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第九十一話「逃亡」

「くっそー! 嵐太、もう勝負はついただろ!?」


咲は、暴走する嵐太の力に、悲痛な叫び声を上げた。空がいなくなったことで、嵐太の破壊の力は、もはや制御不能になっていた。嵐太の黒い力は、咲と詩音を飲み込もうと、地下室の空間を歪ませていく。


「いいや、これからだ、咲! お前を壊して、新しく生まれ変わらせるまで、俺は終わらない!」


嵐太は、そう叫び、暴走する黒い力を、咲と詩音に向かって放った。二人は、再び絶望的な状況に陥る。


「詩音! もう一度、あの扉から逃げるよ!」


咲は、詩音の手を強く握り、結人が示した扉に向かって走り出した。詩音は、まだ嵐太の力に吹き飛ばされたダメージが残っているのか、咲の手を借りて走るのがやっとだった。


「ごめん、咲……! 私の力が……まだ、完全じゃないみたい……!」


「いいから、今は黙って走って! ここから脱出するのが先だ!」


咲は、そう言って、詩音を励ましながら走り続けた。嵐太の暴走する力は、二人の背後から迫り、地下室全体を揺るがしている。


「フフフ……。嵐太の『破壊』の『法則』は、私の『観測』の『外』にある。しかし、君たちの『逃亡』という『事象』は、私の『観測』の『外』にあるとは言えない」


その時、地下室の壁に、再び空の声が響いた。嵐太によって倒されたはずの空が、再び姿を現したのだ。しかし、彼の体は、光の粒子で構成されており、実体はなかった。


「な、なんだって!? あいつ、また出てきやがった!?」


咲は、空の姿を見て、驚愕に目を見開いた。嵐太もまた、空の再出現に驚き、暴走していた力が、一瞬だけ止まる。


「空! お前……なんで……!?」


「フフフ……。私の『探り』の『法則』は、この世界の『真実』を『観測』する『法則』だ。君の『破壊』によって、私は『無』へと還ったが、その『無』へと還った『真実』を『観測』し、再び『存在』として『再誕』することができる。これは、私が『観測者』である限り、何度でも繰り返せる」


空は、そう言って、嵐太に冷たい視線を向ける。嵐太は、空の底知れない能力に、恐怖で顔を歪ませた。


「咲、詩音! 結人だ! 空の力が、嵐太の力を『観測』して、制御し始めた! 今がチャンスだ! 早く、扉から逃げろ!」


結人の声が、二人に聞こえた。空は、嵐太の暴走する力を『観測』し、『なかったこと』にしようとしている。嵐太の力が制御された今なら、脱出できるかもしれない。


「よし、行くよ、詩音!」


咲は、再び詩音の手を強く握り、扉に向かって走り出した。二人は、嵐太と空の三つ巴の戦いを避け、扉をくぐろうとした。


しかし、その時、空が放った力が、扉を塞いだ。


「フフフ……。逃げられないよ。君たちの『逃亡』という『事象』は、私の『観測』の『外』にはない。君たちの『つながり』という『歪み』は、私が『無』へと還す」


空は、そう言って、咲と詩音に、冷たい視線を向けた。二人の行く手を阻むように、空の力が、壁のように立ちはだかった。


「くっそー! 邪魔すんなよ!」


咲は、P90を構え、空の力に向かって撃った。しかし、弾丸は、空の力に触れた瞬間に、光の粒子となって消えていった。


「無駄だ。咲。君の攻撃は、私の『観測』の『外』にはない。君たちの『存在』そのものを、『無』へと還す」


空は、そう言って、咲と詩音に向かって、力を放った。二人は、空の圧倒的な力に、絶望的な顔を浮かべる。


「咲……!」


詩音は、最後の力を振り絞り、咲をかばうように、自分の前に立ちふさがった。その瞬間、詩音の左腕の聖痕が、強烈な光を放つ。


「詩音! 駄目だ!」


咲は、詩音に叫んだ。彼女は、詩音が自分の力を使いすぎると、体が壊れてしまうことを知っていた。


「大丈夫……! 咲……! 私の『光』は、私たちを『護る』ためにあるから……!」


詩音は、そう言って、空の力に向かって、自らの『光』を放った。二つの力がぶつかり合い、地下室全体に閃光が走った。


そして、その光が消えた時、そこに立っていたのは、ぼろぼろになった詩音と、彼女を抱きかかえる咲だった。詩音は、空の力と、嵐太の力に吹き飛ばされたダメージで、もう動けなくなっていた。


「詩音! 目を開けて、詩音!」


咲は、詩音に必死に声をかける。しかし、詩音の瞳は、もう何も映していなかった。


「フフフ……。君たちの『つながり』は、ここで終わりだ。そして、君たちの『存在』も……」


空は、そう言って、二人に向かって、再び力を放った。咲は、詩音を抱きかかえたまま、その場から動けない。


「くっそー! なんでだよ……! なんで……!」


咲の目から、涙が溢れ出した。その時、彼女の左目が、再び深く緑色に輝く。


「『邪眼』……!?」


咲の『邪眼』が、空の力の弱点を捉えた。空の力は、詩音の『光』によって、一瞬だけ弱まっていた。そのほんのわずかな隙間を、咲は見たのだ。


「まだ……終わらない! 詩音との『つながり』は、誰にも壊させない!」


咲は、そう叫ぶと、P90を構えた。彼女のP90は、詩音の『光』の力を吸収し、青白い光を放ち始める。


「あたしの『邪眼』と、『微細の雷』を、くらえーっ!」


咲は、そう叫び、空に向かって引き金を引いた。弾丸は、空の力の弱点を突き抜け、彼の胸に突き刺さった。


空は、驚愕に目を見開く。彼は、自分の力が、咲の攻撃を止められなかったことに、信じられないといった顔をしていた。


しかし、その時、空の体が、再び光の粒子となって消え始めた。


「フフフ……。面白い。君の『邪眼』は……本当に……面白い……。だが……この程度の力では……私を倒せないよ……」


空は、そう言って、再び消えていった。


咲は、その場に崩れ落ちた。彼女は、詩音を抱きかかえたまま、ただ、空の消えた場所を見つめていた

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