事件を追って
第二章
事件を追って
"ガァー、ガァー"
カラスが鳴いている
どんよりした雲がまた不気味さを引き立てる
神社が目の前に見えた
俺たちは鳥居の前で立ち止まった
「三枝さん...ここっすか...?
俺ら場違いすぎやしませんかねぇ....はは...」
そう思うほど立派な神社が目の前には建っていたのだ
こんな神聖な場所に、小汚いおっさんと
性格がきつい独身女上司である、三枝美希と来るなんて...
罰当たりにも程があるだろう。。。
「よし、入るわよ」
俺たちは鳥居の前で一礼して、神社の中へ進んだ
そうすると掃き掃除をしていた神職がこちらの方を見た
動かしていた手を止めこちらに近づいてきた
「ようこそーーおいで下さいました
お二人が今回の事件を追っている方々ですね?」
にこりと微笑みながら神職が言うと
「はい、ご連絡させていただいた通り
何か知っている事があれば、些細なことでも構わないんです、
今回の一連の事件について教えてください」
三枝さんが丁寧に返答した
「まぁ、立ち話も何ですから...中へ入ってください」
神職の言葉に甘え、社務所の中へと案内された
そういえば、こういった場所はーーなんだかんだ初めてだったので緊張した。
ソワソワしている俺に気がついたのか
「あはは、こういった場所は初めてですか?」
俺は恥ずかしくなった
そりゃ寺や神社にはいくが
社務所なんか気にかけたこともないし、一般で入ることはそう滅多にないだろう
「あー、、、バレちゃいましたか....
滅多に入る場所じゃないなぁ〜と思いまして....」
頭を掻きながらそう言ったら
`ボクッ’
横から肘打ちをされた
「グハッ...クッ....」
悶絶だ....
「大変失礼しました、こいつは常識がないやつでして
この年齢になるまで、色々知らないまま生きてきた哀れなやつなんです!」
「三枝さん...失礼すぎっす...俺に...」
「うるさい、こっちが恥ずかしいわ」
そのやりとりを見て神職がケラケラと笑った
このやりとりが俺は恥ずかしいのである
「仲が良くて羨ましいですね、ご夫婦か何かで?」
まさかの質問だった
慌てて三枝さんが
「いえいえいえいえいえいえ!
こんなバカと夫婦だなんて、無いですないです!」
「大体、このバカは亡くなった奥さんのことしか考えてない
可哀想なやつなんですよ」
うっ....可哀想とは何だ
しかもバカバカ言いやがって....
(暴力ババア…だから結婚できないんだよ)
ボクッ
もう一度肘打ちが来た。。。
「まぁまぁ、何であれ...仲が良いことは
何よりも力となりますからね」
その言葉に疑問を持ったが
相手は神職、らしいことを言ったまでなのだろう
「あぁ
そうそう、自己紹介がまだでしたね
私は、"神道 進"と申します」
丁寧にニコニコ自己紹介した
今回調査対象者である
彼は神道進である
代々受け継いできて、彼で8代目にもなる
昔からある神社だそうで
大切に継承してきた、この神社の歴史を嬉しそうに語った
その語りもほどほどに切り出したのは、三枝さんからだった
「本題に入りますが、今回お願いしたのは他でもありません
連日起きている事件について、何かお聞きできればと思います」
「はいはい、存じております...
何とも恐ろしい事件ですよね」
ニコニコ答えているが、空気が変わったことに気がついた
「あなた方は、神様や仏様を信じていますでしょうか?」
そりゃ、信じたいけど
見たわけでもないものを、信じるタイプの人間ではない
隣にいる彼女も、現実に生きるタイプだーー
ーーだからこそ
道中で聞かれた呪いなどを信じるかと言う発言に驚いたのだ
一呼吸置き
神職がゆっくり話し始めた
昔、、、
神と人間は強い繋がりを持っていたそうです
とは言っても、神が人間に直接何か助言をしたり、助けたりする訳ではなかったんです。
逆も然り、人間が神と直接話すことは固く禁ずられていましたし、触れることはもってのほかです。
なので、神の言葉を聞ける人物が必要だったのです
とある特別な力を持った女性が選ばれたとか...
その力の詳細については...私も詳しくは知りません...。
そんな彼女は神の言葉を聞くことが出来たそうで人々の役に立てると大変喜んだそうです。
ただ、やはり長い年月が経てば
人々は虚しくも忘れてしまったり、伝承を辞めてしまうものです。
そうして近年
いかがでしょうか...
神の声が聞こえますか...?
神の救いがあったでしょうか...?
時代と共に、神との隔たりは大きくなったのです。
けれどもーーそれを限界までつなぎとめていたのが、特別な力を持った女性だったそうです。
廃れゆく中で、彼女だけは必死に神と人間を繋いでいた...
神のお告げを聞き、彼女は沢山の人々を救ったそうです。
ですが、悲しいことに
そんな特別な力です、彼女を利用するものが現れてしまったのです。
純粋な彼女はその者の話を真摯に受け止め、神にお願いを聞いてもらっていたそうです。
しかし、相手は神ですから
嘘が長く通用するわけもなかったのです。
その利用した男達、そしてそれを聞き入れてしまった彼女も
皆稲妻に打たれ、亡くなったそうです。
以降その伝承は途絶えていき、今は知るものが極わずかしか残っていません
悲しい話です...
なぜ彼女までも、悪人たちと同じような罰を受けたのでしょうか
今となっては、謎は深まるばかりです。。。
徐々に彼女がいた村は廃れていき、人々は居なくなったそうです
その中でそこに住み続けたものが居たそうです
そう...
彼女の娘と、神を信じた数人の村人たちだけがーー
ーー神に毎日謝ったそうです
母親が稲妻に打たれた場所で、ごめんなさいと、、、
しかし、なんと無慈悲なことでしょう
その後から生まれてくる赤子は、皆呪われた力を持つと言われていたそうです
なんであれ...残酷な話です....
また、一呼吸置いた
「いかがでしたでしょうか?」
ん?
いやいや、なんだ?
いかがでしたでしょうか?って...
今回の事件と何も関係の無い話を、ただ淡々と聞かされただけじゃないか、、、
息をするのも忘れるほど、話には引き込まれていたのは認めるが
それは無いだろと、軽いため息をついた
それを見た三枝さんが軽く俺を小突き
言った
「今回の事件と何も関係ないように感じましたが....」
ニコニコしていた神道さんの顔が
ふっ
と真顔になった
「いやぁ、あくまで風の噂程度の話として聞いてください、
たまたま目撃した人物は皆口を揃えてこう言うのです」
"稲妻を見た"
と....
生唾を飲み込んだ
いやいや、そんなファンタジーの世界があるわけないだろ
風の噂程度だろ?
信じる方がバカバカしい
その話を飲み込めないままいると
「稲妻...ですか...
貴重なお話ありがとうございました」
そう言って三枝さんがお礼を言ったので
慌てて俺も
「ありがとうごじました」
2人でお礼を言って
話を終えた。。。
社務所を出る頃には当たりが薄暗くなっていた
どんよりとした雲は、いつの間にか無くなり
夕陽が隠れ始めていた時間であった
空はオレンジ色から紫色へと変わる境界線にいた
思わず空を見上げた
「行きますか」
俺は空を見上げながら声に出して
三枝さんにいった
「うい」
短く返した三枝さんのあとを追いかける形で帰路につこうとしていた
鳥居を出る前にもう一度挨拶のために神職に頭を下げようとした時
神職も先程の俺と同じように空を見上げていた
見上げながら神職はいった
「稲妻に打たれた際、空はその激しさとは逆に
美しい夕焼けのような空になると言い伝えられていたそうですよ」
神職はその後こちらを向き
頭を下げた
俺達も同様に頭を下げ、鳥居を出る前に一礼し
神社を後にした...