第七十二話「依頼、裏社会からのSOS」
東京の夜空は、不気味な暗雲に覆われ、静かな緊張感が街全体を包み込んでいた。バー『RETRIEVER』の地下室では、咲と鳴瀬詩音が、結人がモニターに映し出した、新たな敵のデータファイルに言葉を失っていた。それは、裏社会の頂点に立つ、**『七つの屋号』**と呼ばれる者たちだった。
その時、地下室のメインシステムが、再び警告音を鳴らし始めた。しかし、その警告音は、これまでのような敵のハッキングや、エネルギー反応を示すものではなかった。それは、この地下室の入り口が、何者かによって、物理的に、そして概念的に、開けられたことを知らせるものだった。
「咲さん、詩音さん……! 奴らが、僕たちの居場所を、特定したようです……!」
結人の言葉に、二人の心に、新たな緊張が走る。
「くそっ……! いきなり、本丸かよ……!」
咲は、そう言うと、P90を構え、地下室の入り口へと、銃口を向けた。
しかし、そこに現れたのは、敵ではなかった。
そこに立っていたのは、二人の男女だった。一人は、黒いスーツに身を包んだ、長身の男。もう一人は、白いワンピースを着た、可憐な少女だった。彼らは、まるで、この地下室の存在を、最初から知っていたかのように、そこに立っていた。
「あなたがたが、『奪還屋』の……」
そう言ったのは、少女の方だった。彼女の瞳は、まるで、この世界の全てを、見通しているかのように、澄んでいた。彼女こそ、**『探し屋』(さがし屋)の明里 芽生**だった。
「俺たちは、あんたたちに、何の用もねえぜ。さっさと、出て行ってもらおうか」
咲は、P90の銃口を、二人に向けたまま、警戒を解かなかった。
「待って、咲。彼らは、敵じゃないわ」
詩音は、そう言うと、咲を制した。彼女の『光』の能力が、二人の心に、敵意がないことを、正確に読み取っていた。
「私たちは、あなたたちに、依頼があって、ここに来ました。私たちを、**『横取り屋』(よこどりや)の狐崎 幻**から、護ってほしいのです」
そう言ったのは、長身の男だった。彼の瞳は、深い疲労と、そして、しかし、揺るぎない決意に満ちていた。彼こそ、**『運び屋』(はこびや)の黒崎 悠真**だった。
「『横取り屋』……? どういうことだ?」
咲が問う。
「狐崎 幻は、相手の『記憶』に干渉し、完璧な『幻影』を見せることができる……。彼は、僕たちの『記憶』を、勝手に『横取り』し、僕たちの『意志』を、彼の『幻影』で、支配しようとしている……。このままでは、僕たちは、彼の『幻影』に、永遠に囚われてしまう……」
悠真は、そう言うと、深い絶望を滲ませた。
「私たちは、あなたたちの『光』の能力が、この世界の『真実』を護るための、『鍵』であることを知っています。どうか、私たちを、護ってください……!」
芽生は、そう言うと、二人に、深々と頭を下げた。彼女の瞳には、深い悲しみと、そして、しかし、揺るぎない希望が宿っていた。
咲と詩音は、顔を見合わせた。彼らは、これまでの戦いで、多くの『カオスの使徒』と戦ってきた。しかし、裏社会の頂点に立つ者たちから、直接、依頼を受けるのは、初めてのことだった。
「どうする、詩音。俺たちの『奪還屋』としての仕事は、もう終わったはずだぜ……」
咲は、そう言うと、詩音に、選択を委ねた。彼女の心の中には、まだ、深い疲労と、そして、これ以上、戦うことへの絶望感が、渦巻いていた。
「いいえ。私たちの『奪還屋』としての仕事は、まだ終わっていないわ。彼らは、私たちと同じ、この世界の『真実』を護るために、戦っている……。ならば、私たちは、彼らを、護らなければならない」
詩音は、そう言うと、力強く、そして静かに、そう言った。彼女の『光』の能力が、二人の心に、深い悲しみと、そして、しかし、揺るぎない希望が宿っていることを、正確に読み取っていた。
「分かったぜ、詩音。お前が、そう言うなら……。俺たちの『奪還屋』としての、最後の仕事を、始めようぜ!」
咲は、そう言うと、力強く頷いた。彼女の心は、もはや、過去のトラウマに囚われることはなかった。彼女は、師匠から託された『真実』を胸に、新たな戦いへと、向かうことを決意した。
「ありがとうございます……! あなたたちの『光』が、私たちの『希望』です……!」
悠真は、そう言うと、安堵の表情を浮かべた。
「でも、どうやって、奴を、見つけ出すんだ? 奴は、相手の『記憶』に干渉し、完璧な『幻影』を見せることができる……。奴の居場所を、特定することは、不可能だぜ……!」
咲が問う。
「大丈夫です。僕の能力は、この世界の、あらゆる『情報』を、瞬時に『探し出す』ことができる……。そして、僕の能力は、奴の『幻影』を、見破ることができます。奴は、今、この街のどこかに、潜んでいる……。僕が、奴の居場所を、探し出します」
芽生は、そう言うと、静かに目を閉じた。彼女の『探索』の能力が、この街に潜む、見えない『幻影』の波形を、正確に捉え始めた。
「見つけました……! 奴は、この街の、最も古い『記憶』が残されている場所に、潜んでいる……! その場所は……浅草寺です!」
芽生の言葉に、二人の心に、新たな緊張が走る。
「くそっ……! いきなり、本丸かよ……!」
咲は、そう言うと、P90を構え、浅草寺へと、駆け出した。
新たな戦いが、今、静かに幕を開ける。




