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第百十七話「心に灯る光」

嵐太が始めた公園の清掃活動は、わずか数時間で、街全体に静かな波紋を広げ始めていた。最初は何事かと遠巻きに見ていた人々も、嵐太の真っ直ぐな呼びかけと、彼が放つ『勇気』の光に触発され、一人、また一人と、公園へと足を運ぶようになった。彼らは皆、手に軍手とゴミ袋を持ち、最初はぎこちない手つきでゴミを拾っていたが、やがて、互いに「あそこに空き缶があるよ」「こっちは手が届かないからお願い」と声をかけ合うようになり、清掃活動は、いつの間にか、温かい『コミュニティ』を育む場へと変わっていった。子供たちが遊んでいた壊れた滑り台は修理され、錆びついていたベンチは、皆の手で磨き上げられ、再び輝きを取り戻した。


その頃、街の壁画の前では、悠真が、筆を動かすたびに、見る者の心を躍らせる、鮮やかな色彩を創り出していた。彼の『希望』の光は、空の『観測』の力によって色を失っていた世界に、命を吹き込んでいた。悠真が描く絵は、ただ美しいだけでなく、そこに描かれた虹色の鳥や、キラキラと輝く花々が、見る者の心に、忘れかけていた『希望』を思い出させてくれた。通りすがりの人々は、立ち止まってその絵に見入り、中には、涙を流す者さえいた。「こんなに鮮やかな色、いつぶりだろう……」と呟く彼らの表情には、確かに、新しい光が宿っていた。


リノの歌声は、風に乗って、街のあらゆる場所に届いていた。彼女の歌声は、まるで魔法のように、人々の心を解きほぐし、彼らが抱えていた孤独や不安を、そっと溶かしていく。『調和』の光を宿したその歌声は、嵐太の清掃活動に参加していた人々の心を一つにし、悠真の壁画を眺めていた人々の心を温かく包み込んだ。街全体が、リノの歌声によって、一つの大きなハーモニーを奏で始めたかのようだった。


そんな中、詩音は、一人の老女が、公園の隅で、一人静かに佇んでいることに気づいた。老女は、皆の楽しそうな声や笑顔には目もくれず、ただ、うつむいて、地面の一点を見つめている。皆の輪に入ろうとしない、まるで透明人間のようなその存在に、詩音は心を痛めた。彼は、老女の周りに漂う、深い『孤独』の空気を、はっきりと感じ取ったのだ。詩音は、自分の『知恵』の光を使い、老女の心を読み解こうとした。すると、彼女の心の中には、空の『観測』によって失われた、かつてこの公園で、孫と遊んだ温かい記憶が、モノクロの断片となって残っているのが見えた。


「おばあさん……。もしかして、ここに、大切な思い出があるんですか?」


詩音は、そっと老女に声をかけた。老女は、驚いたように顔を上げ、詩音を見つめた。その瞳の奥には、深い悲しみが宿っていた。


「昔はね……。この公園で、孫とよく遊んだものだよ……。でも、いつからか、この世界から、色が消えてしまって……。孫の笑顔も、私の心から、消えてしまったんだよ……」


老女の言葉に、詩音は胸が締め付けられる思いだった。その時、咲が、そっと詩音の隣に寄り添った。彼女は、老女の心に触れるように、虹色の光の玉をそっと差し出した。


「おばあさん。大丈夫です。消えてしまったんじゃない。その笑顔は、おばあさんの心の中で、眠っているだけです」


咲の優しい言葉と、虹色の光に触れた瞬間、老女の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。その涙は、悲しみの涙ではなく、温かさと、安堵の涙だった。咲の『つながり』の光は、老女の心と、五人の心、そして公園に集まった人々の心を、一つに結びつけた。老女の心の中で眠っていた孫の笑顔の記憶が、鮮やかな色を取り戻し、彼女の心に、再び光を灯したのだ。


老女は、ゆっくりと立ち上がり、皆の輪の中へと歩いていった。彼女は、皆に、温かい微笑みを浮かべ、そして、清掃活動を手伝い始めた。老女の瞳に宿った光は、公園に集まった皆の心を、さらに温かく照らし、彼らの『つながり』を、より強固なものにしていった。


「見て……。おばあさんの顔に、笑顔が戻った……」


リノが、感動のあまり、声を震わせた。五人は、互いに顔を見合わせ、深く頷いた。空が託してくれた『最後の約束』。それは、孤独をなくし、温かい『つながり』を創り出すこと。彼らの行動は、ただ街を綺麗にしたり、絵を描いたりするだけでなく、人々の心に『光』を灯すことだった。彼らが創り出す新しい世界は、物理的な場所ではなく、人々の心と心がつながり合う、温かい『心の故郷』なのだ。


彼らの物語は、まだ始まったばかりだ。一人ひとりの心に宿る光が、集まり、一つになることで、この世界は、もっと、もっと温かい場所へと変わっていく

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