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187.兵士、勤務中

 王城に勤める兵士たちは、勤務時間中は常に天職に身を任せている状態でいる。

 これは天職が常に最適最善の動きを行うことを活かした、何かしらの問題が起こった際に素早く事態に対応するための方策である。

 だから兵士たちは、常に無表情のまま、王城の中を警備したり警邏したりしている。

 兵士のうちの一人も、自身の天職『兵士』に身を任せた状態で、通常の勤務に当たっていた。

 宰相の執務室の前を警備し、交代時間が来たので後任に場所を明け渡し、城内を警邏で巡ってから兵士の詰め所まで戻る。

 その警邏の道順の中で、兵士はある声を耳にした。


「聞いたか。アビズサビドゥリア王子が、我らに歩み寄ってくれたぞ」

「知っているとも。バジゴフィルメンテとやらを試す機会を、我らに与えてくれたことをな」


 城の廊下を歩く最中に聞こえた、そんな声。

 声の発生源は、貴族出身者の重鎮が働いている、とある部署の執務室からだ。

 これが普通の場所だったのなら、警邏中のこの兵士は足を止めて、気になる話の盗み聞きを行ったことだろう。

 しかし今は王城での勤めの最中。

 勤務時間中に天職に身を任せることを止めるわけにはいかない。

 それに兵士の役割は、そうした天職に身を任せることを止めて盗み聞きをする使用人の取り締まりも含まれている。

 職務に忠実なこの兵士は、どんな話をしているのか大変に気になったものの、業務に神経を傾けることで会話への興味から逃れることに成功する。

 警邏を終え、兵士の詰め所に戻ったところで、この兵士は天職に身を任せることを止めた。

 顔に表情が戻り、自分の意思で体を動かすように戻ってから、休憩中の仲間に話しかける。


「なあ、なにか知っているか? さっき、執務室の方から、こんな声が聞こえたんだが」


 兵士が声の内容を伝えると、兵士仲間の一人が知っていると声をあげた。


「俺、今日はアビズサビドゥリア王子の執務室の警備をやっていたんだ。その際に、かなりの人数の貴族を呼び集めて、ある通達をしたんだ。バジゴフィルメンテ、っていう人物の査定する機会を与えるとかなんとか」

「そうなのか。それで、バジゴフィルメンテって人のことを知っているヤツはいるか?」


 別の仲間の一人が手を上げた。


「知ってるぜ。バジゴフィルメンテってのは、学園の生徒の名前だ。いや、つい先日に卒業したから、生徒の名前ってのは変か?」

「その生徒が、どうして槍玉に上がっているんだ?」

「そりゃあもちろん、アマビプレバシオン王女の想い人だからだな」


 そう聞いて、詰め所の兵士一同が「ああー」と納得の声を上げた。


「姫様が生徒の一人にホの字だって聞いていたが、そいつの名前がバジゴフィルメンテだったか」

「でもその想い人って、たしかアマビプレバシオン王女と学園の同期で、一番の成績だって話じゃなかったか?」

「つーことは、またぞろ貴族どもの嫉妬による呼び出しか?」

「そう単純に考えるのは駄目じゃないか。発案者はアビズサビドゥリア王子だぞ。絶対に何かしらの裏を含ませてるって」


 勝手な意見や予想を口にして、兵士たちは盛り上がる。

 しかしある兵士の一言によって、会話が止まることになる。


「学園の生徒ってことは、そのバジゴフィルメンテって戦闘職だろ。その実力を確かめるってことは、つまり戦闘の腕前を見るってことだよな。じゃあソイツと、誰が戦うんだろうな」


 投げかけられた疑問に対して、兵士たちは一様に嫌な予感が走ったような顔に変わっていた。

 兵士たちは分かっている。

 城の執務室に勤めるような重鎮たちは、基本的に文官系の天職の持ち主だ。バジゴフィルメンテとやらの腕前を確かめる相手にはならない。

 では重鎮たちがバジゴフィルメンテの腕前を確かめようとする場合、戦闘向きの天職を持つ人物の協力が必要になる。

 そして重鎮に身近な戦力といえば、彼らの身の回りを警備している、兵士たちである。


「……いやいや。流石に学園の最優秀生徒が相手じゃ、『兵士』は力不足だって」

「いや、まず腕前の確認のために、俺たちに一当てしてこいと命令される可能性はあるぞ」

「『兵士』に負けるようならそれまで。勝ったら、『兵士』より上の戦闘職を呼び寄せるってことか?」

「勘弁してくれよ。俺らの勤務は城の警備であって、貴族どもに私的に使われることじゃないってーの」


 しかし、そういう嫌な予感が、得てして命中してしまうもの。

 唐突に兵士の詰め所の扉がノックされた。兵士の一人が入室の許可を出すと、開かれた扉の向こうには、男性の使用人の姿があった。

 使用人は、口を開く。


「休憩中に失礼いたします。皆様へ、アビズサビドゥリア王子からのご要望をお伝えします」


 続けて使用人が語った要望の内容は、『明日、バジゴフィルメンテの実力の披露をするため、兵士たちに対戦相手をやってほしい』というものだった。

 嫌な予感が当たったことに、兵士たちは肩をすくめる。

 救いは、兵士の勤務内容外でその身を使うからと、アビズサビドゥリアが特別報酬を約束してくれた点だった。

申し訳ありませんが、これから先の更新は三日に一度にさせていただきます。

ご迷惑をおかけしますが、ご理解のほどをよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
転職に身を任せると反応は早そうだけど、フェイクとか陽動まで読み切ってくれるのかしら……。
今更バジゴフィルメンテを実力のはっきりしない馬の骨扱いして下っ端で実力測る展開は流石に無理があるでしょ
イヤな予感、的中じゃんかwww
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