第十五話 魔女様はとっくにもう
「あらアルティス」
「ロゼット様姫様神様ああああああああああ、ごめんようごめんよう、わざとじゃないんだよおおおお!!!!」
シャルルがあたくしの部屋で安心してそのまま眠ってしまったので、あたくしは部屋から出て中庭を散歩しているとアルティスと出くわす。
アルティスはがくがくと震え青ざめている。
この人のこういう性質に救われたのかもしれないわ、今回は。
「いいえ、いいの。アルティスありがとう」
「……怒らない姫様。さてはっ、恋愛ドキドキきゅんきゅんイベントの発現ですね!? ははーん、是非是非取材を……嗚呼アッ紙とぺんがないっ。
こんなときに俺ってやつはーーー!!!!」
「うるさいわ。ねえ、それで魔女様の情報は?」
「驚いちゃいけないぜ? とっくの昔に死んでいるんだとさ。魔女つっても、やっぱ人間は人間だったんだとさ」
「じゃあ魔法は……」
「悲観しちゃいけない。死んでるってことは、とっくに解けてるってことだ。あとの問題はシャルル様ご自身の問題なんだ、俺の予測だとね。
おそらく自己催眠がかかっている。だとすれば、貴方がやっぱり鍵なんだと思う」
「鍵……そう言われましても。あたくしだってつらいのよ、好きよって言って返ってきた言葉が、嘘だ、でしたのよ? 信じられる?」
「……くわしーく、くわしーーーーーく教えて……お、おじさん何もわるいことしないよお……ほんとだよお……はあはあ」
「言葉が変態なのよね貴方……」
アルティスに説明をすれば、アルティスは「エクスタシー!!!!!!!!」と叫んで中庭を駆け回るほど大喜びした。
恥ずかしいからその反応やめてほしい。
夜はもうすぐ朝になろうとしていて、紫色に赤みがかかりはじめている。
身を震わせればアルティスが上着を貸してくれて、中庭の花が風で揺れる。
「姫様あ、俺は、さ。思うんだよね、あのシャルル様が弱音だよ? 弱音をはくなんて、貴方以外に一切ないよ」
「そうね」
「それってらぶろっっっっっっっっっっっっまあああんっす、だよ。これこれ、こういう流れ、こういう流れを求めてました俺は!
滾るううううううう、詩が爆発的に思いつくううううう!!!!!! 天啓天啓! 天啓の玉手箱や~!」
「……貴方が盛り上がれば盛り上がるほど、あたくしは盛り下がるのだけれど」
「姫様はさあ、だって嬉しくないの?」
「……嬉しいよりも、まず。最初に思ったのは、悲しい人だと思った。求められすぎて、自分の価値を軽視している」
「それをただせるのは世界で唯一貴方だけだよ!」
「……あたくし次第ってこと?」
「怖い?」
「いいえ、それくらい全部をくれる人じゃないと、あたくしは好きにならないから。上等よ」
「それにしても魔女が死んでたなら魔法は解けているなんて、信じないだろうなーどうしたものか」
「……こういうのは、どうかしら、アルティス」
悪巧みを一つおもいついたの。
貴方なら従ってくれるのかしら嫌がるかしら。
愛のためだって言えば喜んで引き受けそうね?
空はもう夜明けがきている。




