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第三十七話「思考の迷宮、絆の証明」

旧型重工業プラントの地下、錆びついた鉄骨が剥き出しになった空間で、さき鳴瀬詩音しおんは、裏切り者の師匠、ガーディアンと対峙していた。彼の能力は、単なる『思考の読み取り』ではない。それは、相手の行動を、未来にわたって完璧に予測し、その予測を元に、相手の思考と行動を操る、恐るべきものだった。


「無駄だ、咲。私には、君のすべての行動が、未来も含めて、手に取るように分かる」


ガーディアンは、淡々と告げた。彼の言葉は、二人の心を深く抉った。


(くそっ……! 本当に、俺の行動が、すべて読まれている……! どうすればいいんだ……!?)


咲は、P90を構えたまま、動くことができない。彼女の脳裏に、彼女が銃弾を放つ、コンマ数秒後の未来が、鮮明に浮かび上がっていた。その未来では、彼女の銃弾は、ガーディアンの持つ小さな装置に跳ね返され、彼女自身の心臓を貫く。


「詩音……! どうすれば……!」


咲は、絶望的な表情で、詩音に助けを求めた。


「落ち着いて、咲! 彼の能力は、私たちの『思考』を予測している。ならば、私たちは、**『思考しない』**で、動けばいい!」


詩音は、レミントンM700を構えながら、冷静に言った。


「思考しない……? そんなこと、できるのか……!?」


咲は、戸惑いを隠せない。


「ええ。私たちの『光』の能力は、私たちの『意志』の力と、深く結びついている。私たちは、師匠の予測を、私たちの『意志』の力で、打ち破るのよ!」


詩音は、そう言うと、レミントンM700の銃口を、ガーディアンへと向けた。


「無駄だ、詩音。君の行動も、私にはすべて予測できる」


ガーディアンは、淡々と告げた。彼の言葉に、詩音は、一瞬、迷いを見せた。しかし、その迷いは、すぐに消え去った。


「いいえ、師匠。あなたは、私たちの『思考』は読めても……私たちの『絆』は、読めない!」


詩音は、そう叫ぶと、レミントンM700の引き金を引いた。しかし、その銃弾は、ガーディアンを狙ったものではなかった。銃弾は、ガーディアンの背後にある、錆びついた鉄骨を正確に撃ち抜いた。


ドスッ!


鉄骨が、激しい音を立てて崩れ落ちる。


「馬鹿な……! なぜ、私を狙わない……!?」


ガーディアンは、驚愕の表情を浮かべた。彼の『思考の予測』は、詩音が、自分を狙うという未来しか、予測していなかったのだ。


「咲! 今よ!」


詩音が叫ぶ。


咲は、詩音の言葉に、ハッと息を呑んだ。彼女は、もはや思考することをやめ、ただ、詩音との『絆』を信じ、本能のままに動いた。彼女は、P90の銃口を、ガーディアンではなく、彼の足元に叩き込んだ。


ドスッ!


銃弾は、ガーディアンの足元に、小さな爆発を起こす。


「くそっ……! なぜ……!?」


ガーディアンは、動揺を隠せない。彼の『思考の予測』は、二人の『無駄な動き』によって、完全に外されたのだ。


「師匠……。あなたは、私たちの『思考』を読めても……私たちの『絆』は、読めない。私たちの『絆』は、あなたの予測を、超える!」


咲は、力強く叫んだ。彼女の心は、かつてないほどクリアで、迷いがない。

ガーディアンは、二人の『無駄な動き』に、苛立ちを隠せない様子で、再び、強大な精神波を放出した。その精神波は、二人の思考を読み取り、未来を予測しようとする。しかし、咲と詩音は、もはや思考することをやめ、ただ、互いの『絆』を信じ、本能のままに動いた。


咲は、P90の銃弾を、ガーディアンの背後にある、崩れ落ちた瓦礫へと放つ。銃弾は、瓦礫を砕き、ガーディアンの視界を遮る。


「くそっ……!」


ガーディアンは、視界を遮られたことに、苛立ちを隠せない。


その一瞬の隙を、詩音は逃さなかった。彼女は、レミントンM700の銃口を、ガーディアンの持つ、小さな装置へと向けた。


「師匠……! これが、私たちの『絆』の力です!」


詩音は、そう叫ぶと、引き金を引いた。


ドスッ!


銃弾は、ガーディアンの持つ装置を、正確に撃ち抜いた。


バキンッ!


装置が砕け散ると、ガーディアンの瞳から、冷たく、無機質な光が消え、彼の体は、その場に崩れ落ちた。


「ターゲット、無力化」


詩音が、冷静に報告する。


その時、地下室の奥から、複数の足音が聞こえてきた。ミダス・グループの残党が、新たな異能者を伴い、二人の前に姿を現したのだ。


「馬鹿な……! ガーディアンが、負けたというのか……!」


残党のリーダーが、驚愕の声を上げる。


「もう終わりだ。お前たちの野望は、ここで断ち切る!」


咲は、P90を構え、彼らに向き合った。


「そうはさせん! 『光の心臓の模倣品』は、もうすぐ活性化する! それさえ手に入れれば、我々の『プロジェクト・リバース』は、再び動き出すのだ!」


残党のリーダーは、そう言うと、地下室の奥へと駆け上がっていった。


「くそっ……! 追いかけるぞ、詩音!」


咲が叫ぶ。


「待って、咲! このプラントは、光の心臓の模倣品を製造するための、巨大な装置よ! 奴らは、ここで、模倣品を活性化させ、新たな異能者を作り出そうとしている!」


詩音は、自身の『光』の力で、プラントの内部構造を解析し、その真の目的を看破していた。


「ならば、どうすれば……!」


咲が問う。


「奴らが、模倣品を完全に活性化させる前に、中枢にある『光の心臓の模倣品』を破壊するしかない!」


詩音は、レミントンM700を構え、地下室の奥へと向かった。


二人は、次々と現れるミダス・グループの残党を制圧しながら、地下室の奥へと進んでいく。


「咲さん、詩音さん! プラントの奥に、強大なエネルギー反応を感知しました! 『光の心臓の模倣品』が、活性化を始めています!」


如月結人きさらぎ・ゆいとの緊迫した声が、インカム越しに響く。


「させるか!」


咲は、息を切らしながら、地下室の奥にある、巨大な扉を蹴破った。


そこには、巨大な装置が鎮座し、その中央に、淡い光を放つ、『光の心臓の模倣品』が収められていた。そして、その模倣品に手をかざしているのは、ミダス・グループの残党のリーダーだった。


「お前たちが、ミダス・グループの残党か……! 今度こそ、全てに決着をつける!」


咲が叫ぶ。


「フフフ……もう遅い。お前たちは、全てを失うだろう……! 過去も……記憶も……そして、未来も……!」


残党のリーダーは、不気味に笑い、模倣品を活性化させるための、最後の儀式を始めた。


二人の『奪還屋』は、師匠の『意志』を胸に、新たな戦いへと、再び足を踏み入れていく。

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