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第三十九話「裏切りの真実、最後のメッセージ」

旧型重工業プラントは、今や、光の心臓の模倣品の消滅と共に、静寂に包まれていた。さき鳴瀬詩音しおんは、崩れ落ちた瓦礫の中で、倒れ伏した師匠、ガーディアンの姿を見つめていた。彼の瞳には、かつての冷たく無機質な光はなく、深い悲しみと、そして、かすかな安堵が混じり合っていた。


「師匠……!」


咲は、ガーディアンに駆け寄り、その体を抱き起こした。彼の体は、まるで、すべてのエネルギーを使い果たしたかのように、冷たくなっていた。


「咲……詩音……。よくぞ、私の予測を超えてくれた……」


ガーディアンは、掠れた声で呟いた。彼の口元に、血が滲んでいる。


「師匠……! なぜ……! なぜ、私たちを裏切ったんですか……!?」


咲の瞳から、涙が溢れ出た。彼女は、師匠の裏切りが、どうしても信じられなかった。


「フフフ……。私は、君たちを裏切ったのではない……。私は、君たちを『試して』いたのだ……」


ガーディアンは、悲しげな笑みを浮かべた。


「試して……? どういうことです……?」


詩音が、震える声で問う。


「『光の心臓』は、人を救う力を持っている。だが、同時に、人を破滅させる力も持っている。私は、その力を、正しい形で世界に与えようとした。だが……。私は、かつての過ちから、この財宝が、再び、悪しき者の手に渡ることを恐れていた。だから……」


ガーディアンは、言葉を続けた。彼の話は、彼が光の心臓の模倣品を製造した、本当の理由を語っていた。


「だから、私は、光の心臓を狙う者たちを、私が作った模倣品で、欺こうとした。私は、模倣品を餌に、この世界の闇を、全て引きずり出そうとしたのだ……」


ガーディアンは、自らの計画の真実を語った。彼の目的は、ミダス・グループの野望を阻止することではなく、その背後に潜む、さらなる闇を、全て明るみに出すことだった。


「では……。なぜ、あなたは……? なぜ、私たちに、『思考の予測』の能力を……?」


咲が問う。


「君たちの『光』の能力は、あまりにも強大すぎた。もし、君たちが、悪しき感情に囚われれば、この世界は、再び混沌に陥るだろう。だから、私は、君たちの『光』が、悪しき感情に打ち勝つことができるか……。そして……」


ガーディアンは、言葉を止め、詩音の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「詩音。君は、かつて、自分の『罪』に囚われ、自分自身を憎んでいた。だが、君は、咲との『絆』で、その『罪』を乗り越えた。私は、君たちの『絆』が、光の心臓の模倣品のような、悪しき感情によって作られたものに、打ち勝つことができるか、試したかったのだ……」


ガーディアンの言葉は、詩音の心を深く揺さぶった。彼は、最初から、自分たちの『絆』を、信じていたのだ。


「師匠……!」


詩音の瞳から、涙が溢れ出た。彼女は、師匠の真意を理解した。彼は、彼女たちの成長を、誰よりも願っていたのだ。


「そして、咲……。君は、かつて、自分の『記憶』を失い、自分の存在意義を、見失っていた。だが、君は、詩音との『絆』で、新たな『真実』を見つけた。君たちの『絆』こそが、光の心臓の真の『守護者』なのだ……」


ガーディアンは、かすれた声で続けた。


「師匠……! では、最初から、俺たちを……!」


咲は、言葉にならないほど、感情が溢れ出した。


「ああ。君たちは、私を裏切り者だと信じ、怒り、憎しみを抱いた。しかし、君たちは、その感情に囚われることなく、私の『予測』を、自らの『意志』と『絆』で、超えてくれた。それこそが……『光』の真の力だ……」


ガーディアンは、安堵の表情を浮かべた。彼の瞳には、最後の力を振り絞って、二人に『真実』を伝えようとする、強い意志が宿っていた。


「私の……『思考の予測』の能力は、かつて、この世界に大きな悲劇をもたらした。私は、その悲劇を繰り返さないために、自らの手で、この能力を封印しようとした……。だが、その能力を、模倣品で、再現する者が現れた。だから、私は、再び、君たちの前に現れたのだ……」


ガーディアンは、苦痛に顔を歪ませながら、言葉を続けた。


「この能力は、あまりにも危険すぎる。私は……もう、長くはない……。だから、君たちに、最後の『奪還』を、託す……」


ガーディアンは、懐から、小さなメモリーカードを取り出した。


「この中には……。私が、この能力を手に入れた、本当の『真実』が記録されている……。そして……。その『真実』を巡って、もう一つの伝説の財宝……**『時間の心臓』**を狙う者たちがいる……」


ガーディアンの言葉に、二人は息を呑んだ。


「時間の心臓……!?」


咲が驚愕の声を上げる。


「ああ。それは、過去の『時間』を、自由自在に操る力を持っている。その力は、この世界の『歴史』を、全て書き換えることができる……。私が、この能力を封印しようとした、本当の理由も、その『時間の心臓』の力と、深く関わっている……」


ガーディアンは、メモリーカードを、咲の手に握らせた。


「咲……詩音……。もう、私には時間がない……。君たちの『奪還屋』としての仕事は……。この『真実』を、悪しき者たちの手から、護り抜くことだ……」


ガーディアンは、そう言い残すと、その瞳から、光が消え、静かに息を引き取った。


「師匠……!」


咲の瞳から、大粒の涙が流れ落ちた。彼女は、師匠が、最期まで、自分たちを信じ、そして、この世界の『真実』を託してくれたことを、深く理解した。


数日後。


バー『RETRIEVER』には、再び穏やかな日常が戻っていた。結人は、メモリーカードの解析を終え、二人に、その内容を報告した。


「メモリーカードには、師匠が、その能力を手に入れた経緯、そして、『時間の心臓』に関する、膨大なデータが記録されていました。そして……」


結人は、言葉を濁した。


「そして、何だ?」


咲が問う。


「『時間の心臓』を狙っているのは……ミダス・グループの残党、そして、その背後で暗躍している、**『創造主』**と呼ばれる存在です」


結人の言葉に、二人は、新たな戦いの予感に身震いした。

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