第一章:封印都市クロノクラッド
冷たい雨が止んだのは、黒い封筒を拾ってから数時間後のことだった。
空気は重く、湿っていたが、風はなく、夜は奇妙なまでに静かだった。
ユウト︰「……ここ、どこだよ……」
緋月ユウトは周囲を見渡す。そこは、もう彼の知っている街ではなかった。
路面は黒い金属のような光を放ち、建物はどれも無機質で、空には無数の浮遊文字が浮かんでいた。
【コード・クロノクラッド】――刻印保持者、識別完了。冥契ノ参加者:緋月ユウト。
突如、頭上に現れたホログラムのような文字列が、ユウトの名前を呼ぶ。
彼は、咄嗟に後ずさった。
ユウト︰「冗談だろ……なんなんだよこれ……!」
だが足元から、音もなく黒い円陣が広がっていく。
魔法陣のような、あるいはコンピュータの回路のような……円環が幾重にも重なり、光が走る。
【冥契刻印:発動】――魂との接続を開始します。抵抗は無意味です。
ユウト︰「う、ぐあああああああっ!!」
脳髄に直接響くような痛みが襲った。視界が反転し、耳鳴りが消え、代わりに鼓動だけが聞こえる。
――ドクン、ドクン。
その脈動とともに、彼の右手の甲に黒い印が刻まれた。
絡み合う鎖のような模様。その中心に、炎のように揺らめく「魂核」が浮かび上がる。
ユウト︰「こ……これは、なんだよ……!」
右手を振っても、印は消えない。むしろ焼き付くように熱を放ち続けている。
GM︰「貴様――名は?」
突然、声が降ってきた。
背後から、金属音とともに現れたのは、全身を黒と紅の鎧で覆った人物だった。
人ではない。瞳は深紅に輝き、肌は白磁のように滑らかで冷たい。
ユウト︰「……な、なに、あんた……」
「刻印保持者――未覚醒個体。よかろう、記憶は曖昧だろうが……この戦場では生き残らねばならぬ」
鎧の男は、剣を引き抜いた。黒い光が、ユウトの顔面に反射する。
ユウト︰「問答無用で来るのかよ……!」
ユウトが身構える前に、目の前にカードが浮かび上がった。
──《契約魂:紅焔の断罪者》──
瞬間、ユウトの背後から火柱が噴き上がった。
炎の中から現れたのは、巨大な影。鎖を纏い、両腕に炎を宿す異形の戦士――。
ユウト︰「これが……俺の……“契約”……?」
GM︰「ふん、初心者のくせに引きがいい……だが所詮は未覚醒者。貴様のような半端者に……!」
ユウト︰「うるせえっ……!」
ユウトの叫びと同時に、契約獣が吠えた。
魂の痛みとともに、右手の刻印が灼熱を放つ。
そして――最初の「ゲーム」が始まった。