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第九十三話「嵐太の涙」

「くっそー! なんでだよ! どこへ行くんだ、咲!」


嵐太は、咲と詩音が逃げていく扉に向かって叫んだ。しかし、扉は既に消え、嵐太の視界から二人の姿は消えていた。


「フフフ……。君たちの『つながり』は、私の『観測』の『外』にはない。君たちの逃亡という『事象』を、私は見ている」


空は、そう言って、不敵な笑みを浮かべた。嵐太は、再び現れた空を見て、怒りと苛立ちで顔を歪ませる。


「うるさいんだよ、空! お前も、俺がぶっ壊してやる!」


嵐太は、そう叫び、空に向かって黒い大きな力を放った。しかし、空は、その力を浴びながらも、静かに、そして圧倒的な力で、嵐太の攻撃を打ち消していった。


「フン。無駄だ。嵐太。君の力は、あくまで『この世界』の力に過ぎない。しかし、私の力は、この世界の『真実』そのものを見抜く力だ。君の力が、私の力に勝てるはずがないだろう?」


空は、そう言って、嵐太に冷たい視線を向けた。嵐太は、空のとてつもない力に、怖くて顔が引きつった。


その時、地下室の入口が、再び開いた。そこに立っていたのは、全身を黒いジャケットで覆い、まるで『壁』のように微動だにしない大男だった。彼の顔は無表情で、その瞳は、何かをひたすらに『護ろう』としているかのようだった。


「無駄だ。新城嵐太。お前の『破壊』も、そして、お前の『観測』も……全て、私が『護る』べきものの『外』にある」


大男は、そう言って、嵐太の力を掌で受け止めた。すると、嵐太の黒い力は、まるでそこに『壁』があるかのように、完全に静止した。それは、嵐太の力を無効化するのではなく、完全に『受け止めて』いるように見えた。


「な、なんだと……!? 貴様は……! まさか……『護り屋』!?」


嵐太は、驚愕に目を見開いた。彼の力の前に立ちはだかったのは、紛れもなく、かつて彼が倒したはずの、『護り屋』だった。


「フフフ……。面白い。君という存在は、私の観測にとって、新たな『不確実性』だ。君の『壁』という力は、私にとっての『歪み』だ。私は、君という『不確実性』を『観測』し、『なかったこと』にしよう」


空は、そう言って、嵐太の『破壊』の力を受け止めている『護り屋』に、冷たい視線を向けた。すると、空の瞳から放たれた力によって、大男の体が、わずかに揺らぐ。


「な、なんだと……!? 貴様の力は……!」


大男は、空の力によって、自分の存在が『なかったこと』にされそうになっているのを感じ、初めて動揺した表情を見せた。嵐太は、その隙を見逃さなかった。


「ざまあみろ、空! そして『護り屋』! お前たち二人とも、俺がまとめてぶっ壊してやる!」


嵐太は、そう叫ぶと、さらに強力な黒い力を放った。その力は、空と『護り屋』の両方に向かっていく。嵐太の破壊の力と、空の観測の力、そして『護り屋』の護りの力が、今、この地下室で、三つ巴の激しいぶつかり合いを始めた。


その時、嵐太の暴走する力に、嵐太自身の体が悲鳴を上げ始めた。


「くっ……! 身体が……! 持たねぇ……!」


嵐太は、自分の力が暴走し始めたことに驚愕した。空との戦い、そして『護り屋』との戦いで、彼の力は限界を迎えていた。


「な、なんだと……!? 嵐太の力が……暴走してる……!」


『護り屋』は、嵐太の力が暴走し始めたことに驚き、その力を受け止めようとする。しかし、嵐太の力は、もはや『護り屋』の力でも受け止めきれないほど、大きくなっていた。


「フフフ……。やはり、君の『破壊』の力は、あまりにも不安定だ。その『歪み』を、私の『探り』の『法則』で、『無』へと還そう」


空は、そう言って、暴走する嵐太の力を、静かに、そして完全に無効化し始めた。嵐太は、空の力によって、自分の力が消え去っていくことに、恐怖と絶望に顔を歪ませる。


「くっそー! なんでだよぉ……! 俺の力は……!」


嵐太は、自分の力が消え去っていくことに、涙を流した。彼は、自分の『破壊』の力が、世界のすべてを壊すことができると信じていた。しかし、その力は、空の力によって、意味のないものにされ、そして、今、自分の体を蝕んでいた。


「フフフ……。君の『破壊』の『法則』は、私の『観測』にとって、もはや不要だ。君は、ここで終わりだ」


空は、そう言って、嵐太に向かって、力を放った。嵐太は、空の圧倒的な力に、絶望に満ちた顔で、目を閉じた。


「嵐太……!」


『護り屋』は、嵐太に向かって叫んだ。彼は、空の力を受け止めようとする。しかし、空の力は、『護り屋』の力でも受け止めきれないほど、強力なものだった。


その時、嵐太の意識が、遠い昔の記憶を思い出した。それは、彼がまだ能力者になる前の、幼い頃の記憶だった。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん! ほら見て! 嵐太が作ったこのお城、すごいんでしょ!」


嵐太は、幼い頃、妹と一緒に、砂浜で砂のお城を作っていた。そのお城は、嵐太が作った、世界で一番大きくて、一番美しいお城だった。


「嵐太、お兄ちゃんが作ったこのお城、いつまでも壊れないように、私たちが護ろうね!」


妹は、そう言って、砂のお城を優しくなでた。嵐太は、その時、このお城を、そして、妹を、ずっと護っていこうと心に誓った。


しかし、その記憶は、嵐太の力を呼び覚ますことはなかった。嵐太は、自分の力に飲み込まれ、そして、空の力によって、光の粒子に変えられていく。


「フフフ……。君の『破壊』の『法則』は、ここで終わりだ」


空は、そう言って、不気味な笑みを浮かべる。嵐太の体が、完全に光の粒子になって消え去ろうとしていた。


その時、地下室の壁に、もう一つの扉が姿を現した。それは、嵐太が作った、砂のお城の形をした扉だった。


「な、なんだ……!?」


空は、その扉を見て、驚愕に目を見開いた。嵐太の『破壊』の『法則』を『観測』していたはずの空は、その扉の存在を『探る』ことができなかったのだ。


「結人だ! 嵐太の心の奥底にある、まだ『破壊』されていない『護り屋』としての『心』が、俺の『案内屋』の力に共鳴した! 嵐太、お前はまだ、壊れていない! 護りたいものがあるんだろ!」


結人の声が、嵐太の意識に語りかける。嵐太は、その声に、最後の力を振り絞り、消えかかっている体で、扉に手を伸ばした。


「俺は……まだ……!」


嵐太は、そう言って、扉をくぐり抜けた。その瞬間、扉は消え、嵐太の姿は、地下室から消えた。

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