこと…迷惑じゃないかな…
でも…そういえば、初めて会った時、何で森にいたんだろう?
何かに追われてたような、警戒した感じだった。
私が声を掛けた時も、警戒していた。
改装が終わるまで、私は軽食の見本を作ってみた。
卵サンドや、ハムサンド、チーズサンド、パンケーキ、プリン…
ラグドールさんもバーマンさんも、美味しいと言ってくれた。
改装している大工さん達にも差し入れしたら、喜んでくれた。
紅茶は、何種類か茶葉を用意した。
私はそこで、転移する直前にコンビニで買っていた、シナモンと生姜チューブとハチミツを出した。
カルダモンもほしかったけど、コンビニには無かったのが残念だ。
大好きなチャイ…のような物を作って、2人に飲んでもらった。
ティーバッグがないから、鍋で茶葉をミルクで煮出した。
「変わった味だけど、美味いな」
ラグドールさんが言ったので、ホッとした。
「この材料と同じものって、ありますか?」
私が聞くと、バーマンさんが市場で探して買ってくれた。
これなら、店で出せる。
メニューが決まり、私はメニュー表のイメージを紙に書いた。
この世界のペンは、インクをつけるペンだ。慣れないから書きづらい。
料金は、ラグドールさんが考えてくれた。
私がイラストを描いて、ラグドールさんが、字と料金を書いてくれた。
私は字の読み書きができない事に気付いたから、お願いした。
店の名前は隠れ家。
そのまんま。
営業時間も話し合い、暫定で、11時から18時になった。
定休日も決めて。
お客さん次第で、変えていく事にした。
それから私達は、鍋やフライパン等のキッチン道具、食器類や、テーブルやイスやカーテンや本棚、衝立を探しに行った。
読書用の本も用意した。字が読めない私用に、絵本も用意してくれた。
時間がある時に、字や、一般常識を習う予定だ。
衝立は無かったので、特注品だ。
こんな感じ…と、イメージ図を書いて、家具屋さんに頼んだ。
改装が終わったので、掃除して、道具類や家具を運び込む。
私は、可愛い小物も飾り付けた。
店内は、ボッチ席が2つ、カップル席が2つ、4人席が2つ、カウンター席が5つとなった。
この先、衝立を立てたり、ボッチ席を増やすかもしれないので、ゆったり目にしてある。
食材は、大きな氷を入れた保冷庫?というものらしい。
冷蔵庫無いんだね〜
電気無いもんね〜
それはともかく、卵やミルクやハム等を保冷庫に入れる。
1日で使い切りらしい。
だから、毎日開店前に買い物へ行く。
食材は賄いに使って良いと言われたので、色々作ろう。
料理担当は私、注文取りと紅茶担当はバーマンさん、配膳と会計はラグドールさん。
お金の種類や金額も教えてもらった。
まだよく分からないけど…
ラグドールさんも、バーマンさんも、とても優しかった。
食事は、バーマンさんが作ってくれた。
でも、店で作る為に練習したいから、と、昼食は私が作る事にした。
バーマンさんは、紅茶を淹れるのも上手くて教えてもらったけど、いつもティーバッグの私には、茶葉を量って、お湯は何度、蒸らす時間は何秒、って茶葉ごとに決まっている事に、改めて感心した。
全然味が違う。
紅茶も深いんだなぁ…
ラグドールさんは、用事があって出掛ける以外は、私に字を教えてくれたり、この国の事を教えてくれたりした。
口調はぶっきらぼうだけど、優しいお兄さん。
2人のお陰で、ここでちゃんと生活していけそうだ。
色々していて、私がこの世界に来てから1ヶ月経った今日。
ティーサロンのプレオープンに茶葉の店で仲良くなった店員さんや、家具屋さんや大工さん達を招待した。
ラグドールさんは、接客経験は無かったから練習していたものの、少し戸惑っていたが、バーマンさんと私がフォローした。
読んでいただきありがとうございます




