164.やる気十分
バジゴフィルメンテが最終学期に入ったことで、ハッチェマヒオは目標を見失ったかのように、やる気を失っていた。
しかし、逼迫していたプルマフロタン辺境伯領の領地運営作業を必死にやった影響から、ハッチェマヒオの気分に活力が戻った。
そこで学園に戻ったハッチェマヒオは、卒業生追い出し大会でバジゴフィルメンテと戦うために、新たな方策を打ち出すことにした。
まずは、同期生の中で一番の成績を得ることを狙った。
座学に関しては、以前までと同じだし、やる気も戻ったので、特段何かをする必要はなく最上位の成績を取ることができる。
そして午後の実技授業にて、ハッチェマヒオは同期生の中で一番の強さを証明する戦いを始めた。
まずは同期生のうち、バジゴフィルメンテ式の教育を受けている全員を模擬戦で打ち負かすことにした。
「どうした。僕様一人に、全滅か?」
ハッチェマヒオは、学園内最強のバジゴフィルメンテに、その後ろ髪とはいえ一撃を入れた実力がある。
だからこそバジゴフィルメンテに実力が劣る連中に、ハッチェマヒオが遅れを取ることはない。
あっさりと全員を倒した後で、次にハッチェマヒオが標的としたのは、自分よりも先輩の生徒たち。
半年の課外授業に出ている、バジゴフィルメンテたち。
その代理を務めて、バジゴフィルメンテ式の指導をしている上級生たち。
そうした上級生たちを、ハッチェマヒオは模擬戦で次々に撃破していく。
「さあさあ、どうした。バジゴフィルメンテたち、派閥のトップがいないお前たちの実力は、こんなものか!」
「くそっ。いい気になりやがって」
「いい気になる? 当然だ! 僕様がこうして勝っているってことは、僕様が見つけた同調法が、バジゴフィルメンテ式よりも優れているって証明なんだからな!」
ハッチェマヒオは、上級生たちを模擬戦で叩きのめし、更には一対二、一対三という、自身が不利な状況でも勝ってみせた。
こうした無茶な模擬戦を連続して行うことで、ハッチェマヒオは自身の実力を飛躍的に伸ばしていく。
特に、ハッチェマヒオの発見した同調法にとって大事な、自分の天職の行動パターンを把握するという意味で、この度重なる模擬戦は役に立った。
それこそ、だいたいの『斧術師』の次の行動を、ハッチェマヒオは予測できるできるようになった。
全部でないのは、たまに現れる珍しい状況下で『斧術師』が、どう行動するかの情報が少ないから。
そんな珍しい状況なんて滅多に起こらないので、ハッチェマヒオは「追い出し大会までの時間は有限だし、おいおい把握すればいい」と先延ばしにする決断をした。
そんなこんなを行って、ハッチェマヒオは学園に今滞在している生徒の中で最強格となった。
この今の状況でも、次の追い出し大会では、ハッチェマヒオがバジゴフィルメンテと対戦する確率はかなり高いだろう。
しかし未だ、確実とは言えない。
そこでハッチェマヒオが最後の標的として、トレヴォーソであり天職『大剣豪』を選んだ。
前の追い出し大会で、『大剣豪』はバジゴフィルメンテと接戦――バジゴフィルメンテが多分に手加減していたこともあるが――を演じた。
ハッチェマヒオも、この学期中はトレヴォーソと友達として交流はしつつも、『大剣豪』と模擬戦を行ってはいないため、序列を付けられていない状況でもある。
以上の二点から、学園側が再び『大剣豪』をバジゴフィルメンテにぶつけようとすることも有り得る。
だからハッチェマヒオは、『大剣豪』に勝たなければならない。
そうできて初めて、現在学園にいる生徒の中では、ハッチェマヒオが一番の実力者であることを示すことができるのだ。
ここまで他の生徒たちと模擬戦を続けてきたのも、ハッチェマヒオが『大剣豪』に勝つための布石でしかない。
模擬戦を通して同調法を成長させ、その成長した同調法で『大剣豪』を倒す狙いがあったのだ。
準備万端整ったと、ハッチェマヒオはトレヴォーソに言葉を放つ。
「おい、『大剣豪』! 僕様と模擬戦をやってもらうぞ!」
ハッチェマヒオの宣言を受けて、『大剣豪』が動かすトレヴォーソの体が構えをとった。