177.見抜かれて
ハッチェマヒオが新たな同調法を開始し、バジゴフィルメンテと斬り結ぶ。
斧と剣の刃が打ち合わされ、金属同士が奏でる響きが周囲へ。
いままでで一番の激しい打ち合いではあるが、しかし技量ではバジゴフィルメンテに軍配があがるようだった。
「片手斧の特性を上手く使わないと。例えば、斧頭と柄との間の空間を使うとかね」
バジゴフィルメンテが助言のようなことを言いながら、指摘した場所へと剣の先を刺し入れてきた。
ハッチェマヒオが、どういう積もりだと迷いを見せる。
その直後、バジゴフィルメンテが剣の先でハッチェマヒオの斧の頭を引っかけ、そして引きながら下へと振り抜いた。
この剣の動きに引っ張られ、ハッチェマヒオの斧を持つ手も下へと向かい、それに伴って体勢も崩されそうになる。
しかしハッチェマヒオは体勢が崩され切るより先に、バジゴフィルメンテの剣から斧を離すことに成功し、危機から脱した。
それでも、いまこのとき体勢の面で、バジゴフィルメンテの方が有利に立っている。
その有利な状況を最大限に活かすように、バジゴフィルメンテの剣が翻り、ハッチェマヒオの斧を持つ手へと迫ってきた。
ハッチェマヒオは、今から斧を動かして防御するのでは間に合わないと悟り、回避を選択する。
綺麗に回避するには時間が足りないため、地面に転がるようにして、バジゴフィルメンテの剣を避けきった。
ここでハッチェマヒオは、ただ地面を転がるだけでは済まさなかった。
「食らえ!」
地面に転がりながら、斧をバジゴフィルメンテへと振るう。
足の脛を狙った、低い軌道での振り回しだ。
これが命中すれば、勝負の決着はつかなくとも、バジゴフィルメンテの身動きを脛の痛みで阻害することができる。
そんなハッチェマヒオの思惑は、バジゴフィルメンテの飛び上がりで外されることになった。
「そっちがその気ならッ!」
飛び上がったバジゴフィルメンテが重力に引かれ、空中を落ちてくる。その手にある剣の先を、地面の上にいるハッチェマヒオの体に向けた状態で。
ハッチェマヒオは更に地面を転がって退避する。
下りてきたバジゴフィルメンテの剣が地面に刺さり、その直後に地面を剣先で抉りながら、ハッチェマヒオへと剣を更に振るってきた。
ハッチェマヒオは地面から立ち上がりながら、斧で剣を防いだ。
斧と剣が打ち合わされた音を危機ながら、ハッチェマヒオは大きく後ろへと跳んで距離をあけた。
攻防が一段落つき、ハッチェマヒオとバジゴフィルメンテは武器を構え直し合う。
地面を二回も転がったことで、ハッチェマヒオの運動着は土濡れになっている。
一方でバジゴフィルメンテの運動着は、運動ででた汗の染みはあっても、土汚れのない綺麗な状態のまま。
この汚れの差が実力の差であるかのように、ハッチェマヒオには感じられた。
しかし実力の差があろうと――いや、実力の差があるとわかっていても、ハッチェマヒオのハッチェマヒオに勝つ気は一切揺るがない。
「もはや、真っ当な方法では勝てないとわかった。なら、思いつく限りの手段をとらせてもらうぞ」
「何をしてくるか、楽しみだね」
ハッチェマヒオが覚悟を決めた表情をする一方で、バジゴフィルメンテは気楽そうな微笑み顔のままだ。
一呼吸の後、ハッチェマヒオは動く。
片手をあげて、バジゴフィルメンテへ火の魔法を放った。
武器の間合いの外とはいえ、魔法を放つには距離が近すぎだ。
この距離で魔法を放ってくるとは思ってなかったのか、バジゴフィルメンテの目が驚いたように見開かれる。
しかしバジゴフィルメンテは、飛んできた火の魔法を剣で両断して防いだ。その後で、感心したような口調で言葉を放ってきた。
「距離が近いから、僕に当たって火が巻き散ったら、その火はハッチェマヒオにかかったはず。僕が斬り裂いて消し去るから、火がかからないって判断かな?」
そんな評価を口にしているバジゴフィルメンテに、ハッチェマヒオは突撃していた。先ほど放った魔法を追いかける形で、走り寄っていたのだ。
魔法を斬り裂いて剣を振り下ろした状態のバジゴフィルメンテへ、ハッチェマヒオは斧を振り下ろす。
しかし、このハッチェマヒオの行動は予想の内だったのだろう、バジゴフィルメンテは振り下ろした剣をすかさずに振り上げて斧を迎撃した。
「魔法を放っても火がかからないのなら、距離を詰めても問題ないってわけだね」
「チッ。意表を突けると思ったんだがな!」
片手斧に風の魔法を新たに纏わせ、ハッチェマヒオは攻撃を続ける。
バジゴフィルメンテの剣が的確に翻り、斧の攻撃を打ち払い続ける。
その攻防の中で、ハッチェマヒオは斧を操っている右手ではなく、左手の平をバジゴフィルメンテの顔へと向けた。そしてその手の平から、火の魔法を放った。
至近距離での魔法使用。
バジゴフィルメンテに避ける時間はなく、そしてハッチェマヒオが退避する猶予もない。
二人の間で火の魔法が吹きあがり、ハッチェマヒオはバジゴフィルメンテと共に火の内に入り込む。
まさかの自爆攻撃に、観客から悲鳴のような声が上がる。
しかしその声も、直ぐに小さくなる。
なぜなら、ハッチェマヒオとバジゴフィルメンテが共に、火の中で斧と剣とで斬り結んでいたからだ。
「チッ。魔法で脅かせば、少しは同様すると思ったんだがな!」
「天職の力を発揮した状態の人には、天職の力が乗っていない攻撃は効かない。だから天職の力を持たせなかった魔法でなら、お互いに怪我を負わない。でも急に火の魔法を使えば、誰だって驚くって考えたわけだね」
「つまり、僕様の手は予想済みってわけか!」
「火の魔法を選択した時点でね。天職の力を乗せての自爆魔法攻撃なら、水や風とかの自爆被害が少ない方を、ハッチェマヒオは選ぶだろうからね」
「お見通しといいたいわけか、相変わらず、いけ好かない!」
見抜かれているのならと、ハッチェマヒオは対抗心から水の魔法を手から放った。今回は天職の力が乗った、当たれば痛い意力がある。
バジゴフィルメンテは攻防の最中であっても、その魔法を剣で斬ってみせた。
斬り裂かれた魔法の水は周囲に散り、そしてハッチェマヒオとバジゴフィルメンテの全身を濡らした。