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第百十九話「芽生える心のハーモニー」

詩音が提唱した『コミュニティ』創設のアイデアは、計画が実行に移されると、想像以上の速さで街中に広まっていった。第一回『クリーンアップ・サタデー』の朝、公園には老若男女が笑顔で集まっていた。彼らの手には、前回とは違い、皆が家から持ってきた掃除道具が握られている。それは、ただの清掃活動ではなく、誰もが自らの一員としてこの場所を創り上げる、という意志の表れだった。


老女は、エプロンを身につけ、バスケットいっぱいの手作りクッキーを皆に配りながら、詩音に語りかけた。


「詩音さん、本当にありがとうね。まさか、またこんなにたくさんの人に会える日が来るなんて思わなかったよ。みんな、私のクッキーを『おいしい、おいしい』って言ってくれて……。昔、孫と作った時みたいだ」


老女の瞳は、懐かしさと喜びの光で満ちていた。詩音は、その言葉に優しく微笑みながら、老女の皺の刻まれた手に自分の手を重ねた。


「違いますよ、老女さん。皆が集まってくれたのは、老女さんが最初に心を開いてくれたからです。老女さんの優しさが、皆の孤独な心を溶かしてくれたんですよ」


「そんなこと……。でも、詩音さんのおかげで、皆に会うのが毎週の楽しみになったよ。また明日も頑張ろうって、思えるようになったんだ。本当に、本当にありがとう」


老女は、詩音の手をぎゅっと握りしめ、再び涙を流した。それは、もう悲しみの涙ではなかった。温かく、希望に満ちた涙だった。その光景を遠くから見ていた嵐太は、自分の心の中に、かつてないほどの充実感が満ちていくのを感じていた。彼は、傍で落ち葉を掃いていた若い男性に、自然と話しかけていた。


「すごいですよね、この光景。俺、最初は、この街に何ができるのか、全然わからなかったんです。ただ、詩音さんたちについていくことしかできなくて……。でも、こうやって、みんなが笑顔で集まってくれるのを見ると、俺の『勇気』も、無駄じゃなかったのかなって、思えます」


若い男性は、掃いていた手を止め、嵐太の顔を見て微笑んだ。


「あんたが、最初に行動してくれたから、俺たちも、ここに立つ勇気をもらえたんだ。あんたは、この街のヒーローだよ」


その言葉に、嵐太は、照れくさそうに頭をかいた。自分の起こした小さな『勇気』が、誰かの心に火を灯し、それがまた、別の誰かを動かす力になっている。その『つながり』の温かさを、彼は初めて実感していた。


壁画の前では、『絵画ワークショップ』が開催されていた。悠真は、小さな子供たちに囲まれ、一人ひとりの描いた絵を、丁寧に褒めていた。一人の少年が、悠真に自分の絵を差し出した。それは、まっすぐに伸びた一本の木と、その木から伸びる、一本の小さな枝の絵だった。


「お兄ちゃん、これ、僕が描いたんだ。最初は、僕の心みたいに、まっすぐな木しか描けなかった。でも、お兄ちゃんが、『心の中に眠っている希望を描いてごらん』って言ってくれたから、この枝を描いてみたんだ」


少年は、照れくさそうに、自分の絵を指差した。


「この枝から、いつか、たくさんの葉っぱが生えて、大きな木になるんだ。僕の心も、きっとそうなると思うんだ」


悠真は、少年の純粋な言葉に、胸を打たれた。彼は、少年の絵を優しく撫で、満面の笑みを浮かべて言った。


「もちろんだよ。その枝は、君の『希望』の芽だ。大事に育ててあげて。そして、いつか、君がその大きな木を、この街に描いてくれる日を楽しみにしているよ」


その言葉に、少年は、目を輝かせ、悠真に抱きついた。悠真は、自分の絵が、人々の心に『希望』の光を灯すだけでなく、その『希望』を、次の世代へと繋いでいく、大きな役割を担っていることを、深く実感していた。


そして、『歌声カフェ』の日。古びた木製のドアを開けると、そこには、かつての静けさは微塵もなかった。リノの透明感のある歌声に、人々が、それぞれの声で、ハーモニーを奏でていた。かつては孤独だった人々が、今、一つの歌を共有し、互いに心を一つにしている。リノは、マイクを握りしめ、歌声に耳を傾けていた。


「みんな、素敵な歌声だね。それぞれの声が、まるで、この街のいろんな色みたい。皆の声が重なり合って、この街に、新しいハーモニーが生まれている。この歌声が、この街の未来を奏でているんだって、そう感じるよ」


リノの言葉に、人々は、拍手と歓声で応えた。彼女の歌声は、ただの音楽ではなく、人々の心を一つに結びつける、魔法のような力を持っていた。


その様子を、咲は、静かに、しかし、温かい眼差しで見つめていた。彼女の『つながり』の光は、五人がそれぞれに灯した光、嵐太の『勇気』、悠真の『希望』、リノの『調和』、そして詩音の『知恵』が、この街全体に、新しい『芽』を育んでいく様子を、見守っていた。その『芽』は、やがて、人々の心の中に、温かい『家族』のようなつながりを生み出し、街全体を、光で満たし始めていた。


すべてが、順調に進んでいるように見えた、その時。


突如として、街の中心部に、一台の黒い車が止まった。その車から降りてきたのは、冷たい眼差しをした、一人の男。彼の周りには、無表情なスーツ姿の男たちが何人も付き従っていた。男は、人々が集まる場所を、ゆっくりと見渡し、その目に、嫌悪と軽蔑の色を浮かべた。そして、五人の前に立ち、冷たい声で、街全体に響き渡るように言った。


「くだらない茶番だ。この街に秩序をもたらしたのは、私が敷いた『ルール』と『システム』だ。あなた方のやっていることは、その秩序を乱す、危険な行為に過ぎない」


その言葉に、街に満ちていた温かい空気は、一瞬で凍り付いた。男は、悠真の描いた壁画を、一瞥し、鼻で笑った。


「このような、くだらない絵画や、騒々しい歌声、そして、無意味な集まり……。全て、この街から排除する。あなた方は、直ちに、全ての活動を中止し、私の『ルール』に従いなさい」


その言葉は、まるで、五人の心に灯された光を、一瞬にして消し去ろうとする、冷たい嵐のようだった。男は、この街の『支配者』、名をサキモリと名乗った。彼の登場によって、五人の挑戦は、新たな局面を迎えることとなる。彼らは、この絶対的な力に、どう立ち向かうのか。そして、サキモリの言う『秩序』の正体とは、一体何なのか。物語は、再び、大きく動き始める。


今週も物語の続きを作成しました。サキモリという新たな敵の登場によって、五人の挑戦は次の段階へと進んでいきます。この物語の展開について、何かご希望はありますか? 例えば、サキモリの過去や、彼の『秩序』の考え方について掘り下げてほしい、といったことでも構いません。お気軽にお申し付けください。

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