156.やる気なし
アマビプレバシオンに負けた衝撃が日数を経ても抜けきれず、とうとうハッチェマヒオはバジゴフィルメンテに勝てないまま、課外授業の日にちが来てしまった。
これでハッチェマヒオがバジゴフィルメンテと戦える機会は、来期の卒業式にある追い出し大会だけになってしまった。
「はぁ~。情けないこと、この上ないな」
ハッチェマヒオが見つけた、天職との同調法。
これがバジゴフィルメンテに勝つ切り札になると思っていたのに、蓋を開ければ勝ちきれない一技術に留まる結果に収まってしまった。
「そのうえ、同調法の新たな方面を、アマビプレバシオン王女に気付かされてしまった」
行動の主たる部分を、天職に任せるのか、本人が舵取りをするのか。
同調法にとって、どちらが上の技術なのかを、ハッチェマヒオは決着を付けられていない。
ハッチェマヒオは今まで『斧術師』に体を任せる方法をとってきた。そのため、自分自身で戦闘行動を主導するような素地がない。だから検証することができない。
アマビプレバシオンに負けたことを考慮に入れれば、本人が行動の舵取りをする方が優秀なように思える。
しかしあの決着の仕方を考えると、アマビプレバシオンが仕掛けた罠にかかっただけで、二つのやり方の性能の良し悪しに決着がついたとも言い切れない。
そんな考えの堂々巡りを行いながら、ハッチェマヒオは課外授業へ出る隊列に沿って歩いている。
正直言って、ハッチェマヒオは課外授業に乗り気ではない。
こうして課外授業の時間を、同調法の習熟にあてたいと思っている。
なにせバジゴフィルメンテと学生のうちに戦える機会は、あと一回しかない。
しかも、その一回は確実に戦える保証がないものでもある。
戦う機会を得る方法は、ただ一つ。
来期のハッチェマヒオが、卒業生を除いたすべての生徒の中で、一番優秀であること。
そうなっていなければ、卒業生の中で一番優秀と認定されるであろうバジゴフィルメンテと戦えない。
「その目的を考えると、この課外授業も真面目に取り組むべきなのだろうが」
ハッチェマヒオは愚痴を零しながら、背後へと目を向ける。
課外授業の隊列の中で、ハッチェマヒオが歩いている場所は、同級生たちの一番前。
つまり現時点でハッチェマヒオは、同期限定なら一番優秀な生徒に位置づけられていることになる。
だから課外授業を張り切ったところで、今以上に立場が上がるとも思えなかった。
むしろ、いまから上級生たちよりも自分が優れていることを教師たちにアピールすることこそが重要ではないかと、ハッチェマヒオはつい考えてしまう。
そうした考えもあって、ハッチェマヒオはどうしても課外授業に乗り気になれなかった。
更に言えば、乗り気になれない理由は、もう一つあった。
それは、同期たちのハッチェマヒオに対する態度だ。
同期の中で従来法を学んでいるのは、ハッチェマヒオとトレヴォーソに加えて王城務めを目指す数人しかいない。
そんな少数派に対し、今では多数派となったバジゴフィルメンテ式の方法を学ぶ生徒たちは下に見てくる。これは、他の学期の生徒たちにも見られる状況になっている。
しかし同期生徒たちも馬鹿ではないようで、バジゴフィルメンテといい勝負をしたハッチェマヒオとトレヴォーソに対しては、一目を置いて突っかかってはこない。
だから結局は、王城務めを目指す数人だけが、同期の中で虐げられている存在と化した。
そして、その数人の生徒にしてみれば、ハッチェマヒオとトレヴォーソは同じ派閥とは考えられないようで、二人を遠巻きに扱うようになった。変に近づけば、他の生徒たちからの虐げ具合が酷くなると怯えているかのようにだ。
こうしてハッチェマヒオとトレヴォーソは、同期の中で二人だけ孤立することになった。
そしてトレヴォーソは、相変わらず常に『大剣豪』に身を任せ続けて暮らしている。
そのため実質的に、ハッチェマヒオは学園で一人のような状態に陥っている。
「課外授業では、他の生徒と組むことが推奨されているが」
ハッチェマヒオが視線を向けると、同期の生徒たちは意図して無視するように顔を背けてくる。
課外授業で同行する気がないという意思表示に、ハッチェマヒオのなかったやる気が更になくなった。
(この課外授業は、適当に済ますしかないな。やる気なしと判断されて成績を下げられるかもしれんが、他で挽回すればいい)
そう判断を下して、ハッチェマヒオは苦行に変わった課外授業をこなすことにだけ気を配ることにした。




