表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/57

第六話「裏切りの正義」

「……警察官が消えた?」


咲は眉をひそめ、詩音と共に駅前の古びたビジネスホテルの一室にいた。テーブルの上には公安からの匿名依頼。差出人の署名はなく、ただ「正義を取り戻してほしい」とだけ書かれていた。


依頼内容は、こうだ――


『山梨県警に所属していた巡査部長・篠原誠一が、2週間前に突如失踪。彼は公安の内偵協力者だった。消された可能性があるが、表に出せない。非公式で構わない、彼を見つけて、安全に取り戻してほしい。』


「公安が、民間の“奪還屋”に依頼?珍しいわね」

詩音はP90を分解しながら言った。


「信頼されてるのか、それとも――使い捨てのコマとして見てるのか」

咲は冷たく言い放つ。


だが、依頼された命を放っておくことはできない。

それが「Silent Trigger」としての流儀だ。


調査の起点は、篠原が最後に立ち寄ったとされる小さな温泉町・影山。


この町には、表からでは見えない“裏通り”がある。噂によれば、近年急増する外国マフィアとのつながり、地元有力者の汚職が渦巻いているらしい。


咲と詩音は、地元に潜入するため、「姉妹旅行客」を装い、温泉宿にチェックインした。


「……詩音のその格好、どう見ても“旅行”じゃないわ」

「そっちこそ、サバイバルブーツで温泉街は浮くと思うよ」


そんな軽口を交わしながらも、2人の視線は常に周囲の不審人物を追っていた。


調査を進める中で、咲たちは“篠原が最後に会っていた人物”に辿り着いた。


彼の名は、綾部蓮司。元公安のエージェントで、現在は情報コンサルタントとして裏社会で暗躍している男。

冷酷で、交渉も暗殺もこなすプロフェッショナル。過去には咲たちの任務とぶつかったこともある。


「篠原?ああ、いたな。だが“もう彼はいない”よ」

綾部は、ニヤリと笑ってそう言った。


「どういう意味?」

咲が詰め寄る。


「記憶を奪って、別人として再教育してる最中だよ。売るためにな」

「……!」


詩音のP90が構えられるより早く、綾部はスモークグレネードを床に転がした。


煙の中から銃声――否、非殺傷弾の音が聞こえた。


「奴もゴム弾を……?」


詩音が戸惑う。咲はすぐに察した。


「非殺傷のプロ。つまり――誰かが、私たちの手口をコピーした」


綾部の足取りを追う中、廃業した病院を拠点とする秘密の“洗脳ラボ”が浮上した。


そこには、篠原と思しき男がいた。しかし彼の目は虚ろで、名前を聞かれても答えられない。


「――公安、とは?」


記憶喪失ではなく、“記憶の上書き”だ。


「無理に刺激すれば、精神が壊れる」

詩音がタブレットを確認しながら言う。


「けど、放っておけば人格が完全に別人に上書きされる。今、取り戻すしかない」

咲は篠原の手を取り、そっと言った。


「戻ろう。あなたの“正義”は、まだここにある」


だが、施設から出ようとしたとき、綾部が待ち構えていた。


彼の後ろには、同じく非殺傷銃器を携えた傭兵部隊。


「これは戦争じゃない。これは“奪い合い”だ。誰がより多く、“生きた情報”を確保できるかのな」


咲が低く息を吐く。


「……なら、私たちは、“生きた人間”を取り返す」


詩音がP90を前に出し、CZ75を逆手に持つ。


「全員、無力化する。殺さずに倒す」


「面白い。来いよ、“偽物の正義”ども」


激しい交戦が始まった。


詩音のP90が、一瞬で4人の敵の肩と膝を打ち抜く。ゴム弾は貫通しないが、十分な衝撃で行動不能にする。


咲は、至近距離に入り込み、合気道の体捌きと関節技で相手の力を逆に利用し、次々に投げ倒す。

銃を構えた敵の手首をねじり、回し蹴りで壁に叩きつける。


「非殺傷戦闘は、心を殺さないって意味じゃない」


綾部が言った。


「……だがな、あまりにも信念に固執すると、それが枷になるぞ?」


「それでもいい。私たちは信じてる。奪われたものは、奪い返せるって」


咲が拳を握った瞬間、綾部の足元に転がったのは――詩音のスタングレネード。


爆音と閃光。綾部の動きが一瞬止まる。


咲が飛び込み、肘打ちを綾部の首に叩き込み、一撃で沈めた。


篠原は、数日後に保護施設に移された。

全ての記憶を取り戻すには時間がかかる。だが、自分の名前と“なぜ公安に入ったか”――その想いだけは、しっかり胸に残っていた。


「ありがとう。君たちの“正義”が、俺の中の火をもう一度灯してくれた」


咲は黙って頷いた。詩音は言った。


「正義の形は一つじゃない。でも、命は一つしかない。だから、守る価値があるのよ」


任務の帰り道。咲はふと、こんなことを呟いた。


「……もし私たちが、正義と敵対する日が来たら、どうする?」


「そのときは、自分の信じる方に銃を向ける。それだけ」


詩音の声には、迷いはなかった。


咲もまた、静かに頷いた。


彼女たちが信じるのは、たった一つ――

「命は、奪われるためにあるんじゃない。取り戻すためにある」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ