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133.領主館にて

 ハッチェマヒオは、同級生に魔物相手に戦わせる経験を積ませた際に、気になることがあった。

 森からノードンジの街まで戻ってから、ッチェマヒオは従来法を学んでいる生徒たちの状況を聞いて回った。

 それで、ハッチェマヒオが懸念していたことが合っていることを知った。


(全員が魔物と出くわしはしたが、大半が護衛の騎士ないし兵士に倒してもらった。魔物を倒した者たちも、全員で協力して倒したのか)


 ハッチェマヒオは、宿泊場所の領主館へ一人で戻りながら、どうしたものかと悩む。

 従来法を学んでいる生徒の大半は、神に祝福された土地――魔物の被害が皆無な場所に就職すると、ハッチェマヒオは聞いている。

 それなら、森で魔物の怖さを知っただけで十分だとも考えられる。


(だがいざというときのために、魔物の怖さだけでなく、魔物を倒した経験はしておいた方が良い)


 ハッチェマヒオには、覚えがある。

 幼い日に見た、森から多種多様な魔物とオーガたちが現れた際に感じた、あの恐怖を。

 そして一人だけの力で魔物を倒した際に感じた、あのときの恐怖を乗り越えたと感じて得た達成感を。

 どうせなら同級生たちにも、あの達成感を味わってほしい。あの達成感を知っていれば、後にどんな困難に遭遇しても、心の余裕がでてくるはずだからだ。

 しかし、その考えは独りよがりなものだと、理由を話しても魔物と戦うこと自体を望まない者も現れるだろうと、ハッチェマヒオは感じてもいた。

 

「希望者だけを連れていくという感じでいいか」


 そう結論がついたところで、領収館の勝手口――使用人が使う出入口に差し掛かっていた。

 ハッチェマヒオは、その勝手口から敷地内に入り、貸し与えられた使用人用の建物の一室へと向かう。

 部屋の中に入ると、プルマフロタン辺境伯領から連れてきた女性使用人が待ち構えていた。


「おかえりなさいませ、ハッチェマヒオ様」

「ああ、無事帰還した。それで、領主館で働かせてもらったのだろう? 館の中と領主の様子はどうだった?」

「多数の貴族出身の生徒とその使用人を泊めたことで、色々と忙しくしています。それ以外は特には」


 そんな受け答えをしあんがら、ハッチェマヒオは自分で装備品を体から外していく。やがて、下半身の下着一枚の姿になる。

 ハッチェマヒオの裸体は、学園に入学したばかりの少年だというのに、分厚い筋肉を脂肪の層で覆った大柄な体格だ。

 そんな大人顔負けの体を見せつけながら、ハッチェマヒオは両手両足を大の字に広げる。


「では、頼む」


 そう告げると、使用人がしずしずとハッチェマヒオに近づき、たおやかな手を伸ばす。

 使用人の手には濡れ手拭いがあり、それでハッチェマヒオの腕、胸元、腹周り、足と拭いていく。

 一通り拭き終わると、使用人が口を開いた。


「どこも疲労は少しだけです。これなら、少し揉むだけで明日は万全に戻るでしょう」


 体を拭きながらの触診の結果に、ハッチェマヒオは頷く。


「そうか。では、やってくれ」


 ハッチェマヒオがベッドに仰向けに横たわると、すぐに使用人が手腕を振るって、ハッチェマヒオの肉体を按摩で癒し始めた。

 一通り全身にある関節と筋肉の按摩が終わったら、次はハッチェマヒオはうつ伏せになり、その背中に女性使用人が跨った。

 ハッチェマヒオの肉体の中で、もっとも発達している場所が背中だ。そこを的確に揉み解すには、この体勢が一番適している。

 ぐいぐいと、女性使用人がハッチェマヒオの腰から肩までを丁寧に揉み上げていく。

 その心地よさに、ハッチェマヒオは森で魔物と戦った際に得た心身の疲れから、思わずウトウトとしてしまう。

 あと少しで按摩が仕上がるというところで、やおら使用人がハッチェマヒオの体の上から退いた。

 どうしたのかと問いかけようとして、この部屋に近づく足音が聞こえてきた。

 ハッチェマヒオはベッドから降りると、揉み残りが気になりつつも、服の着替えに袖を通すことにした。

 その着替えの途中で、部屋の扉がノックされた。

 ハッチェマヒオは頷いて、使用人に扉を開けるように促した。

 部屋にやってきた人物は、見た目で使用人の中でも上位の者だとわかる、老年の執事。見た顔ではないので、領主館に勤めている者だろう。


「これは、御着替えのお途中でございましたか。終わるまでお待ちして――」

「気にするな。用を言え」


 貴族は、使用人は家具と同じ扱いをするべきだと学ばされる。

 他所の家の家具に半裸を見られたところで、恥ずかしさを感じる意味はない。

 そういう意識でハッチェマヒオでいると、老執事は深々と頭を下げてきた。


「ハッチェマヒオ・セック・プルマフロタン様には、お部屋を移っていただきたく、お願いに参上仕りました」

「おや? 僕様は『大剣豪』のお世話係だったはずでは? お世話係だから、使用人の部屋で十分なのだろう?」

「いえ、まさか、そんなことは」

「この領主館の主に、僕様はそう言われたのだ。領主の使用人であるお前も、そう扱うべきだよな?」


 ハッチェマヒオは着替え終わったので、改めて老執事へ向き直った。

 老執事は表情を繕ってはいたが、顔色が少し青く変わっている。

 その理由について、ハッチェマヒオは察していた。


「僕様が、同期の中で一番の成績優秀者であること。従来の方法で学ぶ新入生たちの中でリーダー的立場にいること。それらを今更知ったといったわけだな?」

「お恥ずかしながら、『大剣豪』様を重視するあまり、他の情報収集が疎かになっておりました」


 老執事は再び深々と頭を下げてくる。

 怒りはもっともだが、この身一つで寛恕願いたい、という意図が見えた。

 ハッチェマヒオは、老執事の命など要らないし怒り続けてもいなかったが、領主から侮辱を受けたことを許す気にもならなかった。


「部屋の移り変わりなど、ご免だな。もうすでに一泊したんだ。残り二日をこの部屋で寝泊りするのも悪くない。それに別の辺境にある我が辺境伯家と、この辺境地を預かるそちらの家が繋がることはない。気にせず、付き合いのある貴族家の子をもてなすことに集中すればいい」

「そんなことを仰らず」

「議論する気はない。これ以上何か言うようなら、館から出て外に宿を取る」


 ハッチェマヒオが頑なな態度を崩さずにいると、老執事は諦めたようだった。


「そういうことでしたら、今まで通り、こちらのお部屋をお使いください。お食事については、本宅にお泊りの方々と同じものを――」

「手間がかかるだおろうから、使用人のものでいい。僕様の使用人に持ちに行かせるから用意しておけ」


 なしの礫を浴びせられて、老執事はしおしおとした態度で部屋前から去っていった。

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