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第七十九話「意志の衝突、護り屋の真実」

「『再構築』をもたらす『光』……? 何を言ってるんだ、あんたは?」


咲は、守の言葉に困惑しながら問いかけた。彼女のP90は、依然として守に向けられている。しかし、その銃口は、守の周囲の空間に、まるで透明な壁があるかのように阻まれていた。


「フフフ……。君たちの『光』の能力……それは、この世界に『新しい法則』を、無理やり『投影』する力。その力は、この世界の『真実』を護るための、『鍵』だ……。だが、その『鍵』も、私の『防御』の前では、無意味だ……。君たちの『光』は、私の『意志』のままに、護り抜かれてしまう……」


守は静かに、しかし、圧倒的な威圧感を放ちながら、二人に話しかけた。彼の声は、まるでこの地下室の空間そのものを支配しているかのように響き渡る。


「『防御』……? じゃあ、アンタがさっき言ってた『再構築』ってのは、どういうことなのよ!?」


「簡単なことだ。この世界は、あまりにも多くの『矛盾』と『絶望』で満ちている。だから、一度すべてを『護り抜く』という『意志』で『固定』し、新しい『真実』を『投影』する。それが、私の使命だ」


守の言葉に、咲の表情は焦りと苛立ちに歪んだ。


「わけわかんないこと言ってないで、さっさとどっか行けよ! アンタの『使命』なんか、あたしには関係ないんだよ!」


「フン……。実に短絡的だ。だが、それこそが君たちの『光』の本質か。感情のままに『法則』を『投影』する。だからこそ、危険なのだ」


守が右手を差し出すと、咲と詩音の周囲の空間が、彼の『意志』によって存在そのものが書き換えられるかのように静かに歪み始めた。それは、これまで戦ってきた概念的な攻撃とは全く違う、物理的な、しかしどこまでも恐ろしい攻撃だった。


「うわっ、マジでヤバいんだけど……! 詩音、これ、どうする!?」


咲は焦りを隠せない。彼女は本能的に、目の前の男が、これまでの敵とは全く違う、次元の違う存在であることを理解していた。


詩音は冷静だった。彼女はライフルを構え、守の能力の波形を正確に捉えようと試みる。


「待って、咲……! 奴の能力は、私たちの『光』を、『護り抜く』ことができる……。その本質は、『防御』(ディフェンス)というより、彼の『意志』そのもの……。彼の『意志』が、この空間の『法則』を書き換えているのよ」


詩音の言葉に、咲は眉をひそめる。


「意志で法則を書き換えるって、意味わかんないんだけど! じゃあどうやって倒すのよ!? あたしの銃も効かないみたいだし!?」


「奴は、『護り抜く』ことができる……。ならば、私たちは、奴が『護り抜く』ことができない、『もの』を、奴に、見せつけてやればいい!」


「護り抜けないもの? そんなのあるのかよ!?」


「ええ。あるわ……! 奴が『護り抜く』のは、『世界の真実』……。ならば、私たちは、結人の『意志』を、奴の『意志』で、上書きすればいい!」


詩音は、自身の『光』の能力を、地下室のメインシステムへと向けた。彼女の『光』は、結人のシステムと共鳴し始める。


「これは……! 結人のシステムは、この地下室をあらゆる攻撃から護るための、絶対的な防御システムを構築している……。そのシステムは、この地下室の全ての『物質』と『エネルギー』を、彼の『意志』のままに、絶対的な存在へと書き換えているわ! 結人の『意志』が、この地下室の『絶対的な防御』を創り出しているんだわ! ならば……!」


詩音は、一つの仮説にたどり着く。


「ならば、私たちは、結人の『意志』を、奴の『意志』で、上書きすればいい……! 奴が護り抜くのは、あくまで『世界の真実』。でも、結人の『意志』が護り抜くのは、私たちの『絆』という『真実』よ。奴の『護り屋』としての信念は、この『絆』を否定することはできない!」


詩音は叫んだ。


「咲……! 今よ! 結人の『意志』を、奴の『意志』で、上書きするのよ!」


咲は、詩音の言葉にハッと息を呑んだ。もはや思考することはやめ、ただ詩音との『絆』を信じ、本能のままに動く。彼女はP90の銃口を、守の心臓へと向けた。


「ふむ……。面白い……。君たちの『絆』という『意志』が、私の『防御』を上回るというのか……? やってみるがいい、伝説の『光』よ……!」


守は、不敵な笑みを浮かべ、二人の攻撃を受け止めようとした。しかし、彼は気づいていなかった。二人の間に流れる、互いを信じ抜く『絆』という名の『意志』が、結人の『意志』と共鳴し、守の『防御』の隙間を縫うように、一本の道を作り出していることを。


ドスッ!


銃弾は、守の心臓を正確に撃ち抜いた。守の瞳から狂気に満ちた光が消え、深い悲しみと、そしてかすかな安堵が混じり合っていた。


「馬鹿な……! なぜ……! なぜ、私の『護り』が……!?」


彼は、苦痛に顔を歪ませながら、その場に崩れ落ちた。彼の『防御』は、二人の『絆』によって、完全に無力化されていたのだ。


「ざけんな! アンタの『防御』なんて、あたしたちの『絆』の前では、マジで無意味なんだよ! あたしたちの『絆』が、最強なんだから!」


咲は、力強く叫んだ。彼女の心は、かつてないほどクリアで、迷いがない。


「そうよ! この地下室は、私たち自身の『意志』が護り抜かなきゃいけない場所! それが、私たちがここにいる、最後の理由だもん!」


詩音もまた、守の『理想』を完全に否定した。


守は、苦悶の表情を浮かべながら、ゆっくりと光の粒子となって夜空へと消えていった。彼の死と共に、歪んでいた地下室の空間は、ゆっくりと、しかし確実に元の姿へと戻っていく。


咲と詩音は、夜空に消えていく光を見上げていた。彼らは、伝説の二つの財宝『光の心臓』と『時間の心臓』を、この世界に『奪還』し、その真の『意志』を、未来へと繋いだのだ。


二人の『奪還屋』の戦いは、今、一つの終わりを迎える。

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