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130.魔境の森

 課外授業で、魔境の森にて魔物と戦う。

 その目的を果たすため、ハッチェマヒオは他三人の生徒と護衛役の騎士一名と共に、ノードンジの森の中へと入った。


(ふん。プルマフロタン辺境伯領の森とは、少し臭いが違うな)


 ハッチェマヒオの故郷の森では、濃厚な木々と草の臭いがしていた。

 しかしノードンジの森では、植物よりも人の臭いを強く感じた。


(故郷は『大将軍』の曾祖父様が拓いてから百年も経っていない場所。ノードンジは辺境開拓が始まった当初から長年に渡って開拓を行ってきた場所。その年月の違いだろうか)


 なんであれ、故郷とは違う森であることを、ハッチェマヒオは強く意識した。

 故郷の森と同じように行動しては足をすくわれかねないと、気を引き締め直した。

 ハッチェマヒオは、初めて森に入ったときのように、周囲に強く気を配りながら少しずつ森の奥へと向かって進んでいく。

 今回の目的は、魔物と戦うこと。特に、連れてきた生徒三人に魔物と戦う経験を積ませることだ。

 その目的を考えると、森の奥を目指す意味はない。

 出来れば森の際の近くで、大して強くない魔物と戦うべきだ。

 ハッチェマヒオは目的意識をしっかりと持ち続けながら、森の中で魔物の姿を探しながら歩く。

 しかし、なかなか魔物と出くわさない。

 このままの調子で森を進むと、予定していたよりも森の奥に入ってしまいかねない。

 ハッチェマヒオは、森の中を歩いて魔物を探すことを切り上げることにした。

 その代わりに、戦いやすそうな場所――木々の感覚が開いていて、下草があまりなく、邪魔な石や根が地面から出ていない場所を確保することにした。

 その上で、手斧で軽く周囲の木々の枝を払って、さらに場所を拓けたものへと変えた。

 ハッチェマヒオは、動き具合を確かめるため、確保した場所で片手斧を振り回して確認。

 この行動がどう見えているのかは、連れてきた生徒三人も護衛の騎士も、意味不明な物を見る目をしているのを確認したので分かった。


「おい。武器を構えておけ。これから魔物を呼び寄せるからな」

「呼び、寄せる?」

「そうだ。魔物は、人が森の中にいると知ると、勢いよく近づいてくる。その習性を利用するんだ。僕様の魔法を使ってだ」


 ハッチェマヒオはぞんざいな説明をすると、魔法を使って手から風の球を発射した。

 風の球は森の木々の間を飛んでいき、やがて一本の木の幹に当たって大きな音を立てた。

 大きく手と手を鳴り合わせたような音が、森の中に響いていく。

 すると、少し先の方から、草を掻き分ける音が聞こえてきた。

 音の大きさと方向から、小型の魔物で数は少数だと、ハッチェマヒオは把握した。

 ハッチェマヒオが手斧を構え、魔物の襲来に備える。

 すると現れたのは、角兎アルミラージ一匹と、縄のような太さの蛇一匹が現れた。

 ハッチェマヒオは、それぞれの脅威度を測り、未知である蛇に狙いを絞ることにした。


「ならまずは!」


 ハッチェマヒオは、『斧術師』に身を任せずに、片手斧で角兎を思いっきり横へと殴打した。

 もちろん、天職の力が乗ってない一撃なので、角兎にダメージを与えることはできない。

 しかし殴られた衝撃で、角兎は横へと弾き飛ばされており、ほんの数秒間戦闘域から離脱することになっている。

 その数秒のうちに、ハッチェマヒオは蛇の魔物に対処することにした。

 蛇の魔物は、地面を這って近づいてきていたが、ある場所からいきなりハッチェマヒオに向かって飛び掛かってきた。

 その行動に驚きつつも、ハッチェマヒオは自分の体を『斧術師』に任せた。

 するとハッチェマヒオの体が勝手に動きだし、喉を目掛けて大口をあける蛇の魔物へと、片手斧を振り回した。

 天職の力が乗った片手斧の一撃は、蛇の魔物の頭を斜め下から上に両断した。

 頭を失った蛇の魔物の胴体は、地面に落ちてもぐるぐると身をくねらせて、生命力の強さを表している。


「さてと、次だ」


 ハッチェマヒオは『斧術師』から体の支配権を戻すと、さっき弾き飛ばした角兎が戻ってくる姿を視界に入れる。

 ハッチェマヒオは、角兎の身動きを確認し、飛び掛かってきたのに合わせて、斧を上から下へと振って当てた。

 斧で撃ち落とされた角兎は、天職の力が乗らない攻撃だったので、傷一つついていない。そのため、地面に落下した直後に直ぐに動き出そうとする。

 しかしそれより先に、ハッチェマヒオが角兎の頭を手で押さえつける方が早かった。

 押さえつけ方は、ハッチェマヒオは故郷の森で散々やったので手馴れている。

 額にある刃のような角に体が傷つけられないよう、手指の間に角を挟んで持つのが肝要だ。その上で、力いっぱいに押さえつけて、頭を振り回させないようにする。


「良し。おい、お前たち。こっちに来て、この魔物を倒してみろ!」


 ハッチェマヒオが声をかけると、ここでようやく生徒三人が動き始めた。

 恐る恐るハッチェマヒオに近づき、その手の中で暴れている、かなり大きな兎の魔物の様子を見る。

 そのモタモタした行動に、ハッチェマヒオが怒声を上げる。


「おい! こうして押さえつけているのも疲れるんだ! さっさと天職に身を預けて、こいつを倒せよ!」


 ハッチェマヒオの声に突き動かされるようにして、生徒三人はそれぞれの武器を構えると天職に身を任せようと試み始める。

 しかし、魔物を初めて見た衝撃を受けているからか、それとも学園とは違う森の中だからか、なかなか天職に身を任せることに成功しない。

 時間がかかっていることを問題視したのか、ハッチェマヒオが押さえつけ続けることに失敗しても対処できるようにか、護衛役の騎士が剝き身の剣を構えていざというときの準備をしている。

 そうこうしているうちに、三人の生徒の内の一人が天職に身を任せることに成功した。

 手にした武器が翻り、ハッチェマヒオが押さえつけていた角兎に鋭い突きを与えて絶命させた。


「一人成功だな。じゃあ、残り二人が成功するまで、同じことをやるからな」


 ハッチェマヒオは宣言すると、仕留めた魔物二匹を場所の端へと移動させてから、魔法を使って魔物のおびき寄せを行った。

 その後、寄ってきた魔物を相手に、三人目の生徒が天職に身を預けるまで、同じことが繰り返された。


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― 新着の感想 ―
> jun 全然違うだろ、最近流行りのAIで言うと バジコフィルメンテ流=手書き ハッチェマヒオ流=AIに細かい指示を出したり破綻しているところを上書き修正 大剣豪流=AI出力そのまま バジコフィルメ…
天職に任せっぱなしにしないなら バジコフィルメンテ流と変わらないのでは? 身を任せるのはあくまで自転車の補助輪のようなもの。 天職の力を道具として上手く利用している。 少なくとも大剣豪の在り方とは違う…
ハッチェマヒオいいですねー、判断も早くて面倒見もいい 真っ当な天職の扱い方をする人間ならこういう形を目指すといいんだろなあ
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