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第百三十話「孤独な刃、孤独な盾」

エージェントが放った鉛の雨が、咲と詩音に襲いかかる。咲は、瞬時に床に身を投げ、転がりながら壁の陰に隠れた。詩音もまた、反射的にソニックライフルを構え、壁の陰に身を隠す。


「詩音、大丈夫か?」


咲が、壁越しに尋ねる。


「…ええ。なんとか」


詩音の声は、わずかに震えていた。彼女は、再びサーモグラフィーでエージェントの位置を確認する。


「咲、エージェントは…動かないわ。まるで、私たちを待っているみたいに」


「…罠だ」


咲は、そう言って、拳銃の弾倉を確認した。残弾は、あとわずかだ。


「詩音、私に続いて、壁を壊して」


「え?」


詩音が、驚いた表情を見せる。


「いいから、やれ!」


咲は、そう言って、壁の陰から顔を出し、エージェントに向けて、三発の弾丸を連続で発射した。エージェントは、素早く身をかわし、カウンターで弾丸を放つ。


「バァン!」


咲が、エージェントの放った弾丸を避け、再び壁の陰に隠れると、詩音が、ソニックライフルを壁に向けた。


「バァン!」


発射された音波が、壁のコンクリートを砕き、小さな穴を開ける。咲は、その穴から、素早くエージェントの位置を確認し、再び発砲した。


「パァン!」


咲の弾丸が、エージェントの肩をかすめる。エージェントは、苦痛の表情を浮かべたが、すぐに不気味な笑みを浮かべた。


「ほう…やるな」


エージェントは、そう言って、二丁の拳銃を再び構える。


「詩音、次は床だ!」


咲の指示に、詩音は迷わず、ソニックライフルを床に向けた。


「バァン!」


発射された音波が、床のコンクリートを砕き、エージェントの足元を崩す。エージェントは、バランスを崩し、よろめいた。


その瞬間、咲は、壁の陰から飛び出し、エージェントに突進した。彼女は、拳銃の弾倉を空にして、空になった銃でエージェントの顔面を殴りつける。


「っ!」


エージェントは、よろめきながらも、すぐに体勢を立て直し、咲に銃口を向けた。


「終わりだ」


エージェントが、そう言って、引き金を引こうとした瞬間、詩音のソニックライフルから放たれた音波が、エージェントの腕を直撃した。


「グアァァァ!」


エージェントは、苦痛の叫びを上げ、銃を取り落とした。咲は、その隙を見逃さず、エージェントの首を掴み、壁に叩きつけた。


「…ここがお前の墓場だ」


咲が、冷たい声で呟くと、エージェントは、不気味な笑みを浮かべた。


「…ははは…甘いな」


エージェントがそう言うと、彼の胸から、小型の通信機が、光を放った。


「…なんだ?」


咲が、不審な表情を浮かべると、エージェントは、通信機に向かって言った。


「…作戦、開始」


その言葉と同時に、地下工場全体に、警報が鳴り響いた。


「なに?」


詩音が、驚いた表情で叫んだ。すると、工場の奥から、無数の戦闘ドローンが、一斉に飛び出してきた。その数は、先ほどよりも遥かに多い。


「…これは…」


咲は、息をのんだ。彼女の顔に、初めて、絶望の表情が浮かんだ。


「…ははは…お前たちが、ノイズを破壊したおかげで、我々は、最強の兵器を、起動させることができた。…感謝するぜ、子供たち」


エージェントが、そう言って、再び不気味な笑みを浮かべた。


「詩音…ここから、逃げるぞ!」


咲が、そう叫んだが、すでに遅かった。戦闘ドローンが、二人を囲むように、ゆっくりと降下してきた。その銃口が、二人に向けられる。


「…ここまで、か」


咲が、そう言って、拳を握りしめた。その手に、冷たい鉄の感触はなかった。彼女は、拳を握りしめることで、自身の「孤独」を確かめていた。


その時、一機のドローンが、一発の銃弾を放った。弾丸は、咲の胸を貫き、鮮血が、壁に飛び散った。


「…咲!」


詩音が、絶叫した。彼女の目に、涙が浮かんでいた。しかし、咲は、倒れることなく、まっすぐに立ち続けていた。


「…私は、大丈夫だ」


咲は、そう言って、胸に手を当てた。そこには、血まみれの弾丸が、埋まっていた。しかし、彼女は、何事もなかったかのように、再び前を向いた。


「…最強の兵器は…これだ」


咲は、そう言って、ポケットから、小さな機械を取り出した。それは、通信妨害装置の、小型版だった。


「…まさか…」


エージェントが、絶句した。


「私を撃ったドローンは、私に繋がっている。そして、私は、この装置で、奴らを、支配する」


咲は、そう言って、機械のスイッチを入れた。すると、ドローンの動きが、一斉に止まった。


「…私が、この戦いを終わらせる」


咲は、そう言って、再び歩き始めた。彼女の背中は、まるで、孤独な兵士のようだった。

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