過去に囚われて
第三章
過去に囚われて
はぁ....
大きなため息をつきながらとぼとぼ歩いた
俺は昔から色々ダメダメな人間である
何をやっても平均以下
仕事となれば最低評価まっしぐらなタイプの人間だろう
そんなくだらない事を考えながら、キャスター1mmに火をつけた
`ふぅ〜‘
神社で聞き取り調査をしたが...
「いやぁ、夢みたいな話だったなぁ〜
今回もハズレハズレ〜!!!!」
と言いながら、手をパンッっと叩いた
「おとぎ話じゃないんすから、勘弁してほしいっすね」
タバコをふかしながら答えた
「とんでもない話だったわね、今回も無駄足かぁ....
編集長になんて言われるか...」
はぁ
三枝さんが珍しくため息をついた
「珍しいっすね、ため息なんて」
「いやいや、私も普通の人間だよ
ため息の一つくらいつかせてくれよ」
そうだった、この人はかなり仕事ができるタイプだったから忘れがちだが
超人ではない
疲れも溜まるし、弱音を吐きたい時もあるだろう
「飲みに行きます?」
俺がそう聞くと
「はは!一丁前に気を遣ってくれのか!
....ありがとう、けど飲みは次の時までまってくれ
一旦事務所にいってまとめよう」
「いや、でもさっきハズレだって...」
「ハズレはハズレかもしれないし、おとぎ話で〜?ファンタジーで〜?メルヘン?な内容だったけど、念のためにまとめとこう」
「え〜、あの話信じるんすか...?」
「だから、信じる信じないじゃない
仮に嘘でも、まとめておく必要があると思う
高木...さっき神職が、"目撃者"がいる、みたいな事を言っていたの覚えてるよな?」
「あぁ、言ってましたけど
昔話みたいな感じだったから、もし話が本当で目撃者がいても
もう現代には存在してないっすよ」
ぽんぽんと、タバコの灰を携帯灰皿に落とす
「とりあえず、一緒に怒られるぞ!高木!」
「勘弁してくださいよ〜」
そうして俺たちは事務所へと向かった
夕陽も完全に隠れ辺りは暗闇が支配していた
街の明かりが何とも幻想的な世界を作りあげ、車のライトですら
その幻想的な景色の一部となっている
(この夜の輝きは、誰かの残業でできてる〜)
ボソッと呟いた
すると三枝さんに聞こえたのか、三枝さんが大笑いした
「間違いないな〜、そしてこれから私たちはその一部になるのである〜」
そう言いながら、三枝さんは事務所の扉を開けた
三枝!高木!
すぐに大きな声が聞こえた
奥のデスクでお怒りの...あれは...般若....かな....
いや、編集長だった、、、
「いや〜、編集長〜、今日も遅くまでお仕事ご苦労様です!」
三枝さんが機嫌を取るために挨拶したが
逆効果であろう。。。
「お前ら....この時間まで何やってたんだ....?
あぁ?
ほらほら、遅くまでご苦労している、この佐々木に言い訳を言ってごらん」
佐々木隼人編集長である
まぁ、言うまでもなくボス、、、だな、、、
「はっ!調査対象者から、時間を早めてほしいと催促の電話があり
この隣にいるバカを家まで迎えに行き、その足で調査対象者の元へと向かった次第です!
今回起きている事件の聞き取りをしていたため、遅くなったと言うわけであります!」
佐々木編集長がため息をついた
「仕事熱心なのは構わないが、今回の事件は
マスコミですら情報を一切つかめてない事件だ、俺たちはこの事件から早い段階で手を引いたはずだが、、、
なのに、事件の調査をしていると....」
うわぁ、、、三枝さん勝手に行動して
俺まで巻き添い食らってたのか...
(あ!てか、そうかサブ役の人がダメになったの、この理由かよ...
くっそ全然知らなかった...)
佐々木編集長がこちらみて
「なるほど、高木は事情を知らず、三枝に引きづり回されていたと...」
「いや〜、このバカが随分熱心に、私に対してサブ役は是非俺にと、、
こんがしてきたので〜」
うっわ...この人どこまで図々しんだ...
出会った頃から男まさりで、性格のきついこの人に振り回されてきたのである
ただ一番最初は優しい人だと思ったのに...
「いいか、三枝、高木、この事件は追うな
普通じゃない、マスコミや、各メディア、そして警察までもが怯えている
これは異常だ
俺としても、二人の安全を優先したい」
「いや、ですが編集ちょ..」
そう言いかけたとき
間髪入れずに
「追うな」
圧倒的な圧だった
ここまで圧力をかける編集長も珍しい
俺たちの仕事はジャーナリストだ、危険な時もあるが
編集長がここまで俺たちを止めるのは、編集長もこの事件が異常な事を理解していそうだった
「はい」
「はい」
二人で返事をした
「はぁ...
もっと別の事件や、世間の人達が求めてる情報を持って来い」
そうしてデスクに返された
デスクに着くまで同僚達にからかわれた
デスクに座った途端、隣の三枝さんに
小声で話しかけられた
(おい高木、今日の神職が言っていたのをデータにまとめておけ)
(え?いやいやいや、三枝さん何言ってるんすか!?さっき編集長に怒られましたよね?)
(あ?お前引き下がるのか!)
(だって、編集長も自分達の安全を考えて、止めてくれたんすよ?)
(うるさい、この事件は何かあるんだ、私たち二人で調べ上げて記事にする
そして公にするんだよ)
(それで何か変わるんすか?)
(変わる、世界のありかたそのものが
そして何より、お前自身が変われるかもしれないと、、私はそう思ってる)
相変わらず訳のわからない根拠で押し切る
世界のありかたは壮大すぎるから、置いておいて...
俺自身が変わるって、、、奥さんと子供の話だろうか
俺は、、俺の中で諦めがもうついてると思っている
そう思うしかないと思ってる
出会ったあの日から三枝さんはずっと俺を気にしてくれている
三枝さんは何を知っているのだろうか
妻と子供に先立たれた、孤独な男のなにを、、、
(はぁ...わかりましたよ...USBで作成します、三枝さん絶対バレないようにしてくださいね)
(誰だと思ってるバカ)
はいまたバカって言った
そうして俺たちは作業を進めた
神職の話と、数十年前の同様の事件のまとめや、似たような事件がないか新聞記事なども調べた
作業に夢中になっていたら、気づいたら事務所に三枝さんと俺だけになっていた
「ふぅ〜、今日はこれくらいにしておこうか」
三枝さんが椅子の背もたれに体重を預けて伸びをした
「そうっすね
随分遅くなっちゃいましたし、終電時間ギリギリっすよ」
「うそ!?やっば!あんたもやばいんじゃないの?」
「俺タクシー使うんでいいっすよ、そんなに遠くないですし」
「そっ、じゃあお先!」
急ぐ三枝さんを見送り、事務所を閉めた
タクシーを呼び止め、家までの道を言う
帰り道、車の中から外の景色を眺めていた
ぼんやり眺めていただけだったが、少し違和感に気づいた
それは道ゆく何ともない人
ただ、思い返せばずっと気に掛かったことがあった
同じ服装の男がずっといた気がする
いや、気のせいだと思う
例えば稀にある、ショッピングセンターで買い物をしていて
ふと目に入った人が、次のショッピングセンターにもいた、、、的なやつだろう
俺は気にせず、窓の外を眺め続けた
家に帰り、すぐに俺は泥のように眠った
..."夢"...
よく夢を見るようになった
今日も夢を見た
同じ夢、事故の悲惨な現場
男が一人絶望して泣いている
夕暮れ時、逆走の車との正面衝突だった
比較的見通しが良い道路のはずだった
相手の運転手は行方不明
妻だけが息絶えていたそうだ
あれ...そういえば遺体を俺は見ていない
警察からは目も当てられない状態とだけ
葬儀も、拝顔をせずに終わった
夜が開けた
朝日が差し込む穏やかな....
「朝!!!!
やっば!遅刻じゃん!」
急いで支度していたら電話が鳴った
表示には、三枝美希
通話に出るボタンを押した
「はい!高木でけど!」
慌てた様子の声を聞いて
「はぁはぁ〜ん、貴様寝坊したな?」
「そうっすけど何すか!」
「まぁまぁ慌てるでない、喜べ、また美人なお姉さんとデートができるぞ」
全然嬉しくない
まぁ、事務所に行かなくて良いのは楽だ
しかも、今日はそのまま直帰できるらしい
「マジっすか...ラッキー...で、何時にどこ集合っすか?」
「え?家の前にもういる」
「え?」
「だから」
バタン!
玄関から音が聞こえた
「家の前にいるって、言ってんだろ!」
「いや、三枝さん...不法侵入っすよ...
しかも、家の前ではなく、中に入ってるから」
昨晩鍵を閉め忘れていたらしい
不用心な俺にも責任はあるが
不覚にも家の中に入られた、荒れた部屋を見られ
一言
「きったねぇ〜」
くっ、、、
この人はどこまで図々しくて無神経なんだ、、、
「まぁまぁ、そんな顔するなよ
さぁ、高木!過去と向き合う時間が来たぞ!」
息を巻いたように言った
自身に満ち溢れた顔で
え...ちょっと待て...
過去と向き合うって...
「誰の...っすか...?」
三枝さんがゆっくり指を刺す
「高木、、、貴様のだ!!!」
「俺の...?」
こうなったらこの人はいう事を聞かない
爽やかな朝から、一転
波乱の予感だ
過去と向き合うとは、亡き妻と
お腹の中にいた子供と向き合うといこと
過去に囚われ、動き出せず、前を向けない
情けない自分とも向き合うことになる
これからどうなってしまうのだろうか
俺たちが答えにたどり着くにはまだ少し時間がかかりそうだと感じた。