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第八十九話「壁と観測と破壊と」

「な、なんだと……!? 貴様は……! まさか……『護り屋』!?」


嵐太は、自分の力の前に立ちふさがった大男を見て、驚愕に目を見開いた。嵐太の絶対的な破壊の力は、その大男の掌によって、まるで無かったかのように止まっていた。


「私は、私が護るべきものを護る。新城嵐太、お前の『破壊』も、お前の『観測』も……全て、私には関係ない」


大男の声は、感情が一切こもっておらず、まるで機械が話しているかのようだった。彼は、嵐太の力を完全に受け止めたまま、びくともしない。


「うっそでしょ!? 嵐太の攻撃が、マジで止まってるんだけど!」


咲は、その光景を信じられないといった顔で見ていた。詩音もまた、目の前の出来事に言葉を失っている。


「嵐太の『破壊』の力は、あの『護り屋』によって、完全に無効化されてるわ……! でも、どうして……?」


「フフフ……。面白い。君という存在は、私の観測にとって、新たな『不確実性』だ。君の『壁』という力は、私にとっての『歪み』だ。私は、君という『不確実性』を『観測』し、『なかったこと』にしよう」


空は、そう言って、嵐太の『破壊』の力を受け止めている『護り屋』に、冷たい視線を向けた。すると、空の瞳から放たれた力によって、大男の体が、わずかに揺らぐ。


「な、なんだと……!? 貴様の力は……!」


大男は、空の力によって、自分の存在が『なかったこと』にされそうになっているのを感じ、初めて動揺した表情を見せた。嵐太は、その隙を見逃さなかった。


「ざまあみろ、空! そして『護り屋』! お前たち二人とも、俺がまとめてぶっ壊してやる!」


嵐太は、そう叫ぶと、さらに強力な黒い力を放った。その力は、空と『護り屋』の両方に向かっていく。嵐太の破壊の力と、空の観測の力、そして『護り屋』の護りの力が、今、この地下室で、三つ巴の激しいぶつかり合いを始めた。


「詩音、マジやばいよ! どうすればいいの!?」


咲は、三人の力がぶつかり合う凄まじい光景を見て、恐怖と焦りを感じていた。彼女の体は、この力に耐えきれず、震えている。


「咲、落ち着いて! 嵐太の破壊と、空の観測、そして『護り屋』の護り……! この三つの力がぶつかり合う一瞬に、必ず隙ができるはず!」


詩音は、左腕の聖痕を光らせながら、必死に未来の映像を頭の中に映し出そうとした。彼女の力が使えるのは、本当に最悪の時だけだ。今、この地下室の空間そのものが、この三人の力によって歪み始めていた。


「わかった! その隙を、あたしが狙うしかないってことだよね!」


咲は、詩音の言葉に、力強くうなずいた。彼女は、P90を構え、三人の力がぶつかり合う中心に、照準を合わせた。


その時、地下室の壁に、もう一つの扉が姿を現した。それは、この地下室には存在しなかったはずの、別の場所に通じる扉だった。


「結人だ! 咲、詩音! 嵐太たちの力がぶつかり合っている今が、チャンスだ! あの扉は、ここから脱出するための『道筋』だ! あの扉から逃げろ!」


結人の声が、二人に聞こえた。結人は、この空間の歪みを利用して、『案内屋』の力を借りて、この地下室のどこかに、脱出の『道筋』を作り出したのだ。


「案内屋……!?」


咲は、結人の言葉に、驚きを隠せない。嵐太、空、そして『護り屋』の三つ巴の戦いに、さらに別の『屋号』が関わっていたのだ。


「咲! 行くよ!」


詩音は、咲の手を強く握り、結人の示した扉に向かって走り出した。しかし、その時、嵐太の破壊の力が、嵐太自身によって暴走し始めた。


「な、なんだ……!? 俺の『破壊』が、制御できない……!?」


嵐太は、自分の力が暴走し始めたことに驚愕した。嵐太の力は、空と『護り屋』だけでなく、咲と詩音にも襲いかかった。


「きゃっ!」


詩音は、嵐太の力に吹き飛ばされ、扉から遠く離れた場所に叩きつけられた。咲は、P90を構えたまま、嵐太の力に耐えようとする。


「詩音!」


咲は、吹き飛ばされた詩音を見て、悲痛な叫び声を上げた。その時、空が不敵な笑みを浮かべた。


「フフフ……。やはり、君の『破壊』の力は、あまりにも不安定だ。そして、君たちの『つながり』も、脆い。この世界の『真実』を『観測』するに値しない」


空は、そう言って、暴走する嵐太の力を、静かに、そして完全に無効化し始めた。嵐太は、空の力によって、自分の力が消え去っていくことに、恐怖と絶望に顔を歪ませる。


「くっそー! なんでだよぉ……!」


嵐太の叫び声が、地下室に虚しく響く。空は、嵐太の力を無効化すると、今度は、咲と詩音に向かって、ゆっくりと歩み寄っていく。


「さあ、見せてくれ。君たちの『つながり』が、この『観測者』を、どうやって打ち破るのかを」


空は、そう言って、不気味な笑みを浮かべた。彼の瞳は、咲と詩音のすべてを見抜き、そして、彼女たちの『存在』を『なかったこと』にしようとしていた。

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