第八十六話「観測者の試練」
「探り屋……!? なんだよ、また新しい奴かよ……!?」
咲は、驚いて目を見開いた。目の前には、嵐太という手強い敵がいる上に、また新しい能力者が現れて、頭が混乱していた。
「咲、気を付けて! 彼の力は、私たちのことを全部知ろうとしてる。うかつに動いたら、私たちの秘密が全部バレちゃうかも!」
詩音は、そう言って、咲に小さな声で忠告した。二人の間に、新しい緊張感が走った。
「フフフ……。さあ、見せてくれ。君たちのやり方が、世界の本当の姿をどれだけ変えられるのかを。そして、その変化を元に戻す、私の『探る』力を体験させてやろう」
空は、そう言って不気味な笑みを浮かべた。彼の目は、嵐太、咲、詩音、そしてこの世界のすべてを見抜こうとしているようだった。
「ふざけんな! 勝手に人のこと知ろうとすんじゃねーよ!」
咲は叫びながら、嵐太と空に向かってP90を撃ちまくった。しかし、弾は空に届く前に、まるで最初から存在しなかったかのように、消えてしまった。
「無駄だ。咲。君の攻撃は、私の見ている世界にはない。私の目に、君の攻撃は存在しないんだ」
空は、そう言って笑った。彼は、咲の攻撃をまるで最初からなかったことのように扱っていた。
「な、なんだと……!?」
咲は、自分の撃った弾が消えたことに驚きを隠せない。その時、嵐太が、空に向かって黒い大きな力を放った。
「うるさいぞ、空! 俺の力も、見てみろ!」
嵐太が放った力は、世界のすべてを壊そうとする、とてつもないものだった。しかし、空は、その力を浴びながらも、静かに、そして圧倒的な力で、嵐太の攻撃を打ち消していった。
「フン。君の力は、私の見る力によって、意味のないものになる。私の見ている世界に、君の壊す力は、ただの『もしも』の話としてしかない。そして、私は、その『もしも』の話を、なかったことにするだけだ」
空は、そう言って、嵐太の力を光の粒に変えて消し去った。嵐太は、自分の最強の力が、空の見る力によって、効かなくなってしまったことに、驚いて言葉を失った。
「な、馬鹿な……! 俺の力が……!?」
「フフフ……。君の力は、あくまで『この世界』の力に過ぎない。しかし、私の力は、この世界の『真実』そのものを見抜く力だ。君の力が、私の力に勝てるはずがないだろう?」
空は、そう言って、嵐太に冷たい視線を向けた。嵐太は、空のとてつもない力に、怖くて顔が引きつった。
「咲、詩音。今のうちよ! 嵐太と空が戦っている間に、ここから逃げましょう!」
結人の声が、咲と詩音に聞こえた。二人は、結人の言葉に、力強くうなずく。
「よし、詩音! 逃げるぞ!」
「ええ、咲!」
咲は、詩音と手を繋ぎ、結人のシステムが示した、出口に向かって走り出した。しかし、その時、嵐太が、二人の行く手を邪魔するように、目の前に立ちふさがった。
「どこへ行く、咲! お前を壊して、生まれ変わらせるまで、俺は終わらない!」
嵐太は、そう言って、再び黒い大きな力を放った。その力は、二人の後ろから迫り、逃げ場をなくしていった。
「くっそー! なんでだよ!?」
「咲、落ち着いて! 嵐太の力は、私の『光』で消し去るわ!」
詩音は、そう言って、嵐太の力に向かって、『光』の力を放った。二人の力が、嵐太の力とぶつかり合い、再び地下室全体を揺るがした。
「フフフ……。君たちのつながりは、本当に面白い。だが、そのつながりも、私の見ている世界の『外』にあるとは言えない。君たちのつながりは、この世界の本当の姿を『変えてしまう』、とても強力なものだ」
空は、そう言って、咲と詩音、そして嵐太の三人に、冷たい視線を向けた。彼の目には、三人の力をすべて知り尽くし、そして『なかったこと』にしようとする、絶対的な力が宿っていた。
「さあ、見せてくれ。君たちのつながりが、この『見る者』を、どうやって打ち破るのかを」
空は、そう言って、不気味な笑みを浮かべる。彼の目は、世界のすべてを見抜き、本当の姿を『探り』、変化を『なかったこと』にする、絶対的な力そのものだった。
咲、詩音、嵐太、そして空。四つの力が、今、この地下室で、激しくぶつかり合う。これは、伝説の『奪還屋』と、二人の強敵の、三人による戦いが、今、始まった。




