名前のない川
これは俺が小学5年生頃の話
夏休みは、朝から世界が少しだけ広くなった気がする。
学校へ行かなくていいというだけで、時間の流れが変わる。
8時のチャイムも、ランドセルの重さもない。
俺は仲の良かったユウとマサの三人で朝から自転車を走らせていた。
目的はなかった。ただ気分に変わる場所を探していた。
風が強く、蝉がうるさく鳴いている。
この町はいつも風と水の音が混じっている。
その川は町の端にあった。
少なくとも、子供の頃からずっとそこは川だった。
「この川なんて名前だっけ」
ユウが聞いてきた。
「地図にも載ってないよな」
マサが言った。
確かに、
そういえば大人たちも川と言うだけで名前を聞いたことはない。
幅はそれほど広くはない。
水は濁っているが、川面には魚の泳ぐ影が見える。
「向こう側行ってみようぜ」
マサが言った瞬間、俺は胸の奥がざわついた。
そこは――
理由は分からないけど、「行かない場所」だった。
大人から止められた記憶はない。
危険だと教わったこともない。
それなのに、 誰も行かない。
それが一番怖い理由だった。
こういう時のマサは強引だ。こちらの不安など気にもせず古びた橋を渡って行ってしまう。
橋と言っても何年も整備された形跡のない木造の橋だ。
ユウも後を追って行ってしまった。
「おーい、早く来いよ―」
マサが叫ぶ。
俺は渋々後を追った。
ユウが言う
「ここの川…むかし、子供死んだんだって」
どこからの情報なのかユウはそういう話に詳しい
マサも俺も否定しなかった。
そんなこともあるだろうと不思議と納得していた。
橋を渡った先は背の高い草で覆われていた。
草を掻き分け進んで行くと割とすぐに開けた場所に出た。
出た瞬間空気が変わった。さっきまで鳴いていた蝉の声も風の音も消えていた…
静寂が支配する何もない土の広場だった。
何もない… 時間に取り残されたような空間
おれたち三人は不思議な感覚に陥っていた。
「なんか変じゃね?」
ユウが言葉に出した。
「何だここ!?」
マサが言う。
「ヤバイ、帰ろうぜ」
なにがヤバイのか解らないがそう口走る俺。
その時、静寂を破るように川の方から「バシャーン」と音がした。
三人誰ともなく「え?何?なんだー!?」
猛ダッシュで橋のところまで引き返す。
川面はまだ波紋を漂わせている。
マサ
「何も落ちてねーなー」
「もしかしたら、ボラかもしれないよ」
とユウが言う
俺はビビリたおしていてスグにでもこの場を逃げ出したかった。
「いい、もう帰ろう」
俺が懇願するので三人でその場を離れることにした。




