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101.噂話

 ラピザは、バジゴフィルメンテの侍女である。

 しかしバジゴフィルメンテが自分のことは自分でできる人なので、昨今のラピザは侍女らしいことが出来ていない。

 でもラピザは、自身の天職が『暗殺者』なこともあって、侍女としての仕事がないことに後ろめたさは感じていなかった。

 むしろ、自分がいるだけで、バジゴフィルメンテの貴族子息としての対外的な面子が保たれているとすら考えている。

 そんな考えでいるため、バジゴフィルメンテが学園で勉強をしている間に、王都の街に繰り出して散策したり、『暗殺者』を活かして金稼ぎすることもやる。

 一応の建前で、バジゴフィルメンテのために、人々の噂を収集するということにしてだ。

 この日のラピザは、『暗殺者』特有の身軽さを活かして、雨漏りがする家の屋根の修復を請け負って小銭を稼いだ。

 その帰り道、稼いだ金で屋台飯を買い、少し路地に入って飲み食いしていると、路地の奥から人の会話が聞こえた来た。


「なあ、知っているか。貧民街に住んでいた奴らが、何時の間にか消えているっていう噂」

「ああ、聞いた聞いた。なんでも、綺麗なお嬢ちゃんが現れて、それからしばらくすると消えるっていうヤツだよな」


 その噂について、ラピザは詳しいことを知っていた。

 バジゴフィルメンテ式の天職の扱い方を覚えた貧民街の人達が、訓練の果てに再び天職の力を扱えるようになる。その人達を、マーマリナが勧誘して実家へと移送する。

 そうした行動の結果、貧民街から人が離れていき、貧民街にたまに入る人の目には消えたかのように見えるというだけ。

 大した話じゃないなとラピザが思っていると、噂話が別の方向に推移していくのを耳にする。


「なんでも、消えた連中ってのが、働けなくなった生産技術持ちばっかりだから、困った事態になっているらしいぜ」

「困るって、誰がだ。貧民街の連中に安値で仕事を頼んでいた連中のことか?」

「違う。貧民街を根城にしている悪たれどもだ。消えた連中の伝手を使って、色々な物を入手していたって話だ」

「犯罪の加担を恐れ、悪たれに物を売る店は少ない。一方で働けなくなったヤツも、食うためには金がいる。だから、働けているうちに作ってあった伝手を使って物品を買い、それを悪たれに転売し、その利ざやで食っていたってわけか」

「なににせよだ。悪たれたちは、物が手に入らなくてイラついているらしい。このままいくと、どこかの店を襲うんじゃないかって噂も聞く。それも貧民街の外の店をだ」

「馬鹿だろ、そりゃ。悪たれたちが見逃されているのは、奴らの影響が貧民街だけで済んでるからだ。その外で犯罪を行ったら、『兵士』が出張ってくるぜ」

「連中もそれは分っているはずだ。でも、そうしないといけないところまで、追い詰められているんだろうさ」


 ラピザは、会話を盗み機器しつつ、噂の信憑性について考える。

 貧民街にいる犯罪者たちが、物資を買えないということはないはず。

 商店の表では買えなくても、裏口からこっそり買う方法は幾らでもある。裏取引なので、表で買うよりも高い値段で買うことにはなるだろうけれどもだ。

 むしろ連中が抱える問題は、貧民街に住む人数が減った方だろう。

 犯罪者たちの金の稼ぎ方など、強請り集りが精々。

 標的になる人の数が少なくなれば、自ずと収入は減ってしまうもの。


(噂の大部分が真実だとするのなら、店で高値で買うしかないのに、収入が減ってロクに買えなくなった、ってところでしょうね)


 ラピザは結論をまとめると、再び盗み聞きに集中する。


「他にも、悪たれについての噂がある。貧民街から人を連れ去るヤツに懸賞金を懸けたらしいんだ」

「誰か分かってんのか?」

「分ってない。だから、怪しいと見たヤツをとっ捕まえているんだと。間違っていても、難癖付けて金を巻き上げるんだとよ」

「おっかねえ。貧民街には近づかねえようにしよう」

「それとな、噂はもう一つあるんだ。それも、悪たれと貴族が繋がっているんじゃないかっていう、危ない噂がな」

「ちょっと待て。それだと話が変わってくるだろ」


 悪たれの後ろの貴族がいれば、貧民街の外で犯罪を行っても、『兵士』や『警邏』に捕まらない可能性がでてくる。

 由々しき事態になりそうだと、話を聞いていた方が焦るのも無理はない。

 しかし、噂を話している方の人は、焦った様子はなかった。


「気にしなくていいんだよ。その貴族ってのが狙っているのが、なんでも学園の生徒って話でな。貧民街の外で、それ以外の人に手を出したら、むしろ貴族に手を切られるんだとよ」

「……やけに詳しいな、お前」

「昔馴染みに、悪たれがいるんだよ。そいつに協力を頼まれたんだ。貴族からの仕事だから心配いらない、ってよ」

「受けたのか?」

「学園の生徒を見かけたら知らせるって、言っただけ。真面目に探したりはしねえよ」


 そこまでの会話を聞いたラピザは、買った物も食べ終えたしと、場を離れることにした。


(恐らく貴族は特定の生徒――例えばバジゴフィルメンテ様とかマーマリナ様を指定して、悪たれに依頼したんでしょうけど)


 悪たれなどという貧民街の犯罪者の頭では、詳しい依頼内容を覚えきれない。

 だから印象的な点である、学園の生徒、だけを覚えているんだろう。

 そうラピザは判断しつつ、学園に戻ってバジゴフィルメンテに噂話の内容を伝えることにした。

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― 新着の感想 ―
あらあら、バジゴフィルメンテの行動が回り回って貧民街の浄化に繋がるとは 困ってるのが悪たれ以外にはいないってのがいいね
実の父に暗殺者を送られて気に病むどころか剣の糧にするような漢は、新しいおもちゃに喜びはすれど厭いはしないでしょう。 マーマリナ様は器が見極められそうです。 個人的には蹴拳士は期待の天職なので、もっと…
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