第七十六話「絶対の侵入者、地下室の攻防」
東京の夜空は、不気味な暗雲に覆われ、静かな緊張感が街全体を包み込んでいた。バー『RETRIEVER』の地下室では、咲と鳴瀬詩音が、結人がモニターに映し出した、新たな敵のデータファイルに言葉を失っていた。それは、**『七つの屋号』**が、彼らの居場所を特定したことを示す警告音だった。
「うわ、まじで!? いきなり、本丸に来るなんて、めっちゃやるじゃん……!」
咲は、そう言うと、P90を構え、地下室の入り口へと、銃口を向けた。彼女の心は、これまでの激しい戦いを乗り越えてきた、確かな『意志』で満たされている。しかし、同時に、彼女の『光』の能力が、この男の存在に、微かな、しかし、底知れない恐怖を感じているのを感じていた。その恐怖は、これまで戦ってきた、アダムやメイズ、シャドウ、カオス、そして幻といった、概念的な能力を持つ敵とは、全く異なるものだった。
「うん。でも、大丈夫。結人のシステムは、この地下室を、あらゆる攻撃から、護るための、絶対的な防御システムを構築しているから……」
詩音は、レミントンM700を構え、冷静に言った。彼女の『光』の能力は、この地下室に張り巡らされた、結人のシステムが生み出す、強固な防御システムが、あらゆる攻撃を無効化できることを、正確に読み取っていた。
しかし、その時、地下室の入り口が、まるで、誰かの『意志』によって、存在そのものが書き換えられたかのように、静かに、そしてゆっくりと、開いていった。
「うそ……! 結人のシステムが……!?」
咲は、驚愕の声を上げる。彼女は、目の前の信じられない光景に、言葉を失っていた。
そこに現れたのは、一人の男だった。彼の瞳は、まるで、この世界の全てを、見通しているかのように、どこまでも澄んでいた。彼こそ、『アブソリュート』。彼の能力は、『絶対』(アブソリュート)。触れた物質やエネルギーを、自身の『意志』のままに、絶対的な存在へと変える力だった。
「フフフ……。君たちの『光』は、この世界の『秩序』を護るための、『鍵』だ……。だが、その『鍵』も、私の『絶対』の前では、無意味だ……。君たちの『光』は、私の『意志』のままに、絶対的な存在へと、変えられてしまう……」
アブソリュートは、そう言うと、不気味な笑みを浮かべ、二人に話しかけた。彼の声は、まるで、この世界の全てを支配しているかのように、静かで、そして、しかし、どこまでも威圧的だった。
「なにそれ……! アンタ、マジで何者なの!?」
咲は、焦りを露わにする。彼女は、目の前の男が、これまでの敵とは、全く違う、次元の違う存在であることを、本能的に理解していた。
「私は、『七つの屋号』の一人……。そして、この世界の『真実』を護るための、『絶対的な存在』だ……。君たちの『光』は、私たちが、護り抜くべき『真実』の、最後の『鍵』だ……。だから、君たちには、ここで、私に、協力してもらわなければならない……」
アブソリュートは、そう言うと、右手を、二人に向けた。
アブソリュートの右手が、二人に向けられると、咲と詩音の周囲の空間が、まるで、彼の『意志』によって、書き換えられたかのように、静かに、そしてゆっくりと、歪み始めた。それは、これまで戦ってきた、概念的な攻撃とは、全く違う、物理的な、しかし、どこまでも恐ろしい攻撃だった。
「うわっ、マジでヤバいんだけど……! 詩音、これ、どうする!?」
咲は、P90の銃口を、アブソリュートに向けたまま、焦りを露わにした。しかし、彼女の銃口は、アブソリュートの周囲の空間に、まるで、見えない壁があるかのように、阻まれていた。
「待って、咲……! 奴の能力は、あらゆる概念的な攻撃を、無効化することができる……。ならば、私たちは、奴の能力を、物理的な力で、打ち破らなければならない!」
詩音は、レミントンM700を構え、冷静に言った。彼女の『光』の能力は、アブソリュートの能力の波形を正確に捉え、その本質が、あらゆる概念的な力を、無効化することにあると見抜いていた。
「どうやって、物理的な力で、打ち破るんだよ!?」
咲が問う。
「奴は、『概念的な攻撃』を、無効化できる……。ならば、私たちは、奴の『意志』を、物理的な形で、揺さぶればいい!」
詩音は、そう言うと、自身の『光』の力を、地下室のメインシステムへと向けた。彼女の『光』の能力は、結人のシステムを、まるで、ハッキングするかのように、解析し始めた。
「これは……! 結人のシステムは、この地下室を、あらゆる攻撃から、護るための、絶対的な防御システムを構築している……。そのシステムは、この地下室の、全ての『物質』と『エネルギー』を、彼の『意志』のままに、絶対的な存在へと、書き換えている……!」
詩音は、そう言うと、自身の『光』の力を、結人のシステムに、さらに深く、そして強く、同調させた。彼女の脳裏に、結人の、この地下室を、絶対に護り抜くという、揺るぎない『意志』が、まるで洪水のように流れ込んできた。それは、彼の過去の悲しみ、そして、この地下室を、彼の『家族』の『居場所』として、護り抜くという、彼の『意志』の断片だった。
「そうだ……! 結人の『意志』が、この地下室の『絶対的な防御』を、創り出しているんだわ! ならば……!」
詩音は、一つの仮説にたどり着いた。
「ならば、私たちは、結人の『意志』を、奴の『意志』で、上書きすればいい!」
詩音は、そう言うと、自身の『光』の力を、結人のシステムに、さらに深く、そして強く、同調させた。彼女の脳裏に、結人の、この地下室を、絶対に護り抜くという、揺るぎない『意志』が、まるで洪水のように流れ込んできた。それは、彼の過去の悲しみ、そして、この地下室を、彼の『家族』の『居場所』として、護り抜くという、彼の『意志』の断片だった。
「咲……! 今よ! 結人の『意志』を、奴の『意志』で、上書きする!」
詩音が叫ぶ。
咲は、詩音の言葉に、ハッと息を呑んだ。彼女は、もはや思考することをやめ、ただ、詩音との『絆』を信じ、本能のままに動いた。彼女は、P90の銃口を、アブソリュートの心臓へと向けた。
ドスッ!
銃弾は、アブソリュートの心臓を、正確に撃ち抜いた。
「馬鹿な……! なぜ……!?」
アブソリュートは、驚愕の表情を浮かべた。彼の『絶対』は、二人の『絆』によって、完全に無力化されていたのだ。
「ざけんな! アンタの『絶対』なんて、あたしたちの『絆』の前では、マジで無意味なんだよ! あたしたちの『絆』が、最強なんだから!」
咲は、力強く叫んだ。彼女の心は、かつてないほどクリアで、迷いがない。
「うん! この地下室は、私たち自身の『意志』が、護り抜かなきゃいけない! それが、私たちが、ここにいる、最後の理由だもん!」
詩音もまた、アブソリュートの『理想』を、完全に否定した。
アブソリュートは、苦痛に顔を歪ませながら、その場に崩れ落ちた。彼の瞳から、狂気に満ちた光が消え、深い悲しみと、そして、かすかな安堵が混じり合っていた。
「ターゲット、無力化」
詩音が、冷静に報告する。
アブソリュートの体は、ゆっくりと、しかし確実に、光の粒子となって、夜空へと消えていった。彼の死と共に、歪んでいた地下室の空間は、ゆっくりと、しかし確実に、元の姿へと戻っていった。
咲と詩音は、夜空に消えていく光を見上げていた。彼らは、伝説の二つの財宝『光の心臓』と『時間の心臓』を、この世界に『奪還』し、その真の『意志』を、未来へと繋いだのだ。
二人の『奪還屋』の戦いは、今、一つの終わりを迎えた。




