70.害獣駆除
行進の最中で立ち寄る町で、畑の害獣を駆除すれば新鮮な肉と作物が食える。
バジゴフィルメンテたちが最初の町で行った行動と、彼らが提供してくれた穴潜りの肉を食べて、学園の生徒たちは学んだ。
しかし多くの学生が、バジゴフィルメンテの真似をすることを嫌がった。
バジゴフィルメンテの派閥じゃないからという理由に加えて、畑の害獣駆除など学園に通うことを許された者がやるべきことではないという見栄からだ。
しかし逆に、バジゴフィルメンテの派閥に属する生徒たちは、見栄より実利とばかりに、次に止まる町で害獣駆除を行うことにした。
もちろんやったことがないので、最初はバジゴフィルメンテに実演と手引きをしてもらってだ。
やり方に慣れた後は、方々の畑に散って害獣を狩っていく。
「穴潜りが、害獣の中で狩るのが楽だな。一つの畑にいる数も多いし」
「逆に地上を走る害獣は、近寄ると逃げるし素早いしで困る。こちらが得物を投げて仕留めるしかない」
「なら地上に出る害獣は、『魔法使い』である、この俺に任せてもらおう。もちろん畑に被害が出るような魔法は使わないとも」
わいわいと会話しながら、しかし決して畑を荒らさないように心掛けて、バジゴフィルメンテ派閥の生徒たちは町の畑から害獣を駆除していく。
成果によって今日の晩飯が豪華になるか否かが決まるとあって、生徒たちは真剣である。
生徒が畑で害獣駆除をやることに、この町の人達は最初こそ戦々恐々としていた。
だが、次々に害獣が仕留められていくのを見て、やがて態度を軟化させた。むしろ、この機会に全部の害獣を殺し尽くしてくれないかと、期待する目を向けるようになっていった。
そうしてバジゴフィルメンテ派閥の生徒は大量の害獣を得たことで、町の恩人という立場を獲得し、町の広場にて煮炊きする許可をもらうことに成功。
祭りで使うという大鍋も貸してもらい、大量の害獣の肉と解体で出た骨、害獣の肉と交換した農作物と調味料、そして大量の水を鍋で煮込んで料理を作った。
水で量を嵩増ししたスープとはいえ、害獣の骨を煮込んで調味料で味付けしたこともあり、飲んで美味しいものになっている。
そのスープと、荷物の中に持ってきた携帯食とで、バジゴフィルメンテ派閥の生徒たちは腹を満たす。
腹いっぱい食べてもスープが余ったので、残りは鍋を使わせてもらったお礼にと、町長を仲介者にして町人に配った。一食分増えたことに、町人たちは喜んでお礼を言ってっくれた。
そんな食事風景を見て、町民に歓待を受ける立場の騎士たちは「逞しいものだ」と呆れ顔をし、嫌な顔をされながら糧秣の携帯食と引き換えに町民から食料を交換していた兵士たちは「あの場に加わりたい」と望み、敵対派閥の活躍を面白く思わない生徒たちは「食料と引き換えに誇りを失った馬鹿が」と悪態を吐いた。
その後も、課外授業の進行で泊まる先々の町で、バジゴフィルメンテ派閥の生徒は畑から害獣を駆除し、その肉をスープにして夕食に食べる日々を送った。
五日行程の三日目に、護衛役の兵士たちが糧秣の携帯食――町民が交換を拒否したレンガのように硬いパンを差し出す代わりに、生徒が作ったスープを兵士の人数分だけ貰った。
兵士たちは、そのスープに硬いパンを割り削って浸して柔らかくし、麦粉粥のようにして食べた。生徒たちも真似して、交換して得た硬いパンを消費した。
四日目には、兵士が交換を求めてきただけでなく、貴族の使用人がこっそりとバジゴフィルメンテ派閥に接触してきてスープを金銭と交換し、『使用人が勝手にやったこと』として湯気立つスープを主人に渡すようになった。
連日に渡る携帯食に辟易していた貴族の子息子女は、使用人の心遣いを無下にするのは悪いからという建前で、野趣はあるが料理として成立しているスープを飲んで人心地ついた。
そんな感じの行進も、五日目の夕方に終わりになった。
王都北に位置する、辺境の街に到着したのだ。
そして行進が終わった段階で、一旦全員が解散となった。
「明日の早朝。鐘の音が響く頃に、北門に集合だ!」
騎士の一人が代表して生徒たちに告げると、騎士と兵士と輜重兵たちは同じ方向へと向かっていった。
進む先にあるのは、この街の領主館。そこが彼らが、この街で寝泊りする場所なのだろう。
そうした騎士と兵士の後で、まず動き出したのは、貴族の子息子女に仕える使用人たち。
主人と共に、領主館へと向かう者。事前に収集していた情報を元に宿に突撃する者。この地にいる知り合いの家へと向かう者。様々だ。
さて、では平民の多いバジゴフィルメンテ派閥の生徒はどうしているのか。
彼ら彼女らは、バジゴフィルメンテとマーマリナを先頭に、ある場所に向かって進んでいた。
進んでいった先にあったのは、辺境には必ずある、冒険者組合の建物。
その中に、バジゴフィルメンテとマーマリナは堂々とした態度で入っていく。続けてアマビプレバシオンは興味津々という顔で、他の生徒たちは初めての場所に気後れしている様子で入っていった。