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第十話 貴方の味方だし、彼の味方

 あたくしの部屋に装置を作るため、あたくしは集中力を散らせないために部屋を出る。

 残りたそうなアルティスの首を掴んで引っ張り出せば、ガロンと遭遇する。

 ガロンは欠伸をして、耳を片方指でかきながら、視線をそらした。

 我関せずの姿勢は、きっとシャルルのほうを選ぶからでしょうね。

 シャルルの狂った意思を尊重し、どこまでも受け入れて認めるのがガロン。

 ガロンはあたくしの行動についてどう思うのかしら。

 腹芸は淑女のたしなみよ、何でもないふりしてやるわ。


「ガロン、お菓子作りでもどう?」

「……この前の、あれがいい。パンケーキ、だっけ」

「ああ、任せて。この城にきてから得意になったの」

「…………そうか、そうだな。そこの詩人もくるのか」

「俺は姫様から離れないよ、片時も! こんな絶好の創作ポイント逃してたまるか!」

「よくわからない人間だなお前も…………あのシャルルを見ても、この城から逃げないか」

「世界が団結して、魔王にされるかもしれないんでしょう? 魔物を扱わないから魔王じゃなくて覇王かな? 覇王誕生の瞬間なんて、滅多にない。それも元勇者だよ!」

「…………詩人よ。前の魔王はどうやって誕生したと思う?」

「わからないね! だからこそ興味深いよ、シャルル様みたいに最初は善性だったのかなって」

「…………そうだな、そこに気づかないあいつに安心するよ」


 ガロンは伸びをすれば、ついてこい、と背中で語り歩き出した。

 あたくしはついていくと、リリーナの書き置きを厨房で目にする。

 食料を買いにいくとのこと、こんなときでも気にかける気遣いは流石ね。

 材料もパンケーキのぶんはあったので安心した。

 手を洗って準備をすれば、ガロンが眉を下げ笑った。


「ドレスでお菓子作りが似合うなんて、あんたくらいだな…………」

「素敵でしょう? 粉もメイクに見えて」

「そうだな。…………姫さん。あんた逃げないのか」

「どうして?」

「このままだと、世紀の悪女にされるぞ…………あんたが切っ掛けで、シャルルは国よりも女をとり、世界で戦争をけしかける。そんなふうに、見えてしまう」

「それはあたくしにいなくなれって、言ってるようにも聞こえるけれど」

「…………いなくなってほしくはないよ。やっと、やっとシャルルの心に住んだ女だ」

「ガロン、悪女で十分よ。正義ってものの正体わかってる? 弱者の反論よ。群れをなした弱者が強者一人に抵抗したくて、正義なんていうの」

「…………弱者を、シャルルは救いたかったはずだ」

「勇者様だものね、シャルル様はきっと幸せよ。世界が平和で、誰一人悪がいなくて。ご自身以外ね」

 腹芸していこうと思ったけれど、ガロンの気弱な子犬みたいな目をしながらの挑発をみていると、めげてしまいそう。

 思ったよりこらえ性ないみたい、あたくし。

 ガロンはきっと、本音の殴り合いのような口論を望んでいる。

 あたくしはパンケーキの具材を混ぜながらガロンと話し、フライパンに生地を流し入れ、焼き加減を見ながらガロンを見やればガロンは目を閉じている。

 子犬みたいに塞いでいる姿は少しだけ母性をくすぐるかもしれない。

「…………心がなくなった、今はわからないな。あいつの望み、叶えてやりたいのに」

「ガロン。貴方は陛下に寄り添ってあげて。貴方だけは陛下を心から否定しないから、貴方だからできる。あたくしとディランは、そのままの陛下じゃ駄目だと思ったの」

「…………シャルルに寄り添うということは、お前のやりたい出来事と敵対するかもしれないぞ……?」

「うん。それでもね、陛下の味方が一人もほんとにいなくなるよりはいい。全部あたくしのせいなら、あたくしがなんとかしてみせる」

「……姫さん」

「あたくしはロゼット、この国の王妃たる存在ですのよ? それくらいなんとでもできるはずよ。貴方くらいが敵対しようが、どうとでもなるわ」


 じゅわっとバターの香りが広がる。

 慌ててひっくり返せば、焼き加減は良いかんじ。

 でもあまりこの重さの調理器具を持ち慣れていないから、フライ返しが落ちそうになる。

 後ろからガロンが抱き込むようにあたくしの手ごと手を重ねて、パンケーキの世話をし。

 焼き加減ぴったりでできあがれば、皿に載せて皿を手に持って窓辺まで離れた。

「ううん、あんたの、敵にはならないよ。信じてる」

 離れた先で、微苦笑してからガロンは背に翼だけ現し、羽ばたいていく。

 側にいたアルティスがくわっとした顔つきでガロンをがん見して、きゃああああと生娘のような悲鳴をあげた。


「何ですか何ですか今のは!! 姫様感想をどうぞ、今のはどうでしたか!」

「な、なにが!? 助けてくれただけよ」

「そうじゃないでしょう!? もっとっこう、なんかあるでしょ! 今のお色気あって、意味深じゃないですか!?」

「……あたくしにはよくわからない。ただ分かったのは、あの人はずっとずっとシャルル様をお守りするでしょうねって現実だけ」


 それこそ世界中が石を投げ断罪して、処刑台に載せようとしたとしても。

 あの守護神が助けに来そうな気がする。悲しみを携え、怒りを唸り叫びながら睨み付け。

 簡単に想像ついた光景にあたくしは、絶対にそうさせないように。早く魔女を捕まえたいと思った。

「ロゼット嬢、それにしても味方が多い方が絶対良いと思うんだけど、どうしてシャルル様側に回ってくれなんてわざわざ言うの?」

「……味方が誰一人いないなんて、シャルル様に体験させたくないし。貴方勘違いしてるわ。みんな、ほんとはシャルル様の味方よ。

 みんな、ほんとは。シャルル様を害する世界なんて大嫌いのはずよ。ディランもあたくしも理性でその他と仲良くしようとするだけ」

 たった一人だけになったときのあのときの気持ちは、あたくしだけで経験者は十分だわ。

 世界中一人ぼっちになるような、あの思いは。

 アルティスはなるほど、とメモに書き込んでいる。ほんとに物語にされちゃうのかしら。

 だとしたら、いつか世界はシャルル様を理解してくれる日がくるのかしら?

 


 

「さあアルティス、パンケーキ何枚たべたい? ジャムつける?」

「五十枚でおねがいします」

「食べ過ぎよ、おばか」


 

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