第七十七話「奪い屋の襲撃、地下室の攻防」
アブソリュートとの激しい戦いを終え、バー『RETRIEVER』の地下室に戻った咲と詩音は、安堵した様子で椅子に座っていた。結人はメインシステムの修復を終え、ほっと一息ついた様子で、二人を見守っていた。
「あー、マジで疲れた……。あいつ、マジでやばかったよね。てか、あたしたちって、最強なんじゃない?」
咲は、そう言うと、コンビニで買ってきたおにぎりを頬張った。彼女の心は、これまでの激しい戦いを乗り越えてきた、確かな『意志』で満たされている。
「うん。でも、油断は禁物よ、咲。私たちの『奪還屋』としての仕事は、まだ終わっていないんだから」
詩音は、そう言うと、静かに微笑んだ。彼女の瞳には、これまでの戦いを乗り越えてきた、確かな自信が宿っている。
その時、地下室のメインシステムが、再び警告音を鳴らし始めた。しかし、その警告音は、これまでのような敵のハッキングや、エネルギー反応を示すものではなかった。それは、この地下室の入り口が、何者かによって、物理的に、そして概念的に、開けられたことを知らせるものだった。
「咲さん、詩音さん……! 奴らが、また、来たようです……!」
結人の言葉に、二人の心に、新たな緊張が走る。
「うそ……!? マジで、また来たの!? もう、勘弁してほしいんだけど……!」
咲は、そう言うと、P90を構え、地下室の入り口へと、銃口を向けた。
そこに現れたのは、一人の男だった。彼の瞳は、まるで、この世界の全てを『奪い去る』かのように、冷たく、そしてどこまでも鋭かった。彼こそ、『奪い屋』(うばいや)の新城 嵐太。彼の能力は、『奪取』(スティール)。相手の能力を、一時的に『奪い』、自分のものにすることができる力だった。
「フフフ……。君たちの『光』の能力……。それは、この世界の『真実』を護るための、『鍵』だ……。だが、その『鍵』も、私の『奪取』の前では、無意味だ……。君たちの『光』は、私の『意志』のままに、奪い去られてしまう……」
嵐太は、そう言うと、不気味な笑みを浮かべ、二人に話しかけた。彼の声は、まるで、この世界の全てを支配しているかのように、静かで、そして、しかし、どこまでも威圧的だった。
「え、なにそれ……! アンタ、マジで何者なの!?」
咲は、焦りを露わにする。彼女は、目の前の男が、これまでの敵とは、全く違う、次元の違う存在であることを、本能的に理解していた。
「私は、『七つの屋号』の一人……。そして、この世界の『真実』を護るための、『奪い去る者』だ……。君たちの『光』は、私たちが、護り抜くべき『真実』の、最後の『鍵』だ……。だから、君たちには、ここで、私に、その『鍵』を、渡してもらわなければならない……」
嵐太は、そう言うと、右手を、二人に向けた。
嵐太の右手が、二人に向けられると、咲と詩音の周囲の空間が、まるで、彼の『意志』によって、存在そのものが書き換えられたかのように、静かに、そしてゆっくりと、歪み始めた。それは、これまで戦ってきた、概念的な攻撃とは、全く違う、物理的な、しかし、どこまでも恐ろしい攻撃だった。
「うわっ、マジでヤバいんだけど……! 詩音、これ、どうする!?」
咲は、P90の銃口を、嵐太に向けたまま、焦りを露わにした。しかし、彼女の銃口は、嵐太の周囲の空間に、まるで、見えない壁があるかのように、阻まれていた。
「待って、咲……! 奴の能力は、私たちの『光』を、『奪い去る』ことができる……。ならば、私たちは、奴の能力を、私たちの『意志』で、打ち破らなければならない!」
詩音は、レミントンM700を構え、冷静に言った。彼女の『光』の能力は、嵐太の能力の波形を正確に捉え、その本質が、あらゆる概念的な力を、『奪い去る』ことにあると見抜いていた。
「どうやって、あたしたちの『意志』で、打ち破るんだよ!?」
咲が問う。
「奴は、『能力』を、『奪い去る』ことができる……。ならば、私たちは、奴が、『奪い去る』ことができない、『もの』を、奴に、見せつけてやればいい!」
詩音は、そう言うと、自身の『光』の力を、地下室のメインシステムへと向けた。彼女の『光』の能力は、結人のシステムを、まるで、ハッキングするかのように、解析し始めた。
「これは……! 結人のシステムは、この地下室を、あらゆる攻撃から、護るための、絶対的な防御システムを構築している……。そのシステムは、この地下室の、全ての『物質』と『エネルギー』を、彼の『意志』のままに、絶対的な存在へと、書き換えている……!」
詩音は、そう言うと、自身の『光』の力を、結人のシステムに、さらに深く、そして強く、同調させた。彼女の脳裏に、結人の、この地下室を、絶対に護り抜くという、揺るぎない『意志』が、まるで洪水のように流れ込んできた。それは、彼の過去の悲しみ、そして、この地下室を、彼の『家族』の『居場所』として、護り抜くという、彼の『意志』の断片だった。
「そうだ……! 結人の『意志』が、この地下室の『絶対的な防御』を、創り出しているんだわ! ならば……!」
詩音は、一つの仮説にたどり着いた。
「ならば、私たちは、結人の『意志』を、奴の『意志』で、上書きすればいい!」
詩音は、そう言うと、自身の『光』の力を、結人のシステムに、さらに深く、そして強く、同調させた。彼女の脳裏に、結人の、この地下室を、絶対に護り抜くという、揺るぎない『意志』が、まるで洪水のように流れ込んできた。それは、彼の過去の悲しみ、そして、この地下室を、彼の『家族』の『居場所』として、護り抜くという、彼の『意志』の断片だった。
「咲……! 今よ! 結人の『意志』を、奴の『意志』で、上書きする!」
詩音が叫ぶ。
咲は、詩音の言葉に、ハッと息を呑んだ。彼女は、もはや思考することをやめ、ただ、詩音との『絆』を信じ、本能のままに動いた。彼女は、P90の銃口を、嵐太の心臓へと向けた。
ドスッ!
銃弾は、嵐太の心臓を、正確に撃ち抜いた。
「馬鹿な……! なぜ……!?」
嵐太は、驚愕の表情を浮かべた。彼の『奪取』は、二人の『絆』によって、完全に無力化されていたのだ。
「ざけんな! アンタの『奪取』なんて、あたしたちの『絆』の前では、マジで無意味なんだよ! あたしたちの『絆』が、最強なんだから!」
咲は、力強く叫んだ。彼女の心は、かつてないほどクリアで、迷いがない。
「うん! この地下室は、私たち自身の『意志』が、護り抜かなきゃいけない! それが、私たちが、ここにいる、最後の理由だもん!」
詩音もまた、嵐太の『理想』を、完全に否定した。
嵐太は、苦痛に顔を歪ませながら、その場に崩れ落ちた。彼の瞳から、狂気に満ちた光が消え、深い悲しみと、そして、かすかな安堵が混じり合っていた。
「ターゲット、無力化」
詩音が、冷静に報告する。
嵐太の体は、ゆっくりと、しかし確実に、光の粒子となって、夜空へと消えていった。彼の死と共に、歪んでいた地下室の空間は、ゆっくりと、しかし確実に、元の姿へと戻っていった。
咲と詩音は、夜空に消えていく光を見上げていた。彼らは、伝説の二つの財宝『光の心臓』と『時間の心臓』を、この世界に『奪還』し、その真の『意志』を、未来へと繋いだのだ。
二人の『奪還屋』の戦いは、今、一つの終わりを迎えた。




