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67.前準備

 日々の訓練と授業を経て、翌日に課外授業が行われる日になった。

 この課外授業の想定は、王都の北に位置する辺境から魔物の大群が現われ、それの援護に王都に住む騎士や兵士が応援にいき、事態終息後に帰投するというもの。

 その騎士と兵士の役を、新入生が担う。

 そのため生徒たちは、朝早くに学園を出発し、王都の北へと進んで辺境へと向かう。その片道五日の徒歩の旅の後、辺境の町を拠点に辺境で魔物と戦う二日を過ごしてから、全員が荷馬車に詰められた状態で二日かけて王城に戻る。

 そんな、予備日を一日を含めての、十日の日程となっている。

 生徒たちは、騎士や兵士の役なので、武器防具をつけた上で自分の荷物を背負っての行軍を行うことになる。

 その持っていくものの用意を、前日までに済ませる必要がある。

 貴族寮なら、それぞれの侍女が過不足なく用意してくれる。

 しかし平民寮だと、それぞれが自分の判断の下で用意する必要がある。

 平民寮の新入生たちは、食堂に集まり、あれがいるこれがいると、次々に背嚢に物を入れていく。

 着替えや携帯食などの必須なものから、遊び道具のような不要なものまでが、背嚢にパンパンに詰め込まれた。

 あとは、武器防具の類の準備をすれば良し。

 その段階になって、平民寮にマーマリナとその侍女のチッターチが入ってきた。

 貴族寮に住むマーマリナが入ってきたことに、平民寮の新入生たちは驚く。

 そんな食堂にいる彼ら彼女らに、マーマリナが近づく。そして腕に抱えていた布包みを、食堂の机の一つの上に置いた。


「わたくしの派閥の方に、プレゼントを持ってきましたわ。タダですわよ」


 そう言いながら、マーマリナは包みを開いた。

 すると布の中には、拵えの作りが粗雑な武器が出てきた。

 その種類様々な武器を、マーマリナは自派閥の生徒たちへと配っていく。もちろん、それぞれの天職に合わせた武器を手渡している。

 武器を受け取った生徒は、困惑しながらも手に取り、感触を確かめていく。

 見た目に造りの甘さが目立ってはいるものの、武器として肝心や刃の部分は、どの武器も満足行く出来になっていた。

 それこそ、タダで配った武器と考えるのなら、むしろ良い出来だと言えるほどだった。

 続いてチッターチが、持っていたものを机の上に展開する。

 それは、簡易的な作りの、上半身を守る革鎧が、平民寮で暮らす派閥の人数分あった。


「この武器と鎧は?」


 同じ派閥とはいえ、武器や防具を貰うことに気が引けるという様子で、新入生の一人が意図を問う。

 するとマーマリナは、薄い胸元を張る。


「実は、少し前に『鍛冶師』と、そのお友達と知り合いましたの。それらの武器は、その方々の習作を、別の『鍛冶師』が天職の力を使って修正したものですの。製品として売り出すには見た目が拙いものの、実用に耐える武器であるとのお墨付きはありましてよ! 防具についても、同じようにして入手したものですわ!」


 得意げなマーマリナに、武器を受け取った大半の生徒がお礼を告げる。


「ありがとう、マーマリナ。学園の貸し武器じゃ、格好がつかないなって思っていたところだったんだよ」

「感謝するわ。刃の部分は全うそうだから、修繕しながら長く使えそうよ」


 感謝する人がいる一方で、渡されたものを突き返す者もいた。


「悪いけど、親に勝ってもらった武器と防具があるから、返す」

「武器はあるから、防具だけなら」

「構いませんわ。思い入れのある武器防具は、大切にするべきですもの」


 マーマリナは、返された武器防具を、嫌な顔せずに回収した。

 不満さの欠片もない表情に、武器を返した生徒の一人が問いかける。


「無駄になったって、怒らないのか?」

「あら。知り合いの習作を見て配りたいと思い付いただけのことですもの。実行できた段階で、満足ですわよ。それに、余った武器防具は、予備にすればいいだけですわよね」


 気にしないでと笑いかけられて、逆にその生徒の方が気まずくなった。

 その気まずそうな表情から視線をそらすように、マーマリナは別方向へと顔を向ける。

 視線の先にいたのは、背嚢の重量を手で持ち上げて試している、バジゴフィルメンテ。


「バジゴフィルメンテ様。明日からは、わたくしたちの派閥の平民寮の方々の統率役を担ってくださいな」


 その要請が以外だったのかバジゴフィルメンテは丸くした目をマーマリナに返した。


「僕の役目は、辺境についてからだと思ってたんだけど?」

「あら、それはどうしてですの?」

「僕は『大将軍』の曾孫ではあるけど、他の人を指揮したことがないからだよ。だから、僕の経験が生かせる、辺境についてからが出番だろうなって」

「地元で、冒険者の陣頭指揮をおとりになりませんでしたの?」

「魔境に入る際は、基本的に単独かラピザを伴ってだけだったから。指揮らしいことをしたのは、魔物の群れが森から出てきたときの一回だけだよ」

「一回でも経験があるのなら、心配いりませんわね」


 問答無用とばかりに、マーマリナはバジゴフィルメンテに統率役を任じた。

 バジゴフィルメンテは、困ったという表情をしてから、役目を引き受けた。

 その後、マーマリナは余剰となった武器防具を抱えて平民寮を出ていった。

 バジゴフィルメンテは、統率役を任じられたものの、同派閥の生徒たちに何かを言ったりすることはなかった。生徒たちが用意した背嚢とその中身に問題があると、そう知っているはずなのにもかかわらず。

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― 新着の感想 ―
親に勝ってもらった武器と防具
何を持っていくかまで自分で考えるってのは将来的にはいい経験になりそうですねえ 何人がちゃんと行軍が行えるやら
 失敗こそ成功の母。  人間間違えて痛い目を見た事柄に関しては真摯に向き合えるからね。
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