第九十七話「護り屋の過去」
咲と詩音は、聖痕が再び輝き、空を撃退したことに安堵の息を吐いた。二人の『つながり』が、やはり空の『観測』の『外』にあることを再確認した瞬間だった。
しかし、その安堵も束の間、目の前にはまだ、『護り屋』と名乗る大男が立っていた。咲は、警戒しながらも、彼の言葉を思い出した。
「嵐太の『見えない壁』……どういうこと?」
咲の問いかけに、『護り屋』はゆっくりと口を開いた。彼の声は、まるで岩が擦れ合うような重く低い響きだった。
「嵐太は、妹を護るために『護り屋』になろうとした。しかし、その時、彼は何者かの力によって、『破壊屋』の力に目覚めてしまった。嵐太の『破壊』の『法則』は、彼の『護りたい』という『心』と、常に矛盾している」
『護り屋』は、そう言って、嵐太の過去を語り始めた。
「嵐太の『破壊』の『法則』は、彼の『護りたい』という『心』を、彼の妹の存在を、壊そうとしている。それが、嵐太の『見えない壁』だ。彼は、自分の『破壊』の力に、自分の『護りたい』という『心』を、閉じ込めている」
咲は、その言葉に、胸が締め付けられた。嵐太が抱えていた苦悩が、少しだけ理解できたような気がした。
「じゃあ、どうすれば……」
「嵐太の『見えない壁』を壊すには、嵐太が『破壊』するのではなく、『護りたい』と心から思える『何か』が必要だ。そして、その『何か』は、お前たち『奪還屋』が、嵐太から『奪還』しなければならない」
『護り屋』は、そう言って、咲と詩音に、ある言葉を投げかけた。
「嵐太を救いたいのなら、嵐太の『見えない壁』を、壊さなければならない。そして、それは、お前たち『奪還屋』にしかできない」
咲と詩音は、お互いの顔を見つめ合った。嵐太を救うには、自分たちの『奪還』の力が鍵になるというのだ。
「フフフ……。面白い。君たちの『つながり』は、嵐太の『見えない壁』を、壊すことができるのか……」
その時、教会の壁に、再び空の声が響いた。空は、まだ『無』へと還っていなかったのだ。
「な、なんだと……!? また出てきやがった!」
咲は、空の声に、再び緊張した。空は、教会の壁に、不気味な笑みを浮かべていた。
「君たちの『つながり』は、私の『観測』の『外』にあるようだ。だが、君たちは、この教会の『外』に出ることはできない。この教会全体を、私が『観測』し、『無』へと還す」
空は、そう言って、教会の壁に、まるで鏡のようなひび割れを作り出した。ひび割れは、空の『観測』の『法則』を、この教会全体に広げようとしているようだった。
「まずい……! このままじゃ、教会ごと消されちゃう!」
咲は、焦りながらも、詩音の手を強く握った。詩音は、咲の手を握り返し、力強くうなずいた。
「大丈夫……! 咲……! わたしたちの『つながり』で、この教会を『護る』!」
詩音は、そう言って、左腕の聖痕を強く光らせた。聖痕から放たれた光は、教会の壁に広がる空の『観測』の『法則』を打ち消していく。
「フフフ……。面白い。君たちの『護り』の『法則』は、私の『観測』を打ち破ったようだ。だが、その『護り』の『法則』も、私の『観測』の『外』にはない。君たちの『存在』そのものを、『無』へと還す」
空は、そう言って、再び力を放った。しかし、その力は、咲と詩音の聖痕が放つ光に、完全に打ち消された。
「な、なんだと……!? 馬鹿な……! 私の『探り』の『法則』が、効かないだと……!?」
空は、自分の力が効かなかったことに、驚愕に目を見開いた。咲は、詩音の手を強く握り、力強く言った。
「あんたの『観測』なんて、あたしたちの『つながり』には勝てないんだから!」
咲は、そう言って、空に向かって、全力を込めた一撃を放った。空は、その一撃を避けようとするが、彼の体は、咲と詩音の『つながり』によって、一時的に『停止』させられていた。
「フフフ……。面白い。君たちの『つながり』は……本当に……面白い……。だが……この程度の力では……私を倒せないよ……」
空は、そう言って、再び光の粒子となって消えていった。
咲と詩音は、安堵の息を吐いた。二人の『つながり』は、再び戻ったのだ。




