第十七話 お前の番い(完)
オニキスを元の国に帰させて。
他の国とは国交をし、その国交にはあたくしが選ばれ。
ディランとガロンは国の政治で唸り続け、シャルルはもう何を言われても、あたくしに嫌われさえしなければいいと笑っていた。
アルティスが今日は旅立つ日。城門にはあたくしとアルティスの二人。この頃にはあたくしの髪の毛はすっかり伸びていた。
あたくしとシャルルの恋物語を世界中に広めてやる、と歌を作りアルティスは物語を仕上げた。
恋の結末は見れただろうし、両思いから先は人々は聞きたがらないのだ、と彼は区切りを望んでいる。
アルティスを見送るために、お土産を準備していたのにそのすべては却下される。
「身軽な方がいいんだ、崖から落ちるとき自分と黄金のおっさん像選べって言われて選べない状況は困るだろ!」
相変わらずたとえがよく分からない人ねと笑う。
アルティスは今回あたくしの旅に同行したご褒美に買って貰った弦楽器を抱えて、背負い直した。
にっと笑ってあたくしの頭を撫でると、満足そうだった。
「君たちの愛の歌はとても興味深かった。きっと俺の最高の傑作として、人々から君のもとに伝うだろう」
「歌って教えてくれても良いのに」
「だめだよ、こういうのは伝聞で本人に届いた方が綺麗だろ? 君たちに会えたから創作意欲がわいたんだ。
また愛の歌探しに行く。時々手紙を出すよ」
「そうしてちょうだい。野垂れ死んでるなんて思いたくないし」
「ねえ、ロゼット嬢。ひとつだけどんなに取材をしても分からなかったことがある」
「なあに?」
「どうしてシャルル様は狂っていたのに、貴方の何に反応して助けようと思ったのだろうね?」
「そこは……あたくしにもわからないけど、愛じゃだめなの?」
「シャルル様の取材をしているとね、あの頃のシャルル様は惚れているというより、執着にもみえた。
何を持ってしてそんなに執着していたんだろうなーって」
「……そうね、判明したら手紙に書いておくわ」
「頼んだよ、それじゃあ、いつかまたね! 助かったよ俺の女神!」
アルティスがそのまま鼻歌で去って行けば、シャルルがやってくる。
影から見守ってくれていたのだろうけど、シャルルは少しだけもじ、としてあたくしのそばにくればぎゅっと抱きついた。
シャルルは心を取り戻してから接したときに分かったけれど、性質も臆病ではあった。
勇者になれたのが不思議なくらいの心が弱い弱い人。
「ロゼット、何を話していた」
「あなたがどうしてあたくしに惹かれたんだろうってはなし。なんで助けてくれたのかなって」
「……ああ。あのとき。オニキス様に国外追放を言い渡されていたときにさ、俺、嗚呼この人激しい人だなっておもったんだ」
「激しい?」
「あんな状況で一切物怖じしない姿が美しかった。激しくて俺みたいに周りから人が離れていく。そんな姿見たくなかった。お前のような女を好く奴もいると、知らしめたかった。
だから結婚して欲しかった。証明したかったんだ、お前は嫌われ者じゃないと」
「……貴方と重なったの?」
「ガロンもディランもいない、俺だなとおもった。だから味方になってあげたかった。嫌う人ばかりだとおもってほしくなかった。
でも、そうだな。どきどきした、あのときが……お前を俺の本能で花嫁にしたくなった瞬間なんだろうな、ほんとに愛していると理解した瞬間だ」
「貴方は嘘つきね。愛してる愛してる言いながらそんなことだったの」
「……ごめん。安心してくれ。そんなの関係なく今はお前の番いでないと、もう予は駄目そうだ」
「そうじゃないと許しませんわ」
「それで。閨を所望してもいいだろうか、今夜。両思いとなれたら、誘って良いと言っていたが?」
「遅いし、ムードもないのよ、馬鹿」
「それは悪かった、次回直していこう」
あたくしは笑いながら、シャルルに顔を寄せられ、深くキスをされた。
蕩けるようなキスに目が自然と閉じてしまう。
この国はシャルルが心を取り戻したから、もうどこまでも裕福なんて善性をいつまでも維持できるかは分からない。
人の心をなくした判断での結果の政治を、それでもあたくしたちは捨てた。
そのうえでみんなで力をあわせて、やっていければシャルルだってあたくしだって幸せになれる。
あなたはだって。
「誰よりも、具体的な人数じゃないみんなが好きよね」
「……いいや? 今は、お前以外選べないよ」
過去、世界中のみんなを愛していた彼を、今夜からあたくしが独占致しますわ。
今までみんなには尽くしていたから、あとはあたくしがもらってもいいでしょう?
ごめんあそばせ。




