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第十四話 貴方をちょうだい

「貴方の心は魔女によってなくしたと聞いたの。だから、その魔法をなかったことにしたかったわ」


 しょうがないので白状すれば、一瞬だけ傷ついたシャルルの顔が露わになったのにすぐにぼんやりとして無表情になる。

 シャルルは冷徹にあたくしの体のラインに手をなぞらせ、生かすか殺すかを考えている様子だった。


「お前まで俺を否定するのか」

「否定じゃないわ。こんなときに悲しい顔すらもできない。大事な望みだったから叶えたのに嫌がられた、という傷すら痛みに気づかない貴方が悲しいの」

「やめろ、同情はするな」

「同情じゃない! あたくしが嫌なの、だって貴方はとても素晴らしい人なのに! そのせいで誤解されていくだらけじゃない!」


 貴方がどんなにこの国の人を気にかけているかは、魔導兵をみればわかる。

 きっと誰一人傷つけることなく、みんなに笑っていて欲しくて自己犠牲を選んだのだろうと察しがすぐについた。

 心を失っても優しい貴方は、それでも他国には畏れられるだけ。

 絶対に勝てる戦争をやめないのも、利益だけじゃない。それをすれば、国民がきっと潤うっておもったからでしょう?


「……あたくしはね、好きな者を大嫌いって貶されるのだけは絶対に許さないの!」

「……す、き?」

「そうよ!」

「……嘘だ、こんな俺を好きになる奴なんかいない」


 儚げな笑みは、いつも自信家の貴方からやっとこぼれ出た本音の気がして。

 あたくしはシャルルに首根っこを引きずり込んで抱き寄せ、キスをした。

 シャルルが一気に真っ赤になって両手で口元を押さえる。繊細な人ね!


「おまえ、また、また。ファーストキスだけじゃなく!!」

「こうしないと貴方分からないでしょう!? 乙女が自分から嫌いな人に二回もキスするわけないでしょう!? しかもこのあたくしよ!」

「お、おう、そうだな、ロゼットだな」

「そうよ、あたくしは高いのよ! お金じゃ買えないのよ! 宝石やドレスやスイーツだって、それだけじゃあたくしを動かせないのよ!」

「……そのお前が俺なんかを。好き? 嘘だ」

「今までの熱烈な言葉はなんだったの! 怖じ気づかないで!」

「……俺一人がずっとお前を愛せればそれで良かったんだ。お前の気持ちなんて、どうでもよかった。俺だけが愛していればそれでよかった」

「まあ呆れた! やるやらないで、貴方がやらないを選ぶのはこれで二度目よ。好きだ落とすといってて、結局そんな気なかったんじゃない!」

「……おれ、は。愛されるわけないんだ。だって、皆、俺が役立つから。強いから。勇者だったから。助けたから……」

「切っ掛けだけに囚われないで! 助けられただけでキスはできないのよ、馬鹿!」


 あたくしは馬乗りになってビンタをすれば、シャルルはぽろぽろと泣き出す。

 長い間孤独を抱えていた王様。

 それがきっと貴方の本音でしょう。馬鹿ね、一人にさせるわけがない。

 

 (貴方のすべてをよこしなさい)

 

 (そしたらあたくしは貴方を愛してあげる)


 永遠に愛してあげるから。絶対的な味方に、みんなみたいになってあげるから。

 ディランにも、ガロンにも負けないくらいの。


「シャルル、好きよ」

「嘘だ」

「どうしたら信じてくれるの?」

「……わからない。ただ、なぜだろう。胸が、ぽかぽかする」

「ぽかぽか?」

「どきどきじゃない。お前といるときは、とても、ぽかぽかするんだ」

「……そのぽかぽかは、手放せない?」

「怖い気がする。失ったら怖いし、ぽかぽかをもっと手に入れたら怖い」

「……シャルル。あたくしのことはお嫌い?」

「そんなわけがない。俺はお前を愛している、不思議だな。両思いなら本来なら喜ばしいことなのに。とても、とても怖いんだ」


 あたくしは勇者だった頃のシャルルを知らないから。

 どんな出来事がこれまであって。どんな出来事で疑心暗鬼になっていったのかは、分からない。

 今それを聞くのはそれこそもっと傷つけてしまうし。

 ただ分かるのは、そのぽかぽかをたくさん与えてあげたいという思い。


「シャルル、大丈夫よ。あたくしがいるわ」

「お前も嫌われるぞ」

「あらあたくしは元から世界に嫌われてますわ? 最初の出会いをお忘れ?」

「……なら、お似合いなのかもな、俺たちは」


 ようやく貴方が花のように綻んだ。

 窓辺の月光が入り込んでにこやかに華やいで笑う貴方は、涙のあとがきらきら光っていて月のようなひとだと思った。


「手を伸ばしたんだから。掴んでよ、掴んでくれる約束ですわ」

「……怖い怖いお姫様だ。離してくれと懇願されても離せてやれそうにない……」

 


 

 

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