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第八十五話「奪い屋、鋼島裂」

「おい、結人。マジで言ってるのか? 他にも屋号がいるって」


咲は、結人が用意してくれた温かいコーヒーを飲みながら、不安そうな表情で尋ねた。結人は、システムのログを解析しながら、静かに頷く。


「はい。この裏社会には、伝説として語り継がれる『七つの屋号』が存在します。奪還屋、奪い屋、護り屋、案内屋、そして、まだ見ぬ『影』の存在……。嵐太、守、時守は、その一部に過ぎません」


「うわぁ……。なんか、一気にスケールがデカくなった気がするな。これまで戦ってきた奴らも、みんなその『屋号』だったんだろ?」


詩音は、咲の隣で静かにそう呟いた。


「ええ。嵐太は、おそらく『混沌』の法則を操る『破壊屋』(Kowashiya)。守は、時間を操る『案内屋』(Annaiya)。そして時守は、歴史を『護る』『護り屋』(Mamorōya)です。それぞれが、自分なりの『正義』を信じ、私たちと戦ったのでしょう」


「おいおい、ちょっと待て。じゃあ、俺たちが勝ったのは、単にラッキーだったってことか?」


咲の問いに、結人は首を振る。


「いえ、違います。お二人とも、彼らの『法則』を上回る『意志』を持っていた。それが、勝利の要因です。彼らは、あくまで『法則』の枠組みの中で戦っていました。しかし、お二人は、『法則』を超越した『絆』という『意志』で戦いました。それが、彼らとの決定的な違いです」


「絆……。そうか、絆か」


咲は、自分の手のひらを見つめる。そこに、詩音の手がそっと重ねられた。


「そうよ、咲。私たちの『絆』は、どんな『法則』にも屈しない。それが、私たちの『意志』なの」


「詩音……」


咲は、詩音の言葉に、力強く頷いた。その時、結人のシステムが、新たな『法則の波動』を検知した。


「……咲さん、詩音さん! 新たな『法則の波動』を検知しました!」


「マジかよ、またか!?」


咲は、P90を構え、警戒態勢に入る。


「今回は、どうやら……『奪い屋』(Ubaiya)です!」


結人の言葉に、咲と詩音は、互いの顔を見合わせた。奪い屋。その名の通り、特定の物品や情報に対する『所有権』や『支配権』の『法則』を剥奪する能力を持つ、伝説の存在だった。


「奪い屋……。ということは、私たちの『真実』を奪いに来たってことか」


詩音は、静かにそう呟いた。


「だろうな。そいつ、どこにいるんだよ、結人!」


「それが、問題なんです。どうやら、もうこのバー『RETRIEVER』の中にいるようです」


結人の言葉に、咲と詩音は、驚愕に目を見開いた。


「はぁ!? どういうことだよ! あたしと詩音、結人以外、誰もこのバーにいなかったはずだろ!?」


「それが、彼の能力なんです。彼は、特定の物品や情報に対する『所有権』を剥奪することで、その物品や情報が『存在する』という『真実』そのものを『消去』することができる。つまり、彼は、このバー『RETRIEVER』の『所有権』を、すでに奪ってしまったのです」


「……うそ、だろ」


咲は、絶望に顔を歪ませた。その瞬間、彼女たちの背後から、声が聞こえた。


「フフフ……。ようやく、見つけたぞ。伝説の『奪還屋』よ。まさか、お前たちが、あの『真実』を『奪還』していたとはな」


二人が振り返ると、そこに立っていたのは、長身で、顔に不気味な傷跡のある男だった。彼の瞳は、獲物を狙う獣のように鋭く、どこまでも冷酷だった。


「お前が、奪い屋……!」


咲は、P90の銃口を、男へと向けた。男は、そんな咲の姿を見て、不敵な笑みを浮かべる。


「私の名は、鋼島こうしま れつ。そして、君たちが『奪還』した『真実』は、今から、私のものになる」


裂は、そう言って、ゆっくりと両手を広げた。すると、咲の手からP90が、詩音のライフルが、そして結人のシステムが、まるで透明な糸に操られているかのように、ゆっくりと宙に浮き上がっていく。


「な、なんだこれ!? 銃が……勝手に!?」


咲は、驚愕に目を見開いた。彼女の『意志』は、P90に対する『所有権』を、完全に失っていた。


「無駄だ。咲。君の『所有権』は、もう私のものだ。そして、君たちが『奪還』した『真実』も、だ」


裂は、そう言って、咲の首元に、冷たいナイフを突きつけた。咲の心臓は、恐怖で激しく高鳴る。


「くそっ……! 離せよ、この野郎!」


「やめなさい! 咲に触れないで!」


詩音は、裂に向かって叫んだ。しかし、裂は、そんな詩音の言葉には耳を傾けず、咲に冷酷な視線を向ける。


「フフフ……。お前が、あの『真実』を『奪還』したのか。ならば、お前を殺してでも、私はあの『真実』を、手に入れる」


その時、地下室のドアが、再び開いた。そこに立っていたのは、一人の男だった。彼は、長身で、全身から、まるで嵐のような『法則の波動』を放っていた。彼の顔は、影に隠れて見えない。しかし、彼の瞳は、世界の全てを『破壊』しようとするかのように、狂気に満ちていた。


「……おい、裂。俺の『獲物』に、何をしている?」


男の声は、まるでこの空間の『法則』そのものを、破壊しようとするかのように響き渡る。その声に、裂は、一瞬だけ表情を曇らせた。


「貴様は……! 嵐太! なぜ、ここに!?」


そう、そこに立っていたのは、咲と詩音に敗れたはずの、伝説の『破壊屋』嵐太だったのだ。彼の『法則』は、以前よりもさらに強力なものとなっていた。


「フン……。俺が、お前たちに負けたと思っているのか? 俺は、ただの『敗北』を受け入れるような男ではない。俺は、『敗北』という『法則』を、自らの『意志』で『破壊』し、この世界に『再誕』したのだ」


嵐太は、そう言って、不敵な笑みを浮かべた。彼の瞳には、世界を『破壊』し、『再誕』させようとする、狂気的な『意志』が宿っていた。


「……ふざけるな! 貴様は、あの時、確かに……」


「フフフ……。俺は、あの時、確かに死んだ。だが、死ぬ前に、『破壊』という『法則』を、自分自身に『投影』した。その『破壊』の『法則』によって、俺の『存在』は、一度、完全に『消去』された。そして、『消去』された『存在』は、『無』という『法則』によって、『再構築』される。それが、俺の『再誕』の『法則』だ」


嵐太は、そう言って、静かに、しかし圧倒的な威圧感を放ちながら、裂に近づく。裂は、嵐太の『法則の波動』に晒され、恐怖に顔を歪ませた。


「嵐太……。貴様……。本当に……!」


「そうだ。俺は、お前たちを倒し、あの『真実』を『破壊』し、この世界に『再誕』をもたらす。それが、俺の『正義』だ」


嵐太は、そう言って、裂に向かって、右手を突き出した。その瞬間、嵐太の右手から、世界を『破壊』しようとする、黒い『法則の波動』が放たれた。裂は、その『法則の波動』に晒され、悲鳴を上げる間もなく、光の粒子となって消え去った。


「……あ、嵐太、お前、何を……!?」


咲は、驚愕に目を見開いた。彼女は、目の前で起きた出来事が、理解できなかった。


「フン。うるさいぞ、咲。お前も、私の『破壊』の『法則』によって、『再誕』させてやろう」


嵐太は、そう言って、咲に向かって、右手を突き出した。その瞬間、嵐太の右手から、再び黒い『法則の波動』が放たれた。


「やめろ、嵐太! 咲に、手を出さないで!」


詩音は、嵐太に向かって叫んだ。しかし、嵐太は、そんな詩音の言葉には耳を傾けず、咲に冷酷な視線を向ける。


「フフフ……。無駄だ、詩音。私の『破壊』の『法則』は、誰にも止められない。お前たちも、そしてこの世界も、全てが『破壊』され、『再誕』するのだ」


嵐太の言葉に、咲と詩音は、絶望に顔を歪ませた。彼らの前に、再び、最強の敵が立ちはだかる。しかし、今回は、彼らの『絆』が、彼らの『意志』が、嵐太の『破壊』の『法則』を打ち破ることができるのだろうか。


二人の『奪還屋』は、再び、戦いの道へと足を踏み入れた。これは、二つの『光』が、この世界の『未来』を紡ぐ、新たな物語の始まりに過ぎない。

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