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(番外編)セリとナズナとふたりの駆け落ち未遂

3月4日 どようび てんき はれ


きょう、わたしがおうちでおるすばんをしていると、セリくんがあそびにきました。セリくんは、いつもわたしとあそんでくれるお友だちです。


ナズナちゃん、二人でゆうえんちに行こうよ、とセリくんは言いました。わたしは、きょうはおるすばんの日だし、うら山のゆうえんちあとに入ってはいけないよといつもおじいちゃんに言われているのでセリくんごめんね、いけないのと言いました。


するとセリくんは、ナズナちゃんのおじいちゃんとはお話してあるし、それにゆうえんちといってもうら山のじゃないよ、東京にあるもっと大きくて楽しいゆうえんちだよと言いました。


わたしは、おじいちゃんも知っていることなら大じょうぶだし、大きなゆうえんちも行ってみたくなったので。じゃあいいわよと言って、きちんと戸じまりをして、それからセリくんとおでかけをしました。


セリくんは、いつも楽しいあそびや、ゆかいなお話をして、わたしを楽しませてくれるお友だちです。きょうも、駅までに行くとちゅうで、東京にある大きなゆうえんちのことをたくさんたくさん、楽しく話してくれました。


そのゆうえんちには大きなお城があって、ネズミの王様とお妃さまと、たくさんのゆかいな生きものが住んでいるから、ぼくらもお城のやねうらに住もうよと、セリくんは言いました。食べ物なんてゆうえんちのレストランで食べほうだいだよと言いました。


でも、わたしはネズミがあんまり好きじゃないし、レストランから勝手に食べ物を食べたらそれはどろぼうよといいました。セリくんはこまったなあどうしようと言っていました。


それに、セリくんは知らないみたいでしたが、わたしは、そのゆうえんちが東京ではなくてちば県にあるのよとおしえてあげました。だってみんな東京って言ってるじゃんとセリくんが言うので、わたしはどうせ住むなら東京ドイツ村がいいなあと言いました。やねうらよりも、村のほうがすてきだと思うからです。


ドイツかあ、それはずいぶん遠いなあなんてセリくんが言うので、わたしはくすくすと笑いました。セリくんはこんなふうにいつもじょうだんばっかり言っているのです。


駅についてホームに上がると(きっぷはセリくんが持っていました)、そこにはセリくんのお母さん、スズナさんがベンチに座っていました。スズナさんがまあナズナちゃんこんにちはといったので、わたしもスズナさんにごあいさつしました。スズナさんはスマホを持っていて、いまナズナちゃんのおじいさんとお電話しているところなのよと言いました。


セリくんは二人でゆうえんちに行こうよなんて言ってたけれど、わたしはそれがじょうだんなんだとわかっていました。子ども二人だけでゆうえんちに行っても入れないし、おこられるからです。無りょうのしょうたい券をいただいてね、セリがナズナちゃんをさそいに行ったのよとスズナさんはいいました。わたしはうれしくなってわーセリくんありがとうと言ったら、セリくんは急にだまってモゴモゴしていました。


スズナさんが両手でセリくんとわたしとをつないで、手をはなしてはいけませんよ、まい子になってしまいますからといって電車に乗りました。電車の中では、学校の勉きょうの話や、おうちでお手つだいしていることなどを話しました。ナズナちゃんはえらいわねえとスズナさんが言うので、そんなことはありません、当たり前のことをしているだけですと言いました。


その間、セリくんはずっとだまったままで、なんだか気分が悪そうでした。セリくん大丈夫、と私がきいても、電車のゆかを見ているばかりでおへんじもしてくれません。これはきっと乗りものよいねとスズナさんが言いました。ゆうえんちについたら大丈夫よと言いました。


ゆうえんちについたら、セリくんのお父さん、スズシロさんが待っていました。わたしたち4人で、いろんなアトラクションに乗ったり、いろんなキャラクターとあそんだりしました。ネズミの王様とお妃さまもいました。わたしがそうぞうしていたよりもずっとかわいいネズミだったので、こんなネズミならやねうらでいっしょに住むのも楽しいねとセリくんに言ったら、セリくんは顔をくしゃっとさせてわたしをわらわせようとしました。


セリくんはゆうえんちについてもずっとぐあいが悪そうで、へんじもしてくれません。わたしは楽しいけれど、これではセリくんがたいへんだなと思いました。


つぎはゴーストマンションに入りましょうとスズナさんが言いました、ゴーストマンションというのはとってもこわいお化けやしきだそうです。わたしはお化けがこわいのでにがてなのですが、お化けがこわいというのはなんだか子どもっぽいなあとおもったので、つくりもので人をこわがらせるのはよくないと思いますといいました。おどろいた、ナズナちゃんは立派だねえとスズシロさんが言いました。じゃあナズナちゃんは、おじさんとジュースを飲んで待っていようよ。スズナさん、セリをよろしくと言いました。セリくんはだまったままスズナさんに連れられてゴーストマンションの方に行きました。


ナズナちゃん、いつもセリをありがとう、お世話になっていますねとスズシロさんが言うので、わたしもいつもセリくんにはお世話になっています、今日もいっしょにゆうえんちにさそってくれてうれしいですと言いました。


ジュースを飲んで待っていると、セリくんとスズナさんが来ました。スズナさんはとても楽しそうで、気のせいかお肌もさっきよりキラキラかがやいているようにみえました。でもセリくんはますますぐあいが悪そうでした。なんだか、本当にお化けに出会ったのか、もっとこわい目にあったようでした。セリくんも、本当はお化けがこわかったんだなあとわたしは思いました。うそをついてゴーストマンションに行かなかったわたしより、こわくてもゆう気を持ってすすんだセリくんのほうがえらいなあと思いました。


わたしはセリくんえらいね、わたしがいるからだいじょうぶよと言って、セリくんの頭をなでてあげました。


するとセリくんは、がまんができなくなったのかわあわあ大声で泣き出してしまいました。ナズナちゃんごめんねごめんねと言いました。あやまることなんてありません。よく、男の子は泣かないなんて言う人がいるけれど、泣きたいときに泣くことは、男の子も女の子も同じだと思うからです。


その後はみんなで電車で帰りました。セリくんもわたしもねむってしまって、気がついたらうちでおじいちゃんがお布団をしいてくれました。



4月11日 (月) 曇天


 道場からの帰り道、駅前でばったりセリに出会った。今日は祖父が仕事で出ているので夕食は外食なのだと私が言ったら、セリの方も一人で外食だという。なんでもセリのお母様、スズナさんの元気が良いからなのだそうだ。スズナさんの元気が良いとなぜ一人で外食することになるのかと尋ねたら、あからさまに話を逸らされたので、それ以上は聞かなかった。当人が話したがらないことを無理に聞き出すのはよくない。


 結局、駅前のスタンドそば屋に入ることにした。セリは「カレーカツ丼大盛」なる、カロリーの爆弾みたいなものをモリモリ食べていた。考えてみると昔からよく食べる子だったし、およそ運動しているのを見たことがない。それでもセリはいつもスマートなままだな。いつかそのダイエットの秘密を聞き出してやる!


 万年金欠病のわたしはかけそばを注文したのだけれど、御主人は「ゴギョウさんにはいつもお世話になっているから」といって天ぷらと卵をサービスしてくれた。祖父は、よく街の人の相談に乗ったり、トラブルを解決したりしているらしい。そういうことを話す人ではないので詳しいことは私もよくは知らないのだけれど、商店街で買い物をしたり、ただ街を歩いているだけでも、祖父への感謝の言葉をもらったり、ちょっとしたサービスを受けることがある。


 それを素直に私が受けていいのかどうか考え物ではあるのだけれど、今日の稽古は特に厳しかった。背に腹は代えられない、有難く頂戴した。武士は食わねば高楊枝もできないのだ。


 「かけ」そばに卵を「落と」したからだろうか、ふと思い出したことがある。最近クラスの女子の間で流行っている小説を借りて読んでみたのだが、テーマが「駆け落ち」だったのだ。現代の日本を舞台に女子高生ふたりのカップル(そういうのが女子の間で流行っているのだ)が駆け落ちを試みるという設定。


「現代日本で駆け落ちなんてナンセンスだよねえ」とぽろっと言ったら、


 きっかり3分間、セリは固まっていた。あれはなんだ、流行りのギャグか何かか?セリは時々、こちらがリアクションに困るようなことをする。もっとコミュニケーション能力を高めないと、友達のひとつも出来んぞセリくん。



 明日の朝は燃えないゴミ出し。忘れぬように記しておく。

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