第百十話「もうひとつの法則」
五人の『奪還屋』は、空が作り出した『もうひとつの世界』が砕け散った後、現実の世界へと戻ってきた。だが、そこは、まるで時間が止まったかのように、静まり返っていた。行き交う人々も、車の音も、街の喧騒も、何もかもが消えていた。
「どうなってるんだ……？ まるで、この世界から、人間だけが消えちまったみたいだ……」
嵐太は、そう言って、周囲を見渡した。詩音も、リノも、悠真も、同じように不安げな表情を浮かべていた。咲は、そんな仲間たちに、力強く語りかけた。
「大丈夫！ きっと、空が、この世界を『観測』の『法則』で、別の空間に閉じ込めただけだ！ あたしたちが、空を倒せば、すべて元に戻る！」
その時、再び空の声が、遠くから聞こえてきた。
「フフフ……。面白い。君たちの『つながり』は、本当に……面白い……。だが……これは、始まりにすぎない……。君たちが感じているのは、私の『観測』の『外』にある、『もうひとつの法則』だ」
空の声は、不気味に響き、五人の心に直接語りかけてくるようだった。
「その『法則』は……。君たちの『つながり』を『観測』し、『恐怖』と『絶望』に、変えるためのもの……。君たちの『存在』そのものを、『無』へと還すためのものだ……」
空の声が響くにつれて、五人の『心』に、それぞれの過去の『後悔』や『恐怖』が、鮮明に蘇ってきた。嵐太は、護りきれなかった人々の悲鳴が、詩音は、愛する者を失った時の絶望が、リノは、自分の『道筋』を失った時の孤独が、悠真は、誰にも理解されない『支配』の『法則』の苦しみが、そして咲は、自分一人では何もできなかった無力感が、胸に突き刺さった。
「くっ……！ やめろ……！ これは、あたしたちの『心』を、直接攻撃している……！」
咲は、頭を抱え、苦しみながら叫んだ。その時、悠真が、光の剣を強く握りしめた。
「空！ お前の『観測』の『法則』は、俺たちの『支配』の『法則』が、すべて支配する！ お前の『もうひとつの法則』も、俺たちの『支配』の『法則』で、すべて支配する！」
悠真は、そう言って、光の剣を高く掲げた。光の剣から放たれた光は、空の『観測』の『法則』を打ち砕き、五人の『心』に直接届く、空の『もうひとつの法則』を打ち消そうとした。しかし、その力は、まるで霧のように、光の剣の力をすり抜けていく。
「フフフ……。無駄だよ……。君たちの『支配』の『法則』は、物質にしか効果がない。君たちの『心』に、私の『もうひとつの法則』は、直接届く……。君たちの『つながり』を、内側から、食い破る……！」
空の声が、五人の『心』をさらに深く侵食していく。五人の絆が、今、空の新たな『法則』によって、最大の試練にさらされていた。
「あたしたちの『つながり』は……、絶対に、空には壊せない……！」
咲は、そう叫び、再び五人の顔を見つめた。五人は、咲の言葉に、力強くうなずいた。だが、その顔は、絶望の色に染まりかけていた。五人の『つながり』が、今、空の新たな『法則』によって、最大の試練にさらされていた。
