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第三十八話「模倣品の狂気、師匠の遺志」


旧型重工業プラントの地下奥深く。さき鳴瀬詩音しおんは、ミダス・グループの残党リーダーと対峙していた。彼の目の前には、淡い光を放つ、『光の心臓の模倣品』が収められた巨大な装置が鎮座している。その光は、周囲の空間を奇妙に歪ませ、不気味な精神的な波動を放っていた。


「フフフ……もう遅い。お前たちは、全てを失うだろう……! 過去も……記憶も……そして、未来も……!」


残党のリーダーは、狂気に満ちた目でそう叫び、模倣品に手をかざした。彼の体から、光の心臓の模倣品の力を引き出す、強力な精神波が放出され、プラント全体が、まるで巨大な生物のように軋み始める。


(くそっ……! このままでは、奴が『光の心臓の模倣品』を完全に活性化させてしまう……!)


咲は、P90を構え、残党リーダーに向かって駆け出そうとする。しかし、彼女の体が、突然、激しいデジャヴュに襲われた。かつて、彼女の記憶が奪われた、あの日の光景が、まるで現実のように彼女の脳裏に蘇る。


「やめろぉ……!」


咲は、苦痛に顔を歪ませ、その場に膝をついた。彼女の『光』の能力が、過去の幻影によって阻害され、その輝きが弱まっていく。


「咲! それは偽物よ! 奴は、あなたのトラウマを、模倣品の力で再現しているだけだ!」


詩音が、叫ぶ。彼女の『光』の力は、模倣品から放出される精神波の波形を正確に捉え、その本質が、咲の過去のトラウマを模倣したものであることを見抜いていた。


しかし、残党リーダーの能力は、詩音の予想を上回っていた。彼は、模倣品の力を使い、咲の記憶を、まるでフィルムを巻き戻すかのように、何度も何度も彼女の脳裏に再生させ始めたのだ。


「フハハハハハ! どうだ! この苦痛を、何度でも味わうがいい! お前は、永遠にこの『記憶の檻』から逃れることはできないのだ!」


残党リーダーは、高らかに笑う。彼の能力は、単に精神波を放つだけでなく、特定の個人の『記憶』と『感情』に干渉し、それを無限に繰り返させるという、恐るべきものだった。


その時、咲の脳裏に、師匠であるガーディアンが、最後に残した言葉が、鮮明に蘇った。それは、彼が、咲の記憶を奪った時、彼女に語りかけた、あの言葉だった。


『お前は……この世界の真実を、受け止めるには、あまりにも危うかった……。だが、君たちの『光』は……その真実を、未来へと繋ぐことができる……』


(師匠……!)


咲の心に、強い『意志』が宿った。彼女は、もはや、過去の悲劇に囚われることを拒んだ。師匠は、彼女に『真実』を託し、未来を歩む『希望』を与えてくれたのだ。


「俺は……もう、悲劇のヒロインじゃない!」


咲は、叫び、自身の『光』を、これまでになかったほど強く輝かせた。その光は、残党リーダーの精神波をかき消し、彼女の脳裏に繰り返されていた幻影を、まるでガラスのように砕け散らせた。


「馬鹿な……! なぜ、私の『記憶』の能力を……!」


残党リーダーは、驚愕の表情を浮かべた。彼の『記憶』の能力は、咲の『意志』の力によって、完全に無力化されていたのだ。


「お前の『記憶』は、過去を繰り返すだけの、偽りの記憶だ! だが、俺たちの『光』は、未来を切り開く、希望の光だ!」


咲は、力強く叫び、再び残党リーダーに向かって駆け出した。


しかし、その時、光の心臓の模倣品から、想像を絶するほどの強大なエネルギーが放出された。それは、プラントの壁をひび割れさせ、空に不気味な渦を巻き起こすほどの、恐るべき力だった。


「まずいです! 奴が、模倣品の力を、完全に解放しようとしている!」


如月結人きさらぎ・ゆいとの緊迫した声が、インカム越しに響く。


「フハハハハハ! 今だ! 『光の心臓の模倣品』よ! この世界の記憶を、全て私の『意志』のままに、書き換えてやれ!」


残党リーダーは、模倣品に向かって、最後の精神波を放出した。


その時、詩音しおんの瞳が、これまでにないほど強く輝いた。彼女の『光』の力は、模倣品から放出されるエネルギーの波形だけでなく、そのコアに記録されている、全ての『記憶』を読み取っていた。それは、人類の歴史の全てを、まるで一瞬の夢のように体験した。


(この『光の心臓』は、特定の誰かが所有するものではない……。それは、人類の『希望の記録』……!)


詩音は、ハッと息を呑んだ。彼女は、光の心臓の真の正体に気づいたのだ。


「詩音! どうする!?」


咲が叫ぶ。


「この『模倣品』を、私たちに『奪還』するのよ!」


詩音は、レミントンM700を背負い、模倣品に向かって歩み始めた。


「馬鹿な! そんなことをすれば、お前は、模倣品の膨大な『記憶』の奔流に飲み込まれ、自我を失うぞ!」


残党リーダーは、そう叫んだ。


しかし、詩音の心は、決して揺らがなかった。彼女は、自身の『光』の力が、この『記憶』の奔流に耐え、それを『調律』できることを知っていた。


「私の『光』は、この世界の『真実』を、記録するためにある。そして、この『真実』を、未来へと繋ぐために、私はここにいる!」


詩音は、模倣品のコアに、両手をかざした。


その瞬間、模倣品から、想像を絶するほどの膨大な情報が、詩音の心に流れ込んできた。彼女は、人類の歴史の全てを、まるで一瞬の夢のように体験した。それは、悲劇の歴史、喜びの歴史、そして、絶望と希望の、全ての『記憶』だった。


詩音の体に、膨大な情報が流れ込む。彼女の体は、その情報量に耐えきれず、激しく震え、彼女の鼻から、一筋の血が流れ落ちる。


「詩音!」


咲が、詩音に駆け寄ろうとする。


「来るな、咲! これは……私の『役割』だ……!」


詩音の声が、苦痛に歪む。しかし、彼女の瞳は、決して揺らがなかった。彼女は、その膨大な『記憶』の中から、かつて師匠が彼女たちに託した『意志』、そして、彼女たちが見つけた『希望』の光を、見つけ出そうとしていた。


その時、咲は、自身の『光』の力を、詩音へと注ぎ込んだ。


咲の『光』が、詩音の心を包み込む。それは、詩音が孤独に耐えようとしていた膨大な『記憶』の奔流に、温かな光を灯した。


「咲……!」


詩音は、咲の『光』の温かさを感じ、彼女の心に、確かな『羅針盤』を見つけた。それは、彼女が、この膨大な『記憶』の中で、迷うことなく、真の『真実』を見つけ出すための、確かな道しるべだった。


詩音は、模倣品のコアに、彼女と咲の『意志』を、そして、師匠の『意志』を刻み込んだ。


その瞬間、模倣品から、想像を絶するほどの温かく、そして力強い光が放たれた。その光は、プラント全体を、そして夜空をも照らし出すような、圧倒的な輝きだった。


模倣品は、その役目を終えたかのように、輝きを弱め、小さな光の粒子となって、夜空へと昇っていった。


プラントは崩壊し、ミダス・グループの野望は完全に阻止された。


咲と詩音は、光の粒子が消えていく空を見上げていた。


「終わったな……」


咲が呟く。


「ええ……。私たちは、師匠の『意志』を、未来へと繋ぐことができた」


詩音も、安堵の表情を浮かべた。


二人の『奪還屋』は、師匠の『意志』を胸に、世界の未来をかけた最後の戦いを、見事に勝利した。

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