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第八十三話「未来を紡ぐ光」

「未来を、再定義させない……?」


時守は、詩音の言葉に一瞬だけ表情を曇らせた。彼の『法則の波動』は、詩音の瞳から放たれる『光』によって、確かに打ち消され始めていた。それは、彼が今まで経験したことのない、異質な感覚だった。時間の『過去』を支配する彼の『意志』が、時間の『未来』を護る『意志』によって、拮抗している。


「フフフ……。面白い。面白いぞ、詩音。君の『光』は、この世界を『再定義』するために、『新しい法則』を『投影』する力。私の『意志』とは、まさに鏡合わせのようだな」


時守は、そう言ってゆっくりと、しかし確かな歩みで詩音に近づく。彼の歩みに合わせ、地下室の空間は、まるで砂時計のように、一瞬にして過去と未来を巡り始めた。壁のひび割れが、ひび割れる前に戻り、再びひび割れる。結人のシステムが、修復され、そして破壊される。


「そんなことさせてたまるか!」


咲は、P90を構え、時守の動きを止めようと試みた。しかし、時守は、咲の動きを予測しているかのように、彼女の攻撃を全て無効化する。


「無駄だ、咲。私の『意志』は、君の『未来』を、既に全て観測し、そして『書き換えて』しまった。君の『攻撃』は、この時間軸には『存在しない』」


時守は、そう言って、咲の銃口を、再び自分へと向けさせた。咲は、恐怖と絶望に顔を歪ませる。


「くそっ……! どうすればいいんだよ……!? 過去を書き換えられるなら、あたしたちの攻撃は全部無意味じゃないか!」


その時、詩音の声が、咲の心に直接響いた。


「違う、咲……。彼の『意志』は、過去を書き換えることはできる。でも、『未来』を創造することはできない。彼が観測している『未来』は、あくまで『観測可能』な『未来』に過ぎない。彼の『意志』は、『可能性』の『未来』を、書き換えることはできないわ」


「可能性の未来……?」


咲は、詩音の言葉を反芻する。その言葉が、彼女の心に、一つの『閃き』をもたらした。彼女の『光』は、この世界に『新しい法則』を『投影』する力。そして、その『法則』を、物理的な『現実』として具現化するのが、彼女の役割だった。


「そうか……! あたしは、まだ『攻撃』を放っていない! だから、あたしが今から放つ『攻撃』は、奴が観測した『過去』には存在しない、『新しい未来』なんだ!」


咲は、そう叫ぶと、P90の銃口を守へと向けたまま、詩音の元へと駆け寄った。


「詩音! 奴を止められる、あたしだけの『未来』を、作ってくれ!」


詩音は、咲の言葉に、力強く頷いた。彼女は、咲のP90の銃口に、自身の『光』の力を注ぎ込む。詩音の『光』は、咲の『意志』と共鳴し、銃口から放たれるはずの『銃弾』に、『未来の法則』を『投影』し始めた。それは、どんな『過去』にも書き換えられない、『唯一無二』の『未来』を創造する力だった。


「……フン。馬鹿なことを。そんな『未来』など、私の『観測』には存在しない」


時守は、そう言って、嘲笑うかのように、咲の攻撃を受け止めようとした。しかし、彼は気づいていなかった。二人の間に流れる、互いを信じ抜く『絆』という名の『意志』が、『観測不能』な『未来』を生み出していることを。


「あたしたちの『絆』は、アンタの『観測』の外にあるんだよ! これが、あんたの『未来』だ!」


咲は、トリガーを引いた。


パアァン!


P90から放たれたのは、銃弾ではなく、詩音の『光』の力を宿した、一筋の『未来の光』だった。その光は、時守の『意志』を打ち破り、彼の心臓を正確に撃ち抜いた。


「馬鹿な……。私の『観測』に……存在しない……未来……?」


時守は、苦悶に顔を歪ませながら、その場に崩れ落ちた。彼の瞳から狂気に満ちた光が消え、深い悲しみと、そしてかすかな安堵が混じり合っていた。彼の『意志』は、『観測不能』な『未来』によって、完全に無力化されていたのだ。


「ざけんな! あたしたちの『未来』は、誰にも『再定義』させない! これが、あたしたちの『意志』なんだ!」


咲は、力強く叫んだ。彼女の心は、かつてないほどクリアで、迷いがない。詩音もまた、咲の隣で、静かに頷いていた。


時守は、苦悶の表情を浮かべながら、ゆっくりと光の粒子となって夜空へと消えていった。彼の死と共に、歪んでいた地下室の空間は、ゆっくりと、しかし確実に元の姿へと戻っていく。


二人の『奪還屋』の戦いは、今、また一つの終わりを迎える。しかし、彼らが『奪還』した『真実』は、この世界を大きく変える『鍵』。そして、その『鍵』を狙う者は、まだまだ現れるだろう。


これは、二つの『光』が、この世界の『未来』を紡ぐ、新たな物語の始まりに過ぎない。

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