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第十三話 ゲームオーバー

 来る日も来る日も他国を行き来し、そのたびに外国の匂いがつかないように帰国するたびに念入りにシャンプーをたっぷり使って洗い落とす。

 情報が一切集まらないうえに、気づけばシャルルはオニキスの国の同盟国一つ目と戦いに向かった。

 魔導兵を5千も作って連れて行くのだから、ガロンも大忙しなのに文句一つ言わず従ってすごいわ。

 皮肉にも戦争をしている間は、夜間までかかって泊まりがけに情報を収集しても、ばれないのだからかなしいものね。

 今日はシャルルが凱旋してくると聞いたので早めに帰って、潮風の香りをたっぷり洗い流して。アルティスのお風呂もリリーナに面倒をみさせて、二人で綺麗にしておく。

 あたくしの髪の毛はその頃にはショートヘアだったのがミディアムくらいの長さになる。

 元々のロングヘアの巻き毛とは似ても似つかないから、かつらを被っておく。

 この世界では髪の長さは女の美しさでもあるのだから、面倒くさい。髪の毛を切ったの似合うかしらと打ち明けられたら簡単なのに。

 いえ、それもきっと聡いシャルルのことだから訝しまれて終わってしまうわ。


 「ロゼット、ああ、お前の顔を見ると安心する。ただいま」


 二ヶ月ぶりに見たシャルルはすっかり血のにおいに染まりきっていて、獣臭さがある。

 今回も人間の兵士はシャルル以外いないのに、誰一人逃さなかったらしい。

 敵の大将を生け捕りに、今回もディランにあの洗脳方法で任せると聞いて、オニキスのことが過る。

 顔を曇らせたあたくしに、何を勘違いしたのか、シャルルは小首をかしげて笑った。


「あの犬の躾はもう完璧らしいぞ。お前の前で粗相ももうしないで謝罪できるだろう」

「心からの謝罪じゃないと意味はないのよシャルル」

「力に屈服して畏怖するのは心からだ。それより、ロゼット、お前……」

「何ですの」

「おかえりもないのか」

「遅れてごめんあそばせ、お帰りなさい。無事で何よりですわ」


 あたくしはシャルルにそっと抱きしめると、シャルルは抱き留める腕に力がこもって、顔を見つめ直される。

 間近で狂気の眼が見開き、目を眇めて舌なめずりをされた。


「お前どうした」

「なんですか」

「香水のかおりがしない。あれだけ自慢げだったのに」


 しまった、香りを消すのに夢中で肝心の香り付けをしなおすのを忘れていた!

 あたくしは頬に頬ずりし、一生懸命ごまかしの策を練る。


「血のにおいで帰ってくるとおもって。血のにおいに香りが混ざるのはお好きじゃないと聞きましたから。

 嫌われるのはもういやよ」

「……なるほど? まあいい、疲れている今は。流石に一週間貫徹で攻め入るのは疲れる。

 今日はお前の膝で寝たい。お前と茶会の時間もある。夕食の後は膝を借りてもいいだろう?」

「そうね、ただ綺麗にしてからね! あたくしのベッドは血なまぐさくしたくありませんの」

「それもそうか。ああそうだ、兵士の一人が持っていた品だ、お前に似合うと思う。つけるといい」


 お土産だと、翡翠を手渡される。

 あたくしは翡翠の腕輪を貰うと、それはあのジョセフィーヌの生首に飾ってあげようとも思った。

 シャルルの言葉に有難うと抱きしめ直すと、シャルルはふふ、と柔らかに笑ってそのまま立ち去った。

 部屋の姿見の鏡は隠しておかないとまずそうね、それからリュックはクローゼットの中にいれておこう。


 アルティスには部屋にこないよう口止めしてもらわないと。


 *


 夕食を終えて、夜間のお茶会までシャルルはあたくしの膝を借りてうたた寝をしている。

 ぼんやりとしながら、時々虚ろな表情で手を握ったり開いたりして、両手で顔を押さえては寝息を立てるの繰り返しだ。

 半分覚醒状態で眠れないのがしんどいのだろう。


「姫様、今日のお茶のぶん。ここ置いておきますね」

「茶菓子は今日はなにかしら」

「ミルクたっぷりのゼリーと、果物添えです」

「美味しそうね、太りそうだわ、乙女の敵ねリリーナ」


 


 あたくしはシャルル様の髪を撫でながら部屋を出て行くリリーナを見送った。

 リリーナのお手製である果実とミルクを混ぜたゼリーはぷるぷるとしていて、果物は今の旬を選ばれた柑橘類。

 爽やかな香りにくらくらしてしまいそう。

 ポットにお茶を注いで準備をしたいので、シャルルを起こさないと。


「シャルル、もうお茶会の時間よ」

「……ロゼット。そうか、もうそんな時間か、憩いの時間は終わるのが早いな」

「お茶会は憩いじゃなくて?」

「お前次第だ。なあロゼット、この部屋に何を隠している」

「……シャルル」


 答えを。間違えてはいけない。

 相手は返事一つで首をはねる狂王なのだと、突然身が冷えて思い出した。

 嘘を絶対についてはいけない、それだけは伝わっている。

 喉がひりつく、シャルルはあたくしの力を込めて手を掴み、膝に寝そべりながらあたくしをまっすぐ見上げた。


「鏡ですわ」

「何の鏡だ」

「お外に行く鏡」

「そうか、何のためだ?」

「秘密のある乙女の方が魅力的じゃない? 女は秘密の数ほど色気あるのよ」

「それなら予は色気のないお前が好きだった。色気がないからお前に惚れたのだよ」


 そうまっすぐ言われちゃったらねえ、弱いのよね。

 陛下はあたくしの髪の毛を引っ張り、かつらまで見破って引きずり落とした。

 ミディアムヘアが露わになれば、悔しそうにシャルルは睨んでくる。

 

「あの綺麗な髪の毛を犠牲にする何かが外にあるのだろう?」

「……そうね、とても大事な用事」

「何の用事だ」

「言えないの」

「どうして」

「言ったら貴方は傷つく。だから、言えない」

「……傷つけるようなことを企んでいるのか貴様」


 シャルルが身を起こして、あたくしをベッドに押し倒す。

 こんな体勢なのに甘い香りはしない。甘い雰囲気でもない。

 ひたすらに今すぐ生き死にが判明するチェスをしているような気分だ。

 言葉の駒一つ間違えてしまえばゲームオーバー。


 扉が大きく開いた。


「ロゼット様、朗報です、魔女様の情報つかみました!! いやー、長いこと男装した成果ありましたね!

情報持っていたのは、貴方に一目惚れした歌姫でしたよ!」

「ああ……貴方はそういうひとよね、アルティス」


 アルティスがばんっと扉を開いて、中にシャルルがいるのに気づけばシャルルに睨み付けられ慌てて猛ダッシュで逃げ出していった。

 残されたあたくしだけ処刑台に飛ばされそうね。


「どういうことだ、ロゼット。魔女に何のようだ」

 

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